作曲家別 P-R

姓のアルファベット順。



Charlemagne Palestine
Schlingen-Blangen

1999 New World Records  80578-2

シャルルマーニュ・パレシュタイン(1945-)がNew Worldから出ているという事実は
それだけで彼が現代音楽の作曲家というカテゴライズが十分に可能である事実を示していて、
かつそれだけのアカデミックな内容を伴った作曲を行っている証左になりえますね。
そんな彼のオルガンソロによる70分の大作。
神々しい穏やかな和音で始まり、少しずつゆっくりと音が膨らんでいく。
温かい和音は次第に空間を埋めていき、巨大な世界を作っていく。
オルガンドローンは素晴らしいものが多いですが、
彼の手による作品はどれも、その中でも文句なしに最上のもの。
ちなみにこの音源のミキシング(リミックス)はイングラム・マーシャルが行ってたりする。



グレゴリオ・パニアグワ
ラ・スパーニャ
-「ラ・スパーニャ」を定旋律とする15〜17世紀の器楽合奏曲

アトリウム・ムジケー古楽合奏団
1988 エジソンレコード  32EB-1012

このアルバムは「ラ・スパーニャ」と呼ばれる定旋律の主題が使われた曲やその派生、
あるいはそれの大流行が元になり作り出されたと思われる曲を集めたもの。
ひとつの主題が手をかえ品をかえ幅広く展開されます。
これを聴けば、当時この旋律がどれだけ伝播し、「スペイン風」のイメージを決定付けたかがうなづけるというもの。
パニアグワは元は医学を志していた人間ですが、チェロ→ヴィオラ・ダ・ガンバと古楽へのめりこみ精力的な活動をしている人です。
古楽をただ演奏するだけでなく、自分なりの徹底した考証を元に古楽を想像・再現してしまうことで有名らしいですね。
自分は古楽を殆ど聴かないですが、このCDを聴いても面白い活動をする人だと思いました。
様々な楽器以外の音源も用い昔の音を再現しようとする努力、自由で華々しい音たちからもそれが伺えました。
余裕があれば他にもいろいろ聴いてみたいです。



Andrzej Panufnik
Percussion Concert
Sinfonia Concertante for Flute, Harp and Strings,
Concertino for Timpani, Percussion and Strings, Harmony

Karen Jones,Fl.  Rachel Masters,Hp.  Richard Benjafield,Perc.
Graham Cole,Timp.  London Musici  Mark Stephenson,Cond.
1994 Conifer  75605 51217 2

ポーランド現代音楽における代表格の一人だったアンジェイ・パヌフニク(1914-91)の作品集。
フルート、ハープと弦楽のための「シンフォニア・コンチェルタンテ」(1974)
は彼の4つめの交響曲にあたるもの。ハープの密やかで非現実的なソロとフルートの淡い動機に導かれ、
弦楽が感情豊かに、非調性の感覚を持ちながら音楽を盛り上げる。
前半の美しい音楽とは対照的に、第2楽章はコントラバスの低い撥弦音で開始。
非常にリズミカル(Molto ritmico)に、跳ねるように展開します。けれど、あくまで根幹は同じ主題からの発展。
そのため楽想に統一感がはっきりと表れていますね。
華麗に盛り上がるだけ盛り上がったら、最後は「ポストスクリプト」で冒頭へ回帰して終了。
「ティンパニ、打楽器と弦楽のための協奏曲」(1980)ではF-G-B-Cの音列が主幹。
鐘によるモチーフののち、弦楽がそれを反芻してヴィブラフォンへ橋渡し。
主部ともいえる「歌(Canto)」ではじわじわとアンダンテのワルツが性急な打楽器で緊張感へ変えられる。
マーチのような小気味よさを打楽器が強調する間奏曲を挟み、Canto IIでは怪しい美しさが全開。
このヴィブラフォンの響きが非常に美しいアクセントです。
最後の楽章、それまでを一掃するかのごとく激しく弦楽器が動き、ティンパニとドラム群が打ち鳴らされる。
全体を通して、どこかひそやかで現実離れした均整美を持っているのはパヌフニクの作品らしい。
「ハーモニー」(1989)は「室内楽のための詩」という副題を持っています。
8または9音音階を使った半音階風の和声と音列を組み合わせた旋律というがちがちの構成ですが、
音楽は彼らしい独特の浮遊感を使って、妖しく美しく織り上げた作品に仕上がっています。

演奏、というか録音がコニファーらしくちょっと端正にまとまりすぎてる感じだけれど、
演奏自体が似たような傾向を持っているので、そういう意味では合っていた録音。
派手じゃないけれど、きっちり音の構造が見えてくる良い演奏です。



Paul Paray
Symphony No.1 in C major, Mass for the 500th Anniversary of the Death of Joan of Arc

Lorna Haywood,Sp.  Terry Patrick-Harris,M.Sp.  Joseph Harris,Tn.  Jozik Koc,B.Br.
Royal Scottish National Orchestra & Choir  James Paul,cond.
1997 Reference Recordings  RR-78CD

ポール・パレー(1886-1979)はデトロイト交響楽団を初めとして、多くのオケを振った名指揮者。
が、彼はその実ローマ大賞一等を取るほどの腕前を持った作曲者でもありました。
このCDは、彼の代表作が聴ける代表盤であり、決定盤的なもの。
「交響曲第1番」は1934年に書かれたもの。しっかりした確固たる構成の上で、やや新古典主義的な音楽が作られる。
作りはジャーマン的な堅さがありますが、フランス的な洒脱さがあるお陰で流麗な音楽になっています。
そこはさすがフランス出身といった風でしょうか。聴いていて非常に爽快。
「ジャンヌ・ダルク没後500周年のためのミサ曲」は1931年に書かれ、フローラン・シュミットにも賞賛された曲。
重く荘厳で、けれど美しく壮大な第1曲「キリエ」からもう素晴らしいです。
「グロリア」の嬉々とした長い展開の末現れるクライマックス、粗野で大きな盛り上がりを見せる「サンクトゥス」、
独唱の美しい平和な「ベネディクトゥス」、そして最後は安らかな眠りを誘う静かな「アニュス・デイ」で終わる。

なお、解説には指揮者のジェームズ・ポールがパレーとの出会いを長々と語っています。
確かに気合の入りようが分かる素晴らしい演奏。
曲・演奏双方がまたとなくよく練られた、名盤といって差し支えないものでしょう。



Thierry Pecou
Symphonie du Jaguar, Vague de pierre

Ensemble Zellig  Orchestre Philharmonique de Radio France  Francais-Xavier Roth/Jonathan Stockhammer,Con.
2010 harmonia mundi  HMC 905267

パリ音楽院で学んだブローニュ=ビヤンクール出身の作曲家ティエリー・ペク(1965-)の作品集。
「ジャガー交響曲」はマヤ文明をモチーフにした大作。
木管の激しい上昇音形の反復に支えられて、メゾソプラノ達の歌が始まる。
その後も、激しい各楽器の動きは絶えず音楽を細やかに動かしながら、プリミティヴな躍動感と
西洋的な構造美を絶妙に響かせる。オスティナートがかなり音楽の根幹を作っているのが聴きやすくていい。
ペクなりのエキゾチシズムはこの曲で面白いくらいリズミカルにも現れていて、
現代フランスの作曲家がレブエルタスあたりをインスパイアしました、とでもいうような内容。
ディジュリドゥまで入り込んできて、まあ考証はともかく音響としては非常に面白い。
第3楽章のハチャメチャな祭典から最終楽章の不気味な静止感の緊張へ移るあたりかっこいい。
「石の波」は17世紀中国の画家石濤に触発されたもの。
こちらは幾分か古典的な交響的構成をもって聞かせてくれる。
重い冒頭、ティンパニのソロ。次第にあらわれるオスティナートに音楽は強く巻き込まれて瓦解していく。
楽章ごとに性格をはっきりと異にした音楽が展開する、こちらは正統派かつ現代らしい交響曲形式でした。
やっぱり派手な「ジャガー交響曲」を聴き返したくなるけど、出来はどちらも悪くない。



Vincent Persichetti
Serenade No.5 Op.43, Symphony for Strings(Symphony No.5) Op.61, Symphony No.8

The Louisville Orchestra  Robert Whitney & Jorge Mester,Cond.
2005 first edition(Santa Fe Music Group)  FECD-0034

アメリカの作曲家、ヴィンセント・パーシケッティ(1915-1987)の管弦楽作品。
吹奏楽ファンの方がもしかしたら知ってるのかな?「ああ、涼しい谷間」とか「吹奏楽のためのディヴェルティメント」とか。
最初の「セレナード第5番」は短い楽想からなる6楽章編成の曲。
正統派アメリカン・クラシックらしい、古典的な確固とした構造ながらも、どこか軽い音楽。
1960年のモノラル録音なので音質は良くないですが、まだ聴ける方です。演奏はかなりしっかりしてるし。
続く「弦楽のための交響曲」は、この収録曲中ではおそらく一番有名。
12音技法も使っているようで、響きは前衛的。ただ、かなりメロディアスに聞かせたりするので耳障りはいい。
クールと言うか、シリアスな感じ。ただし勢いはけっこうあります。
こちらも1954年録音、頑張ってリマスタリングしてくれてますが、こちらは流石に歪みがある。
「交響曲第8番」は上2曲の中間あたりの作風かな。打楽器の使い方とかちょっと吹奏楽的な響き。
1970年ステレオ録音なのに出だしの音が一番しょぼい録音だよ、ひでえ。



Allan Pettersson
Symphony No.6

Deutsches Symphonie-Orchester Berlin  Manfred Trojahn,Cond.
1993 cpo  999 124-2

ハルトマンやジェラールと並んで、おそらくマーラーやショスタコのような黒い交響曲に飽きた人が
次に手を出すであろう作曲家アラン・ペッテション(1911-1980)の第6交響曲。
弦楽による暗く重たい歌が悲痛に奏でられる。そこから湧き上がる印象的な2音の上昇動機(の一部)の叫び。
次第に音楽は荒々しさとその力を増して行き、かと思うとそれは無理やり抑制されてしまう。
絶えず自制と爆発の耐え難い押し引きが続き、音楽はひたすらに苦悩の中をもがき続ける。
他の作品群で頻繁に見られる狂気に満ちた叫びも、ここでは押しつぶされて長く続かない。
叫びたてる管楽器も、泣き崩れる弦楽器も、重苦しく行進する打楽器も、全てが感情的に押し流されてしまう。
特に大きな古典的構成は感じ取れず、様々な楽想が形を変えて幾度も押し寄せる。
その、やり場の無い感情をそのまま音楽にしたような、そら恐ろしい音楽。
けれどそれでいて、暗いながらも流れるような旋律を中核に置いた、ある種純粋な悲しみの音楽なのではと思う。
ところどころに現れる、調性的な和音による部分は非常に美しく物悲しい。
特に、後半になって現れる下降音階の掛け合いや最後(55分ごろ)などは印象的。
コーダ、金管の重い上昇音階に支えられて嘆く弦楽器のなんと切ないことか。それに絡むスネアがどれだけ無慈悲なことだろう。
そこから感じ取れるものは、この曲が自身の病気のために初めて他人の手を用いて作曲されたという事実も連想させる。
彼の曲の暗い面が十全に発揮された、素晴らしい曲。
聴き通すにはかなり体力がいるけれど、一度は聴いておきたい。



P.Q.Phan
Banana Trumpet Games
Banana Trumpet Games, Beyond th Mountains, Rough-Trax,
Unexpected Desire, My Language, Rock Blood

Pamela Decker,Org.  E. Michael Richards,Cl.  Kazuko Tanosaki,P.
Samaris Trio  The University of Illinois Percussion Ensemble  William Moersch,Con.  etc.
2000 Composers Recordings Inc.  CRi CD 849

ベトナムのサイゴン出身、LAなどで勉強しローマ大賞受賞歴もあるアメリカ作曲家P.Q.ファン(1962-)の作品集。
出自のように、東洋と西洋の音楽を混合させるような作風です。
オルガンのための「バナナ・トランペット・ゲームス」とは何とも凄いタイトルですが、
内容はアジア的要素も幾分含んだ、基本的にはトッカータ風の音楽。
そこにクラスターみたいな和声も入れてかなり刺激的な響きになっています。これ面白い。
「山を越えて」はクラリネットとの四重奏。冒頭の爆発はかなり前衛的ですが、
中間部はわりと東洋的な歌いまわしが随所に見られる。
アルトサックスとオーボエのための「ラフ・トラックス」は
木管楽器の激しい掛け合いが聴ける。ここでもリズムの鋭さは印象的。
ピアノ三重奏の「Unexpected Desire」はこの中で一番東洋的なイメージが直接的に出ている曲。
ゆったりとした序奏から次第にリズミカルに発展していく音楽はなかなかかっこいい。
クラリネットとピアノの「マイ・ランゲージ」は様々な変容を見せてくれる、
ある意味では折衷的音楽を目指している彼らしい音楽が聴けるもの。
性急な部分での勢いはこの曲が一番激しいので悪くない。
打楽器アンサンブルのための「Rock Blood」はかなり直接的に東洋音楽。
太鼓ばかりの編成なためかなり和風な作品ですが、なかなか楽しめた。
「バナナ・トランペット・ゲームス」「Unexpected Desire」「Rock Blood」が聴きやすいし楽しいところかな。



Astor Piazzola
Les Saisons
Cuatro Estaciones Portenas, Eloge du Tango

Benoit Schlosberg,Guitar  Quatuor Enesco  Juan-Jose Mosalini,Bandoneon
1988 Adda  581086

言わずと知れたタンゴの王様アストル・ピアソラの数ある名曲の一つ、「ブエノスアイレスの四季」。
ここではギターと弦楽四重奏による演奏が、エネスコ四重奏団と
パリ出身のギタリスト、ベノイト・シュロスベルグで録音されています。
「春」、落ち着いた、堂々たる王道のピアソラ・タンゴ。はっきりしたベースラインの上で華やかに歌うギター。
中間部のメランコリックなパートも実にストレート、気持ちいいです。
「夏」は憂いを強く帯びた、先程よりも鋭さのある音楽。
切ないギター独奏と、静々と歩む弦楽のゆっくりした気怠い楽想。
「秋」は、ギターの物憂げなメロディーが主体の、哀愁漂う音楽。
タンゴの歌の魅力が存分に詰まっていて、とても美しい。
それまでの包括的な役割を果たす「冬」では、様々な楽想が入り乱れる。
聴けば聴くほど味が出る、目まぐるしいけれどかっこいい、そして意外とさりげない曲。
気を付けておきたいのは、これはあくまでこの曲の「ひとつの解釈」にすぎないこと。
そもそも彼の曲はどれくらい確立されて書かれているのか怪しいし、
タンゴは他の民族的な楽曲と同様演奏の度に解釈・展開が異なるのが普通です。
この演奏は、熱気はないものの落ち着いた展開と安定した技巧でさっぱり聴かせてくれます。
カップリングは「タンゴ礼賛」、タンゴにはやっぱりバンドネオンがないとね。
ここではバンドネオンとギターの対照的なソロが四重奏と熱く絡み合う。
やっぱり蛇腹の音が入るだけでぜんぜん違う。いかにもピアソラだ。
タンゴの源流と言えるミロンガ風のパートも含みながら、華々しく場面を変えていく。
個人的には、実は「タンゴ礼賛」の方が気に入っていたり。自分は、解説にあるように
バンドネオンを「もってして初めてピアソラの音楽がその胸に届く」人間なのかもしれません。



Gavriil Popov
Symphony No.1 Op.7, Symphony No.2 Op.39

Moscow State Symphony Orchestra  USSR Radio & TV Symphony Orchestra  Gennadi Provatorov,Cond.
2010 Venezia  CDVE04386

ガヴリール・ポポフ(1904-1972)の交響曲を収録した、ロシア現地レーベルらしい一枚。
尤も、Olympiaから初録音のこの音源がリリースされ廃盤になったのちは
しばらくマニア狂喜のレア盤状態だった貴重な音源でもあります。
ショスタコの4番にも影響を与えた「交響曲第1番」は、それを抜きにしても傑作。
最初の咆哮一発から実に気合が入っている。この曲はロンドン交響楽団のものが手に入りやすいですが
やっぱりこうして本場ロシアの勢いで聴けるのはとても嬉しい。
20分にわたる重厚で悲劇的な音楽の叫びは、特にその頂点について迫力がすごいです。
いわゆるソナタ・アレグロの分類でしょうが、これが1935年に完成されている素晴らしさ。
第2楽章も染み入るような美しい旋律が厳しさをもって歌われ、次第に不気味な緊迫が支配していく。
そして第3楽章の短めながらも諧謔的な雰囲気を持ちつつ、最後には大爆発して終わる。
もう最後の盛り上がりっぷりは他国の演奏を全く寄せ付けない凄さ。はんぱない。
「交響曲第2番「祖国」」は1番の8年後。その期間に彼はプラウダ批判にさらされ、
体制主義への迎合を強要され、作風を変化せざるを得なくなってしまいました。
ですが、この曲の第1楽章を聴いてもそのカッコよさは捨てがたい。
弦楽の雄大な旋律、第2楽章の祝祭的な(ペトルーシュカみたいな)華やかさ、
第3楽章のいかにもなラルゴから重苦しい歩みとの共演、終楽章のタランテラ風(というより
シェエラザード終楽章と言った方が近いか)から壮大バンザイ状態で曲を終える。
何というか、いろいろとショスタコの5番と対比したくなる作品。
それを考えると、皮肉なまでに批判によって二人が辿った経過は似ているのが実感できる。



Eric Qin
Photographs
Construction et Demolition, Photographs from Edward Weston,Music for Dancing,
Songs from the Japanese, Tortoise, Music in Grey, abcdefghijklmnopqrstuvwxyz

2002 Tzadik  TZ 7081

交通事故により早逝してしまったニューヨークの作曲家Eric Qin(1967-93)の作品集。
「Construction et Demolition」(1992)、ミュートされたゴングを使って
ひたすら叩かれる連打から徐々に小気味良いリズムが現れてくる。
休符と二種類の音のみを使って繰り広げられる、ミニマルで無表情だけれどもなぜか楽しい音楽。
ちなみに構成としてははっきりと一方の音色から他方へとシンメトリックに移り変わっています。
「Photographs from Edward Weston」、楽章ごとに激しい点描だったりメランコリックだったり
暴力的だったり、弦楽四重奏による短い5楽章の作品。どちらかというと近代的な音楽。
「Music for Dancing」、非常に簡素で瞑想的な楽想から始まり、次第にリズム構造や和音に
変化がつけられていく。最後5曲目だけ繰り返される音型が違うものになり、独立したエピローグのようなものに。
これが収録された中では一番最後に作られた作品(1993)。
「Songs from the Japanese」(1990)、山上憶良の和歌をテキストにしてヴァイオリンとソプラノで歌われる
彼岸の世界のような侘しい音楽。とはいえ、一応楽章ごとに古典的な表情分けはある程度あります。
「Tortoise」は貴重なQin自身の演奏。ケージのピアノ作品のような響きですがそれもそのはず、
彼はケージと親交があり、この作品を含め、以下の収録作品は全て
ケージの「タイム・ブラケット」の概念を使って作曲されているからです。
「Music in Grey」はそれをオーボエ、トランペット、チェロ、複数のラジオで。
ラジオのホワイトノイズが不規則に現れる中、ぽつぽつと点描のような旋律のような音が流れていく。
「abcdefghijklmnopqrstuvwxyz」はアルファベットをテキストとしてソプラノとピアノで。
なんか和声を聴いてるとケージだけでなくフェルドマンにも聴こえてきそう。
音楽の流れとしては、初期の習作的な近代風音楽、ケージに出会ってからの不確定的な作品、それ以降の
リズム構造に注意を払ったミニマル的な作品群、の3つに分けることができます。
これからが期待できるような内容だけに、もはやこの世にいないことが悔やまれる・・・



Folke Rabe
Basta

Christian Lindberg,Tbn.  The Swedish Radio Choir ,etc.
1994 Phono suecia  pscd 67

スウェーデンの作曲家、フォルケ・ラーベ(1935-)の作品集。いろんな時期の作品がぼろぼろ入ってます。
「Tintomara」は非常に細かい連符と、ファンファーレ風の部分が交互に現れる対比激しい音楽。
トランペットとトロンボーンの二重奏であるところも比較がしやすい。
「Tva strofer(Two Stanzas)」は冒頭の巻き舌以外はそう怪しくも無い、わりと普通な北欧的合唱曲。
「Naturen, flocken och slakten」は16分+付点8分などの音形が印象的な、ゆっくりだけれど力強いホルン協奏曲。
カデンツァの、ストップとオープンが音ごとに激しく入れ替わるところは面倒くさそう。一応3部分に分かれてる。
「Rondes」は男声の激しい同音反復と不気味な弱奏の違いが印象的な短い前衛合唱曲。
「Notturno」は彼の最初期(1959)の室内楽、セリー音楽の影響が強い感じです。
「to love」は短い7つの曲からなる、まあ素直な民謡風合唱曲。
「Piece」は、グリッサンド・笑い・錯乱するような多声部など様々な音の発散が見える前衛合唱。
「Cyclone」は電子音楽。鬱屈するドローンを軸にして、具体音などがぽつぽつと絡む。
「Basta」はトロンボーンソロ。コロラトゥーラや重音のグリッサンドなどが印象的です。
ちなみにBISの音源とは別物です。こちらはかなり冷静な演奏。でもこれはこれで、緩急あって良い。



アリエル・ラミレス
南米のミサ 他

Ariel Ramirez
Misa Criolla, Navidad Nuestra

Polski Chor Kameralny (Schola Cantorum Gedanensis)
2004 Acte Prealable  AP0117

このサイトではよく名前が出てくるポーランドの合唱団スコラ・カントルム・ジェダネンシス。
東欧の彼らが南米丸出しのラミレスの曲を・・・!?最初は地雷だと思いました。
ところがどっこい、これが凄く良い。フォーク調のノリがきちんと出ていて、聴いてて素直に高揚できます。
ソリストもあの独特の響き声が実に気持ち良い。
特に二人でのハーモニーが絶品。(二人でハーモニー歌ってる方が楽譜通りでしたっけ?)
録音も臨場感を出した近い録音で、かつ綺麗な音で素晴らしい。
「南米のミサ」は有名なカレーラスの演奏を聴いてないので比較できないのがとても残念なところ。
でも自分ならきっと聴いてもこっちのほうを取るはず・・・
併録のNavidad Nuestraも基本的に同じ雰囲気。掘り出し物って言葉はこんなときに使いましょう。買って驚け!



Maurice Ravel
Integrale de l'oeuvre pour Piano Vol.II
Serenade Grotesque, Sites auriculaires, Pavane pour une Infante defunte,
Rapsodie Espagnole, Miroirs, Bolero

Begona Uriarte/Karl-Hermann Mrongovius,Pianos
1989 Wergo  WER 60160-50

スペイン出身のピアノ奏者二人による、ラヴェルのピアノ作品集。
「グロテスクなセレナーデ」、印象的な冒頭の動きから実に硬い響きで音楽に合っているのが心地よい。
「耳で聴く風景」、第1曲は「スペイン狂詩曲」のハバネラへ転用された、あの音楽ほぼそのまま。
第2曲はピアノデュオ作品であることを活かした実に華やかなダイナミクスを持った音楽。
「亡き王女のためのパヴァーヌ」、ちょっと素っ気ないようなテンポにも思える開始ですが、
その朴訥さにも似たものが逆に音楽の淡さを引き立ててくれる。硬めの音質もそれにマッチするもの。
ただ、やっぱり最後まであっさり終わるのはちょっと物足りない気もしてしまう。
「スペイン狂詩曲」のオリジナルであるピアノ2台版、かっちりとしたリズム構成で不安なく聴き通せる。
ちょっと身重な感じというかお堅いところもあるけれど、この曲における重厚さは個人的に歓迎したいところ。
リズム処理はあっさりとしつつテンポをしっかりと保持して聴かせてくれるのが嬉しい。
「鏡」も硬いクリアなタッチは同様。「道化師の朝の歌」のリズムが実に軽快です。
最後に「ボレロ」の2台ピアノ版。冷徹にリズムをしっかりと打ち鳴らす演奏スタイルは実にこの曲向き。
ラストに配置するだけある、聴きごたえのあるものでした。



Maurice Ravel
Bolero,Alborada del Gracioso, La Valse, Ma Mere L'oye,
Daphnis et Chloe, Rapsodie Espagnole, Le Tombeau de Couperin

Orchestre de la Suisse Romande  Armin Jordan,Cond.
1986 Erato  4509-91934-2

スイス・ロマンド管弦楽団といったらだいたいはまずエルネスト・アンセルメが出てきちゃいますが、
ここでは彼ではなく後継者のアルミン・ジョルダン。
「ボレロ」、15分足らずはけっこう早い方なのであんまり好きじゃない。
ただ、それを除けばロマンド管らしいあっさりした甘美さが音楽を淡く綺麗に縁取っていて良い。
「道化師の朝の歌」は逆に落ち着いてさっぱりとまとめている。
「ラ・ヴァルス」なんかは得意な所でしょう・・・と思ったら、確かにいいのだけれど
後半の大きなカタルシスを聴かせるあたりがちょっと物足りない気も。
そういえば、確かにこういうシーンはちょっと苦手でしたね・・・
ウインナ・ワルツみたいな感覚は出ているので、ただし十分に楽しめる。
じゃあ「マ・メール・ロワ」は、と思ったら意外にあんまりしっくりこなかった。
綺麗なんだけれど、なんかうわべだけみたいな気がしてしまって・・・
CD2、「ダフニスとクロエ」、第1組曲と第2組曲を収録。
こうして聴くと、やっぱり第1組曲は悪くないけれど地味だなあと思ってしまう。
演奏如何を抜きにしても、音楽の鮮やかさは抜群に第2組曲の方が勝っている。
演奏自体は、十分健闘していますが、ちょっと技巧的でアクロバティックな動きがきつかった様子。
「スペイン狂詩曲」も同様の長所短所がちらほら見える。細かいところの綺麗さは良いのだけれど、迫力には欠ける。
逆に「クープランの墓」の古典を意識した音楽なんかは自分の感覚にもマッチしていて良い。
全体的には、いろいろ思うところもありましたがなかなか楽しめた。
良くも悪くもロマンド管の特徴が出ている。



Maurice Ravel
Le Tombeau de Couperin, Gaspard de la Nuit, Valses Nobles et Sentimentales

Anton Batagov,Piano
1993 SoLyd Records  SRL 0005

これはバタコフの自主レーベルだったっけ?モノクロ印刷にペンで微妙に色付けした解説が何とも。
「クープランの墓」、1曲目はかっちりした感じで落ち着きながらも最低限は流れるように。
2曲目のフーガはけっこう遅め。味わうように弾いてます。
3曲目の奇妙な軽快さや4曲目の拍の重い曲なんかは実に演奏スタイルが合っていてすばらしい。
5曲目、重厚な感じはたまらないんですが、冒頭とかもうちょっとペダルなり残響があってもいいんじゃないかなあ。
6曲目は爽快さこそないですが、最後の力のこもった盛り上がりは実に安定していてしびれます。
「夜のガスパール」第1曲は彼にしてはかなり軽いタッチでふわふわした実態の無さをうまく表現できています。
まあ録音でもかなり印象操作しているところがあると思いますが。
第2曲はもう期待通り。冒頭の音の重さが素晴らしい。
第3曲は勢いこそありませんが、そのグロテスクさと幅の広さには圧倒されます。
特に低音をがつんと響かせるその破裂ぶりは聴いていて鳥肌が立つ。
「高雅で感傷的なワルツ」は思ったより色っぽくて一安心。もちろん強奏は爆発。



Steve Reich
Music for 18 Musicians

スティーヴ・ライヒ
18人の音楽家のための音楽

Amadinda Percussion Group
2003 Hungaroton  HCD 32208

ライヒは自分にとって現代音楽、そしてテクノにのめりこませるきっかけを作った一人です。
高校時代、閉店セールでたまたま手に取ったCDが彼のオムニバスとRemix集、
あとプレイスネルのピアノ曲集だったことをはっきりと覚えています。
それ以来私はライヒにのめりこみ、だいたいのCDは揃えました。今となってはいい思い出です。
比較的最近の曲は微妙かな〜?ってのもありますが、この路線でもかまいません。「You Are」とかまあまあ聴きますね。
現代音楽のカテゴリから少しづつ外れてる気がしますが。
彼の代表作である「18人〜」ではこの盤をよく聴く気がします。
ライヴならではの微妙な音質、熱気が好きでトラック分けなしのこれをあえて。あと日食のジャケットも。
だけど最後の拍手はもっと早くフェードアウトしていいと思うんです。



Steve Reich
Daniel Variations
Variations for Vibes, Pianos & Strings

Los Angeles Master Chorale  Grant Gershon,Con.
London Sinfonietta  Alan Pierson,Con.
2008 Nonesuch  7559-79949-4

2009年には久しぶりに来日公演を行ってファンを沸かせてくれたスティーヴ・ライヒ。
最近では某動画サイトでも彼の知名度がうなぎのぼりになっていますね。
まあミニマルというかなり聴きやすい部類ではありますが、現代音楽に興味を持ってくれる人が増えるのは有難い限り。
「ダニエル・ヴァリエーション」、重苦しく響く、短調の奇数楽章と、開放的に・けれど切なく響く偶数楽章。
ダニエル書からの引用と不幸な記者ダニエル・パールの言葉がそれぞれリンクする音楽ですが、
この対比がこれまでのライヒとはまた違う印象を感じました。
それまでの近年のライヒは豊かな響きを古典的な音楽構成(急緩急)などに当てはめていて
和声的な対比はあまりなかったため、この作品は同じ豊かさでも鮮やかさが増しています。
「ヴィブラフォン、ピアノ、弦楽器のための変奏曲」は、最近用いられていなかった穴埋めのプロセスを再び使用しています。
初期〜中期の作品でほぼ必ず使われていた「休符を旋律的な素材で埋め、個々の変奏が進むにつれて
持続する和声を付け加えていく」技法、個人的には大好きだったものの近年の作品では全くみられず
残念だっただけに、こうして近作の豊かな響きで再利用されて嬉しい限りです。
そんな私にとっては、この曲はもう近年ライヒ作品の中ではぶっちぎりトップ。
彼らしい、目まぐるしく展開する旋法の変化が不規則なリズムと合わさって
非常に美しく、リズミカルな音楽を披露しています。
国内盤が安く手に入るまで待ったんですが、その我慢を吹き飛ばしてくれる内容。



Steve Reich
Double Sextet, 2×5

Eighth Blackbird  Bang on a Can
2010 Nonesuch  7559-79786-4(WPCS-12407)

ライヒの近作2つの日本語解説付きを買いました。
「ダブル・セクステット」はピュリッツァー賞をついにライヒが取った作品。
鍵盤楽器のごつごつした、けれど推進力にあふれたリズムに息の長い旋律が流れる。
中間楽章は最近の彼の作品らしい、といえば知っている人は一発で想像できると思う。
あのビブラフォンのゆったりしたリズムと弦楽のむせぶような旋律。
第3楽章は冒頭のリズムの回帰。いかにも彼らしいセンチメンタルさがたまらないです。
速い両端楽章はどちらにも一休みのような、リズムが途切れる場面があり
そこでテンションを溜めて次への一手を繰り出していく。
いかにも直球な近作ライヒの感覚で、特に素晴らしいと手放しでは言えないけれど、
たしかにこの傾向の中でどれか一曲選ぶなら自分は迷わずこの曲。
「2×5」は編成がエレキギター2、ベース・ピアノ・ドラム各1が2セット。明らかにロック。
ライヒの音楽が本来持っているグルーヴ感、ロックな和声などをそのまま強調しているため、
確かに構造はこのところのライヒそのものですが、それをさらに進めてロックの響きにしている。
解説でも本人が言ってますが、あくまでリズムはドラム主体ではなくベースとピアノ。
その使い方は、同じくドラムを使用していた「スリー・テイルズ」に通ずるものがある。
けれど、このグルーヴ感はあれよりもずっと大きい。
何よりも、彼のリズムと旋法的和声に同時に溺れたいと思うときにこの編成は最適です。
もうちょっと派手にかましてもいいのに、とは思いつつも聴いていてこのリズムの波に呑まれていきます。
やはり、構成としてのワンパターンは否めないけれど、それでもこの響きに魅了されてしまう。
そして「2×5」の新しい音響に満足。



Steve Reich
Four Organs
Four Organs, My Name Is, Piano Play, Phase Patterns

(ライヒ以外演奏者詳細不明)
mushroom sounds

スティーヴ・ライヒが1970年11月7日にカリフォルニア大バークレー校で行ったライヴの貴重な音源、ブートリイシュー。
ジャケットが、明らかに別音源の正規版「4台のオルガン」ジャケの流用で泣ける。
こちらの「4台のオルガン」は結構早めなテンポの上展開も速い。
テンポよくぽんぽんと次の位相に移っていくけれど結局どんどん動きが緩慢になってきて
あのドローンを聴いているような恍惚感に酔いしれることが出来ます。
ちょっとささくれたサイケなオルガンの音色がまたヤバい。
「マイ・ネーム・イズ」、この曲はライヒの作品目録の中でもすごいクセモノな存在でした。何しろ成立経緯がよくわからない。
この曲の音源はスコラ・カントルムにおける演奏がCadenzaからテヒリームの初演などとカップリングされて
リリースされていますが、こちらのオーケストラ版は作曲が1981年と明記されています。
一方、ライヒ本人のウェブサイトには1967年に作曲したマニュスクリプトのみの曲とあります。
1970年のライヴ録音である以上、この音源は明らかに後者のものを指しているので、一体どんなもんかとわくわくしてました。
一番最初の自己紹介が続く部分は後年のものより随分違う編集。
明らかなフィールド録音だったり自己紹介以外のパートも少し混じっていたり、何故か「Four Organs」の断片も聴こえてくる。
特定の自己紹介が初期特有の位相ずれで展開し、そこに新たな自己紹介が入ってくる。
さてここからどうなる?と思ったら音源はここでぶつ切り。何・・・だと・・・
まあこれのみから推測するに、大筋は後年のものと同じですが、60年代にテープループでああだこうだやっていたものを
80年代にすっきりまとめて、(存在意義がよくわからない)オーケストラ伴奏をつけたのがカントルム版、ということらしい。
元々そこまで印象強い曲じゃないし、こちらの音源ははっきり言って資料以上の価値はないと思いますね。
さて、この曲目を見ていて多くの人が(何ぞや)と思ったことでしょう、「Piano Play」。
これは別になんてこと無い、「Piano Phase」、ピアノ・フェイズのこと。確か初期の名称が「Piano Play」だったんだと思います。
エレキピアノ二台による演奏。位相ずれの部分はあっさりシフトします。
この演奏、第1部の一番最後で片方が弾いたり止めたりしているへんてこな部分があるんですが、
これは単にライヴゆえのミスなのか、それとも初期版のみの展開なのか。
「フェイズ・パターンズ」も良く考えたら音源は2つしかまともなものは無い気が。
なんか冒頭しばらくしたら凄いアッチェレランドしてるんですが、これは位相ずれを行おうとしてミスったという解釈でよろしいでしょうか。
以降は短めな音ではっきりと位相ずれが行われていきます。テンポはやっぱり、ちょくちょく早くなる。
音源としてはこの上なく貴重なものですが、いろいろと録音環境がかなり悪いのが残念すぎる。
会場が終始がやがやしっぱなし+録音機材自体がそんなよくない(まあ70年ですから)という最悪コンボ。
「マイ・ネーム・イズ」冒頭なんてテープ再生と会場音声の判別が結構微妙なレベル。
ただ、ライヒ初期のライヴ活動が聴けるというのは非常に意義が大きいです。
流石マッシュルーム・サウンズ、いい仕事をしてくれる。



Steve Reich
Tehillim, The Desert Music

Alarm Will Sound and Ossia  Alan Pierson,Cond.
2002 Cantaloupe  CA21009

アラーム・ウィル・サウンドのライヒシリーズ。
「テヒリーム」、よくまとまって一体感が出た音響はこの団体らしい。
ただ、主に声楽の歌いまわしに違和感を感じる(例;冒頭)。なんか硬いというか真面目というか。
もっとノリがいい感じ、例えばECMの演奏と比べてなんか微妙にもっさりしてる。
ただその分、録音もいいし音楽は素晴らしく見通しがいい。
あと、第3楽章の遅さは曲に似合っていて好印象。この楽章、今まで比較的好きじゃなかったので。
どちらかというと聴いてテンション上がる、というよりは構造を分析しながらしみじみ聴くほうが楽しいですね。
もちろん下手というわけではないし、第2楽章なんかはいい感じの快速さですが。
とりあえず、第2楽章から聴くと個人的に楽しいことに気づきました。
「砂漠の音楽」は室内楽バージョンを収録。たぶん初録。
うーん、やっぱりなんか流れというか強弱というか、何かしっくりこない。
多分慣れれば楽しいんだろうけれど、それまではちょっと違和感が強いですね。
テンポはメリハリ効いてて良いし、聴いてて楽しい部分も沢山あるので、多分聴き込み次第。

やはり、彼らの演奏はその曲の響きに溺れたい時に聴くのが最上ですね。
他のアルバムを聴いていても、どうも流れるようなスムーズさは少ない気がする。



Steve Reich
Steve Reich Anthology

PRO 22190(2-DVDR)

いかにもブートな、テレビ番組の録音を繋げただけのアヤシイ二枚組。
いきなりクラッピング・ミュージックのワークショップ風景。これだけ大人数だとすげえなあ。
これが放送されたころはちょうどダニエル・ヴァリエーションズの初演があったころ。
様々な演奏風景・インタビュー断片をはさみ、話はライヒ自身が語る生い立ちへ。
時代を追って曲やライヒを見せていくあたり明らかに典型的ドキュメンタリー。
ピアノ・フェイズ、「ヴィデオ・フェイズ」(2000)なんていう映像つきのバージョンなんてあったのか・・・
4台のオルガン、ドラミング、18人の音楽家のための音楽など主な作品に
焦点を当てながら、ライヒの音楽の変遷を容易に知ることができる内容になっています。
音源もすべて彼ら自身のライヴなのは貴重なんですが、まあ録音が微妙なのは仕方ない。
ディファレント・トレインズ、エレクトリック・カウンターポイントを使ったオーブのリミックス、
そこからテクノアーティスト達への影響へ話はずれる。そして一気に現在へ。
ダニエル・ヴァリエーションの初演の光景とかあります。
後半はQueen's Belfast Festivalにおける演奏をもとに(少しだけドキュメンタリー風に)構成された、BBCのライヴ映像。その名も「The Desert Music」。
完全にライヴではなく、ところどころにライヒの言葉が入るのが音楽を聴くときは痛恨。
演奏も録音も正直微妙なところではありますが。あとはもっと自分の気に入ってる曲ならなあ。
この映像見て、この曲にオルガンが使われていたことを思い出しました。
二枚目には、なんとアンサンブル・モデルンによるライヴ、「Check it Out」と題して。
ライヒの「エイト・ラインズ」から。映像はやっぱり微妙ですが、録音はそこまで悪くない。演奏は言わずもがな。
再生不良で一番最後の瞬間に歪んだときはぶっ壊してやりたい衝動に駆られましたが。
次にアンドリーセンの「速度」。なんだ、ライヒオンリーのプログラムじゃないのか。
でもまあ、これも彼らおなじみのナンバー。パルスを伴う進行は似てなくもないか。
後半はライヒに戻ってドラミングの第1部のみ。最初はばらけてましたが、ずれだしてからは良い感じ。快速に飛ばしてくれます。
いいなあ、この調子で最後まで演奏してほしかった。でも次は「シティ・ライフ」。
でもこの演奏はやっぱりかなりいい。シティ・ライフは録音少ない方だからなあ・・・



Kuniko Plays Reich
Steve Reich;Electric Counterpoint version for percussions,
Six Marimbas Counterpoint, Vermont Counterpoint version for vibraphone

Kuniko Kato,Percussions
2011 Linn  CKD 385

ICTUSにも所属していたことからライヒの音楽に魅せられ、その音楽を精力的に紹介する
打楽器奏者、加藤訓子による、ライヒ公認の編曲作品集。
「エレクトリック・カウンターポイント」の打楽器版。第1楽章は主にスティールパンを使用。
あの独特の柔らかい響きでパルスが始まり、穏やかに旋律が積み重なっていく。
第2楽章では、それまでバックのパルスを叩いていたビブラフォンが主役に。
より鮮明に、クールさを持ちながら、けれど元の甘い変拍子を奏で上げる。
第3楽章はマリンバ。一番快活に音が重なりながら、そこにビブラフォンのコードが入って
響きに豊かさと残響をつけ、この一番鮮やかな部分を美しく盛り上げる。
「シックスマリンバ・カウンターポイント」は元のシックスマリンバとどう違うかというと
ソロ奏者のライヴパートとテープパート用にアレンジしたもの、ということ。
結果として聴こえる和声は変わりませんが、そのバランスは微妙に変わっている。
そして何より、このソロ奏者がテープと共演するのはカウンターポイントのシリーズや
ピアノフェイズなど初期のフェイズ・シリーズにも通ずる重要な概念が追加されたことが大事。
尤も、この手法について現在ライヒ自身は新しく曲を作る際には不要なものと考えている節もあるようですが。
「ヴァーモント・カウンターポイント」はすでに吉田ミカによるMIDIマリンバ版が
「東京/ヴァーモント・カウンターポイント」として公認で存在しますが、このビブラフォン版はそれに印象が結構近い。
硬質な音がかっちりと紡ぎあいながらノンストップでメカニカルに響くさまはテクノに近い印象をはっきりと受ける。
ただ、この中では一番アレンジが成功しているかもしれない、とも思いました。
この演奏が一番ライヒの対位法をはっきりと聴き分けられ、その妙にのめりこむことができる。



Steve Reich
Triple Quartet, Piano Counterpoint, Different Trains

The London Steve Reich Ensemble
2011 EMI  50999 0 87319 2 0

「トリプル・カルテット」、クロノスの演奏に比べてかなりささくれた響きが好み。
荒々しくもリズムをはきはきと奏でていて、とても爽快。
ちょっと奇妙なテンポ設定があったのは気になったけれど、些細な話。
「ピアノ・カウンターポイント」は「6台のピアノ」をVincent Corverがソロピアノ演奏用に編曲したもの。
最初びっくりするくらいの快速テンポ。でも、原曲は6台でアンサンブルしていたことを考えると
これくらいのテンポでも本来のアイデアとはそうかけ離れていないのかもしれない、と思える。
聴いていると、だんだんシメオン・テン・ホルトの「Solo Devil Dance」シリーズに似た
陶酔を味わえるから楽しいです。ただ、この演奏12分と少ししかないんだよね。
最後は代表作「ディファレント・トレインズ」。なかなか豊かな響きを響かせていて、
弦楽オーケストラで聴いている気分になれるところが良い。
第3楽章は、聴いていて本当に惚れ惚れします、逆に第1楽章など、もうちょっとキレが欲しい気もしますが。



Electric Counterpoint
Steve Reich; Electric Counterpoint,Nagoya Guitars, 2×5
Edda Magnason; So Many Layers of Colour Become a Deep Purple Heart (To Steve Reich)

Mats Bergstrom,Gui. etc.
Mats Bergstrom Musik  MBCDBD01

ライヒの新作「Radio Rewrite」初演でもギター参加してたマッツ・ベリストレムのライヒアルバム。
合間合間にリミックスも混ぜてます。
「エレクトリック・カウンターポイント」はかなりエコーも効かせてます。
ただ、そこまで斬新さや奇特さを持ったものではなく、落ち着いて聴けるのは大事な所。
第3楽章なんかは音のクリアさと纏まりの良さがかなり良くて、今まで聴いた中でもかなりポイント高い演奏。
エレキギター演奏に絞れば、献呈者のメセニーの次にこれを取りたいくらいのレベル。
「Under the Weather MIX (Electric Counterpoint Remix)」はそのまんまリミックス。
ちょっとアブストラクトな感じに折り重なっては淡く消える、個人的にはなかなか悪くはない感じ。
「ナゴヤ・ギター」、遅めの落ち着いたテンポですが、音の絡み合いは楽しめるので悪くない。
最後、思いっきりリタルダンドするのはあまりいただけなかったけど。
そしてそれのリミックス「Godspeed Remix (Nagoya Guitars remix)」、ハウスのノリだったのがあまり好みに合わず。
「2×5」はその分、音響加工が手慣れていて、音が変に混ざらずはっきりと動きが聴けるのでNonesuch盤より良い。
というか、音がクリアに響く分勢いがあって、両端楽章は特に疾走感あふれていて素晴らしいです。
これは正直、Nonesuch盤がかすんで見える演奏。これだけのためでも買う価値はありますよ。
Edda Magnasonによる「So Many Layers of Colour Become a Deep Purple Heart (To Steve Reich)」は
ピアノのミニマルでメロウな旋律から次第にギターや他の楽器に広がっていき、
良い感じにセンチメンタルな音楽が程よいリズミカルさで前半は凄く好み。
中間は陰のあるボッサジャズみたいな音楽になっていて、これはこれで悪くないけど両端だけで良かった気が。
最後、また冒頭の旋律に戻って切なく盛り上げるところなんか凄く好きなんだけれどなあ。

とりあえず、ライヒ作品に限って言えばかなり高内容の一枚。
正直、CDはちょっと高いからとDL購入で済ませたのをちょっと後悔している位には出来が良い録音。



Steve Reich
Three Movements, The Desert Music

Chorus sine nomine  Tonkunstler-Orchester Niederosterreich  Kristjan Jarvi,Cond.
2011 Chandos  CHSA 5091

クリスチャン・ヤルヴィとトーンキュスラー管のライヒ、SACDで登場。
にしても「管弦楽のための3つの楽章」とかなかなか渋いチョイスですなあ。
たしかこの曲、演奏自体は結構よく行われますが、音盤自体はまだ1種類しかなかった気が。
演奏自体は実にすっきりしていてクリア。当然ながら録音の良さもあるのですが、それでもこの爽快な感じが音楽に合っている。
M.T.トーマスとロンドン響の演奏だとちょっとこってりした響きがあったのですが、こっちはそれを全く感じさせません。
テンポ設定がうまくいっている感じもありますね。確かにライヒ自身が絶賛するだけある録音。
「砂漠の音楽」は実を言うと、ライヒ作品の中ではあんまり好きじゃあない。
ちょっと大作指向が悪い感じに出てしまった気がしなくもない作品ですが、演奏はなかなか。
とはいっても、こちらはM.T.トーマス盤とそんなに大きな差はない。ただ、やっぱり録音のおかげでこっちに軍配。
うん、確かにこれはヤルヴィの録音でもかなりいいものだと思う。第5楽章の美しさなんか実に良い。
ライヒの録音としてもかなり上の水準だし、これは持って損はない。
ただ、どうせオケ作品やるんだったら「フォー・セクションズ」とかの方を録音してほしかったなあ。



Silvestre Revueltas
Homenaje a Federico Garcia Lorca, Sensemaya,
Ocho X Radio, Toccata, Alcancias, Planos, La noche de los Mayas

New Philharmonia Orchestra Eduardo Mata,Con.  London Sinfonietta David Atherton,Con.
Orquesta Sinfonica de Jalapa Luis Harrera de la Fuente,Con.
1994 Catalyst(BMG)  09026-62672-2

シルヴェストレ・レブエルタス(1899-1940)は、赤貧と酒で早世してしまったメキシコの作曲家。
どの音楽も、一時期のストラヴィンスキーのような強烈なオスティナートリズム展開に
南米色彩を思いっきりぶちまけた、とても濃い音楽を聴かせてくれます。
「フェデリコ・ガルシア・ロルカへのオマージュ」は神秘的なトランペットのソロに導かれ、騒々しく明るい、でもどこかいかれた音楽が広がる。
伴奏のごちゃごちゃグロテスクに動いている様が独特。中間部は怪しげな空気も混じった直管ソロ主導。
「センセマヤ(蛇殺しの唄)」はレブエルタスの代表作。
7拍子のグロテスクなリズムから、チューバ、トロンボーンの遥かな咆哮が聞こえてくる。
それが徐々に盛り上がり、暗いながらも情熱的に幕を閉じる、5分ほどの小品。
次の「オーチョ・ポル・ラジオ(8×ラジオ)」も5分ほど、けれどこちらはかなり暢気な南米音楽風。
人を食ったような題名は、8人編成であることを指すのか、それとも音楽のもっと深い何かを示唆するのか。
「トッカータ」はもっと短い、溌剌とした音楽。これは室内楽編成。
「貯金箱」は急緩急の短い三楽章編成。3拍子と5拍子が同時進行したり、いつも通りのぶっとび展開。
「プラーノス」は暗いピアノに導かれ、グロテスクかつ神秘的に開始。
それが不協和音バリバリの強烈なリズムに導かれ激しさを増していく。
「マヤ族の夜」もよく知られている作品。同名の映画のために作られた曲ですが、とてもシンフォニック。
力強い主題の序奏から優雅な弦の歌う第1曲、変拍子に激しく踊り狂う第2曲。
妖しげに、優美に夜を歌う第3曲、そこから徐々に盛り上がって4曲目に入るところはカッコイイなあ。
4曲目はおどろおどろしい打楽器リズムにホルンなど金管が吼える。最後はかなり盛り上がりますね。
メキシコという土地にはっきりと自分のルーツを感じていた彼らしい、素晴らしい南米クラシックです。
演奏は、マータやアサートンといった面子に不安はなし。フエンテもかなり健闘してる。
ぶっ放してはいないけれど、しっかり纏まった良い演奏です。
真っ黒な中に薄暗く浮かび上がる、南米風な装飾をされた骸骨のジャケがカッコイイ。



Silvestre Revueltas
Sensemaya, Redes, Homenaje a Garcia Lorca,
Janitzio, Musica para charlar, Ocho por Radio

Orquesta Sinfonica de Xalapa  Carlos Miguel Prieto,Cond.
2004 Urtext  JBCC 088

Xalapa交響楽団なるメキシコの団体が演奏するレブエルタス作品集。
「センセマヤ」はもやもやした音の中から黒い叫びが湧き上がる、なかなかいい感じの演奏。
ドゥダメルみたいなクリアな演奏&録音もいいけれど、個人的にはこれくらいのほうが好き。
このメキシコ的なものとキューバ的なものが織り成すバーバル世界の後は
同じく双方の影響が見て取れる「網」へ。これは元は映画音楽。
流れは映像に合わせるために劇的なものはないですが、彼の音楽における「混血性」が同様によく現れています。
「ガルシア・ロルカ讃」は彼の代表作。ロルカ追悼のためなのにこれだけ明るいのは不思議。
悲しみと歓喜、民族性とアカデミックな技法が不可分に混ざり合った逸品。
「ハニツィオ島」は、メキシコにある同名の湖上島にインスパイアを受けて。
田舎の下手くそなバンド演奏を表すべく、メロディを外れ調子で演奏するパートがあります。
整然とまとまった弦楽と管楽の、テンションのちぐはぐさがたまらない軽妙な作品。
「Chit Chat Music」もオリジナルは映画音楽。こちらはまだかなり西洋音楽の香りが強い。
最後は「8×ラジオ」。タイトルとそれに対する思わせぶりな作曲者のコメントもありますが、
内容も確かに妙ちきりんなまでのあっけらかんとしたもの。
演奏は土俗的で土臭い感じが出ているところが個人的に大好き。
技術も下手に曖昧にぼやかしている西洋団体より直球なところがずっといい。
録音がどれも変にもやもやしているのが一番のマイナスポイントかな。



Roger Reynolds
Symphony[Myths], Whispers Out of Time, Symphony[Vertigo]

Tokyo Philharmonic Orchestra  Kotaro Sato,Con.  Cleveland Chamber Symphony  Edwin London,Con.
La Jolla Symphony Orchestra  Harvey Sollberger,Con.
2007 mode  183

ロジャー・レイノルズのオケ作品3つ。「交響曲[神話]」(1990)は武満徹に捧げられている3楽章の作品。
第1楽章は「二見ヶ浦」と題されているように、同地の夫婦岩等の印象を取り入れているようです。
音色の変化でゆったりと入れ替わる、静的な印象のまさに武満に似せた響き。
第2楽章はつなぎ、木管楽器を主体としたアンサンブルによる短い掛け合い。
第3楽章はギリシャの、やはり二つの岩にまつわる神話的なもの('The Darkblue Crashing Rocks')がモチーフ。
こちらは神話の内容も絡んでいるのか、幾分か攻撃的、と言うか活動的。
「ウィスパーズ・アウト・オブ・タイム」はジョン・アッシュベリー「凸面鏡の中の自画像」に
インスピレーションを得た、彼がピューリッツァー賞を取ったことでも有名な作品。
形式をそれ自身に依りながら、ベートーヴェンやマーラーの引用を行い、黄金比をセクションの分割に使う。
弦楽の音色がコンマやフェルマータでゆるやかに伸び縮みする、どこか初期武満みたいな音楽。
にしても、まだ柔らかい印象とはいえこんなのでピューリッツァー賞貰ったら、派閥にリベラルとはいえ
そりゃカイル・ガンから「最も賞から遠い派閥の人が成功した」なんて表現になりますわな。
「交響曲[眩惑]」はチャールズ・ウォーリネンに献呈されています。
ミラン・クンデラ作品の一説をタイトルに冠して、PC生成音も交えながら、こちらはいつもの彼らしい作風。
…やっぱり、武満趣味の2曲しか面白いとは思えなかった。



Michael Riessler
Fever, Ji-virus

Michael Riessler,Cl.etc.  Nigel Charnock,Vo. & Dance
Jean-Louis Matinier,Acc.  etc.
2000 Werogo  WER 6309 2

ミヒャエル・リースラー(1957-)は、ジャズ・クラリネットの奏者としてはマニアックな人に知られているようですが、
現代音楽の作曲家として活躍していることは、日本でいったいどれだけの人が知っているのか。
「フィーバー」はシェークスピアのソネットを使った、音楽というより舞台作品。
クラリネットのクリスピーなソロ、弦楽四重奏による切羽詰まるような音楽、
その中でダンサーがひたすら動きながら性急そうに台詞を言う。
チェロのセンチメンタルなソロ、ノイジーな経過句。
電子編集や多重録音も交えながら行われる進行はとにかく「劇的」。
まあリースラーの音楽とCharnockのダンスのコラボ作品みたいなものなので当然。
現代音楽の潮流で行けばシアターピースに属する典型的な作品であることが一発で分かる。
「Ji-virus」、ニュース番組の冒頭で流れてそうなシンセ音楽から、ちょっとインダストリアルなノイズ、
バロック、大衆音楽、アンビエント、ムビラ、ありとあらゆる音楽がぽろぽろこぼれ出てくる。
既製の音楽を破壊・非作曲的な手段を用いて、ジングル(CMソングなどのこと)
を風刺した音楽を作ろうとしたらしいです。(題のji-はjingleの略)

それにしても、彼の音楽は聴いていているだけでも非常に楽しい。
言葉で表すだけなら、ポストモダンの潮流の中でジャズやロックなどの音楽にも強く影響された
作曲家、というありがちな説明で終わるんですが、その音楽に潜む躍動感が非凡。
さまざまな音楽語法のグルーヴ、リズム、テンション操作を思うがままに操り、
シアターピースの物語的盛り上げを繊細でありながら大胆すぎるほどに色つけしていく。
ポストモダン+シアターピースの中では一番上手くいっている部類の作曲家でしょう。
ちなみに、「フィーバー」は一時期やたら売られてた膨大なRCA Red Sealドイツ音楽コンピシリーズの一つに収録されてます。
余談、同じCD収録のFerdinand Kriwetは何時になったら全曲CD発売されるんでしょうか。LP再発だけじゃなあ・・・



Wolfgang Rihm
Wolfli-Lieder, Klavierstuck Nr.7, Frau/Stimme, In-Schrift

Richard Salter,Bar.  Leningrad Philharmonic Orchestra  Alexander Dmitriyev,Con.
Isolde Siebert/Carmen Fuggiss,S.  SWF Symphony Orchestra  Michael Gielen,Con.
Bernhard Wanbach,P.  Bamberger Symphoniker  Hans Zender,Con.
col legno  WWE 1CD 20508 / collage 08

主にクラウス・フーバーに師事、以外にも多くの作曲家の影響を持ちながら
聴きやすい作風で演奏機会も(作品数も)多いドイツの大御所ヴォルフガング・リーム(1952-)作品集。
ここで収録されている「ヴェルフリの歌」は第2版。後期ヘルダーリンらのテキストに混じって、
タイトルの元でもあるアドルフ・ヴェルフリの文も使われています。
まあどっちも精神病に侵されているという点では一貫してますね。
簡素な旋律的要素、そして劇的な音楽展開なのはヴェルフリへの敬意、ということでしょうか。
尤も、彼は元からロマン主義というか古典回帰に熱心な人間なのでそのボーダーは曖昧ですが。
ただ、ヴェルフリの描いた旋律を要素にして音楽を書いたわけじゃなさそうなのが残念なところ。
「ピアノソナタ第7番」ではオクターヴの激しい動きが終始叩きつけられる。
そのまま最後以外はずっとffで10分間疾走する、演奏者にとっては非常につらいですが、
聴いている人間にとってはとてもカタルシスが得やすい作品。
協和音が連打される場面もあるので、実に聴いていて楽しいです。
このCDで「女/声」のこの録音は少なくとも初演の記録の様子。
どこか武満的な妖艶さを感じる高音のきらめきに乗せて、Heiner Mullerのテキストをソプラノ2人が歌う。
高音偏重の音楽は完全な現代音楽だけれども、そのゆらめきは危うげな美しさを感じます。
「銘-刻(In-scription)」はフルートを初めとした木管のわななきに始まり、
ヴァイオリンとヴィオラを欠いた管弦楽が暗く点描的な起伏を形作っていく。
金管の長い息のようなパッセージに、木管とハープが激しく点描をつけ、時折全楽器が爆発する。
後半、チェロの高音による中世風のパッセージが現れ、一時は打楽器のパルス舞台に。
95年の作品ですが、これなんかは随分普通に現代音楽なんだよなあ。
編成がかなり吹奏楽に近いので、現代吹奏楽の観点からみても面白い。
中間部のトロンボーンの咆哮とかカッコいいです。重々しい音楽ですが、その渋さが良い。

全体的に、確かに聴きやすい。クラシックの耳で聴けるレベルはさすがに「ヴェルフリの歌」くらいでしょうが、
それでも内容がはっきりと現代音楽を指向していながらこれだけ聴きやすいのは素晴らしい。
普通に聴くなら前半2曲、じっくり聴けるなら「In-Scrift」。



Richard Rijnvos
Block Beuys

Ives Ensemble
2004 Hat hut  hat[now]ART 147

オランダ出身、ファーニホウらに作曲を学んだRichard Rijnvos(1964-)の作品を収録。
1990年、ビジュアルアーティスト/フルクサス参画者のJoseph Beuysがダルムシュタットで行った
同名のインスタレーションを元に作成された、全4曲構成80分の大作です。
第1曲、弦楽器の単音に、様々にプリペアドされた音がごりごりと響き渡る。
打楽器・ピアノ・弦楽による、ノイズドローンにかなり近い音響がどろどろと垂れていく。
第2曲はそこに木管7人とトランペット3人が追加。
元々7つの部屋で行われたインスタレーションなだけに、この曲でもその違いが表現されています。
こちらはより小さい部屋をイメージされているために個々の音密度が濃く、音同士の干渉が比較的はっきり。
お陰で、ノイジーというか暴力的な場面もちらほら。流れがまだ音楽的な方。
第3曲ではテープでJoseph Beuys自身の朗読が流される。
この声をキューとして、各楽器は自身の動きを決めていきます。
結尾の第4曲、それまでの要素がすべて出てくるような、緊張感高い音楽。
並行的な音楽のレイヤーが感じられ、広い空間性とバリエーション(vitrines、陳列戸棚の副題にも繋がるかな)があります。
音響的にはなかなか楽しかったです。下手なノイズより良い。
第1、3曲のテープ、Michel van der AaやJohn Snijdersが技術やピアノで賛助してます。



Terry Riley
Assassin Reverie
Uncle Jard, Assassin Revarie, Tread on the Trail

ARTE Quartett  Terry Riley,vocals/harpsichord/piano
2005 New World Records  80558-2

テリー・ライリーとARTEサクソフォーン・カルテットの共演による一枚。
「Uncle Jard」、サクソフォンのドローンに乗せて、ライリー自身のハープシコード&ヴォイスがフリーに歌う。
ピアノのジャジーなメロディーにサックス群が寄り添い、ノリ良いジャズ風味でテンションを上げる。
表題曲、サックスのメロディーが絡み合いながらブルーノート風の和音で進行。
だんだんテンションが上がっていったら、その頂点でテープが乱入。
ぐちゃぐちゃと音が掻き乱れる中から新たなリズムが現れ、ちょっと切なく落ち着いていく。
ここでの「トレッド・オン・ザ・トレイル」はサックス12重奏版。
サックスのドローンリズムからジャズのメロディーが徐々にずれ重なり合う、彼の代表作。カッコイイ。
やっぱりライリーにはサックスが良く似合う。セールで沢山投売りされててちょっと寂しかった。
まあだからこそこうやって気軽に買って聴けているんだけれど。



Terry Riley
Music for the Gift
Music for the Gift, Bird of Paradise, Mescalin Mix, Two Piano's and Five Tape Recorders

1998 Organ of Corti  1

ライリー初期のテープ音楽作品集。
「Music for the Gift」(1963)、チェット・ベイカーによるトランペットの入った
ダウナーなセッションが加工され、不規則に歪み、ふわふわと異次元世界へといざなう。
なんというか、元の音楽が音楽だけに、酒場で泥酔した時の聴覚みたい。
ベイカーのカルテットによるマイルス・デイヴィスの音楽が最後は完全に原型を留めなくなります。
この錯乱するようなループ加減の音響はライヒのテープ作品のラストにも似てる。
「Bird of Paradise」(1965)、オリジナルが判別不明な混沌の渦でスタート。
次第に音源が近よってくると何やらロックか何かの音楽を細切れにカットアップループしてるのがわかる。
そこにさらに激しく変調された音がうねってくる。続くトラックはビートつきでさらに錯乱中。
ここまでノリノリに原曲が蹂躙されているのも貴重です。カットアップテクノの原型のよう。
「Mescalin Mix」はライリー自身がドラッグであるメスカリンを使用した時の体験を基にした
何ともアヤシイ一品。虚ろな、まるでキメてしまったような声が変調の中で響き、遠くでピアノが反響する。
全てが異常なまでにとろけきった世界の中で実態を持たずにうごめく、異常な曲です。
最後はラ・モンテ・ヤングも参加している「Two Piano's and Five Tape Recorders」。
バークレー大学でのライヴ、最初にアナウンスが入ってます。
激しい内部奏法の金属的な音が終始鳴り響く。最後の拍手もブーイング混じりなのが何とも。



Niels Rosing-Schow
Echos of Fire -Chamber Music and Sinfonietta Works
...sous les rales du vent d'Est,
Meeting, Double, Echos of Fire, Canon and Chorale

Athelas Sinfonietta Copenhagen  Jan Latham-Koenig,Cond.
1997 Dacapo  8.224055

オランダ出身の作曲家ニルス・ロジング=スコウ(1954-)(読みこれでいいのかな)の作品集。
「...sous les rales du vent d'Est(Under the groans of the East Wind)」はクラリネット、チェロ、ピアノをソリストに持ったアンサンブル作品。
幻想的な響きというか、線的な伸びを持ってふわふわと音が漂ってくる。
フランスの作家Gilles Gourdonの「Sacrifice」の一節をもとにした、まあ典型的な現代音楽。
闇と光、自然音と加工音のような、異なるものを示唆するような対立的な盛り上がり。
「Meeting」とは、様々な相対する要素を混然として使うことから。
あくまでも主題の展開を古典的な変奏などで行っている(らしい)ところは、
オランダにおける「単純性の音楽」に対し彼なりに興味を持った結果なのでしょう。
「Double」、ハープ主体の神秘的で妖しげな第1楽章、
鐘とピアノの強打で始まり騒々しく展開する第2楽章。でも妖しさは変わらず。
表題曲は、彼のオペラ「Brand(Fire)」からの編曲のような作品。
これまでみたいな対比要素は薄く、メドレーみたいな形式で音楽がころころ変わる。
唯一のオケ作品(とはいってもこの演奏は小編成)「カノンとコラール」は非常にアジア的。
中国的な音階を用いてるせいか。新古典主義みたいな香りもする聴きやすい、5分ほどの曲。
初期の作品だからというせいもあるでしょうが、素直に聴けてよかった。
この人は対比を好んで手法に取り入れますね。ただその自己主張では、そこまで面白くは・・・
残念ながら佳作どまり。演奏はちょっと荒っぽすぎますが、不安定さはそうありません。



Hans Rott
Symphony No.1 E-dur, Orchestervorspiel E-dur, Ein Vorspiel zu "Julius Casar"

Munchner RundfunkOrchester  Sebastian Weigle,Cond.
2004 Arte Nova  BVCE-38080

つい最近になって、ようやく再評価が進んできたハンス・ロット(1858-84)という人物の作品集。
その人生はまさに不遇。ちょっと似たケースで今は随分有名になったカリンニコフよりずっと陰鬱。
何しろ、作曲コンクールでは作品を笑われた挙句一人だけ賞をもらえず、
希望だったオルガニストの職は冤罪で辞めさせられ、資金がないため細々と音楽関係の仕事をするのみ。
若きマーラーやブルックナーには認められたもののブラームスには交響曲第1番を手ひどくこき下ろされ、
ようやく辺地でオルガニストの職を手にできたころ、元から繊細なほうであった彼はついに発狂。
精神病院で自殺未遂を繰り返して、そのまま最後には結核で亡くなる・・・見事なまでの悲惨さです。
当然ながら死後は完全に忘れられ、その後マーラー研究家が再発見するまで100年もかかったのです。
音楽は、確かに聴くと師であるブルックナーやマーラーを容易に想起させる楽想。
けれど、その中には上記二人とはまた違った美しさや明るさ、
あるいは若さゆえの散漫さ、といったものをうかがうことが出来ます。
また、当時の風潮であったワーグナーのような壮大さも感じ取ることは可能でしょうか。
「管弦楽のための前奏曲」は彼最初の管弦楽曲。短い習作的な作品です。
「「ジュリアス・シーザー」への前奏曲」はその翌年の作品。
おそらくは歌劇の前奏曲を意図して作られたこの作品は、やはり非常にワーグナー的。
彼の「マイスタージンガー」前奏曲のような音楽。けれど、これら2作品を交響曲への橋掛けと見るとまた非常に面白い。
演奏は、ややまとまりは薄いものの曲の真価を十分に楽しめるもの。勢いがあって好きです。
ハンス・ロットなる人物の音楽を知るに足る演奏。こういったものが安価なArte Novaから出たのは実に嬉しいことですね。



Christopher Rouse
Passion Wheels
Ku-Ka-Ilimoku, Concerto per Corde, Rotae Passionis, Ogun Badagris

The Concordia Orchestra  Marin Alsop,Cond.
2000 Koch  3-7468-2 HI

バルティモア出身、ホフマンやフサ、クラムに師事したネオロマン系統の作曲家クリストファー・ルース(1949-)の作品集。
ちなみに弟子にはマイケル・トークやニコ・ミューレーなんかがいます。
「ク-カ-イリモク」はハワイの伝統音楽を元にしたリズミカルな短かめの打楽器アンサンブル作品。
なるほど、さすがはレッド・ツェッペリンかぶれの「ボウナム」を書いた人だ。
演奏もなかなかキレてて、聴いててとても楽しい。
「弦楽のための協奏曲」は自身の「弦楽四重奏曲第2番」を改作したもの。
ロシア風の雰囲気を纏わせながら、ショスタコーヴィチのDSCH音型を使ってます。
重苦しい第1楽章、バルトークを過激にしたような狂乱の第2楽章、暗くも最後に救いのある第3楽章。
第2楽章は聴いてて楽しかったけど、これバルトークかと言われるとちょっと疑問。普通にロシア近代なプレスト。
「パッション・ホイール」は7奏者のための作品。ドラムの導入後にクラリネットのソリスティックな旋律。
次第に混沌としながらもテンションが上がっていくのは悪くないが、最後は異常に静かな楽章で終わる。
「オグン・バダグリス」は以前も聴いたことある。ハイチの土着民のリズムを使った
最初の曲とは別ベクトルにノリノリな音楽。
うむ、やっぱりこの人は打楽器作品だけ書いてればいいんじゃないかな。
正直に言って両端2曲の印象しか、ない。
演奏はなかなかソリスティックかつ勢いがあって素晴らしいもの。



Dane Rudhyar
Works for Piano
Granites, Three Paeans, Tetragrams 1st Serie, Third Pentagram

Steffen Schleiermacher,Piano
2004 Hat hut  140

たぶん占星術者として一番有名なディーン・ルディア(1895-1985)のピアノ作品集。
作曲家としての活動はあまり知られていませんが、「ペンタグラム」「テトラグラム」のシリーズを初めとして
なかなか興味深い作品を多く残しています(このCDも「テトラグラム第1部」「第3ペンタグラム」を収録)。
ここに収録されている作品は1920年代のものばかりですが、その響きはとてもそう思えないほどに新鮮で力強い。
スクリャービンのピアノ曲を激しくしながらも、さらに神秘主義的な方向性を推し進めた
ようなもの、と言えば内容がわかりやすいでしょうか。
美しいながらもクラスターにも通じるような不協和音の大胆な使用は、
クラスターの始祖であるカウエルとの交流があったことも一因でしょう。
他にもカール・ラッグルズなど当時の最先端を行く作曲家の影響を受けた彼の作品だからこそ、
今の時代でも十分に刺激的な響きを持っているのでは。
この占星術やベルクソンの哲学に影響を受けた独特の神秘さを持つ音楽、
近年ジェームズ・テニーやピーター・ガーランドに認められその評価が進んでいます。
なんせ自分もガーランドの弦楽四重奏でルディアを知った口だし。
スクリャービンあたりが好きな人なら、結構はまるんじゃないでしょうか。
自分は特に最後の「第3ペンタグラム」が気に入っています。
演奏、シュテッフェン・シュライエルマッヒャーが演奏している辺り、「激しい」と感じた理由でしょう。
彼の非常に固くダイナミクスのある演奏は、とても自分好みです。
なお、解説はカイル・ガンが書いてます。



Dane Rudhyar
Advent, Crisis & Overcoming, Transmutation

Kronos Quartet  Marcia Mikulak,Piano
1991 Composers Recording Inc.(CRI)  CD 604

ディーン・ルディア(1895-1985)の曲をクロノス・カルテットが演奏してたなんて知らなんだ。
でもよく見たら、そもそもAdventなんて彼らに献呈されてるし。
「降臨」(1976)は文字通りキリストの降臨をマリア視点で描いたもの。
とは言っても、描写的な音楽なんかではなく心象風景を近代音楽の世界にあらわしたもの。
こうして聴くと、けっこう沈み込む響きだ。以前聴いたピアノ作品はかなり鋭い響きだったんだけれど。
とはいっても、この厭世感というか非現実感漂う暗くうねる音楽はとても彼らしい。
「苦難と克服」(1978)のほうは、各楽章にタイトルがついてないだけ、幾分純音楽的、なんでしょうか。
こちらのほうは前曲ほど鬱屈して内面世界に走っていないので素直に聴けます。
ベティ・フリーマンにささげられた、妖しくも美しい弦楽四重奏曲。
うーん、この2曲を比べると、彼らしさが出てるのは前者だけれど音楽的に聴きやすいのは後者だなあ。
「トランスミューテーション(変異)」(1976)はピアノソロのための7楽章からなる作品。
内面世界におけるエゴの克服を表現した、占星術師の彼らしい精神世界。
葛藤を描く中盤とか、なかなかに劇的でかっこいいです。
ただ、Hat hutの作品集と比べると、ちょっと刺激が足りなかったかなあ。



John Rutter
Requiem

Justyna Stepien,S.  Musica Sacra Warsaw-Praga Cathedral Choir  Pawel Lukaszewski,Cho.Mas.
Lomza Chamber Philharmonic  Jan Milosz Zarzycki,Cond.
2011 Musica Sacra Edition  034

ジョン・ラターの代表作「レクイエム」を総ポーランド勢で演奏。
2010年にスモレンスクで起きた、ポーランド空軍機墜落事故の追悼1周年として行われた演奏会からのライヴ録音。
「Requiem aeternam」、ティンパニの弱いリズムに始まる音楽は
どこか葬送行進を思わせながらも、音楽は非常に美しくラターらしい歌いまわし。
「Out of the deep」はチェロ独奏が重要な役割を果たす、暗めの音楽。
替わって「Pie Jesu」はとても穏やかで甘い、ラターの歌いまわしが炸裂した有名な楽章。
クラシックを超えてヒーリングに近い聴きやすさを兼ね備えています。
「Sanctus」はグロッケンや木管の響く、短くも輝かしい楽想。個人的にはラターはこういう部分が一番好み。
「Agnus Dei」は重苦しい葬送行進が鳴り響く、最もシンフォニックな楽章。
その意味では、一番ステレオタイプのレクイエムに近い音楽を聴けるともいえる。
「The Lord is my shepherd」はオーボエが旋律を奏でる点が、同じく詩編からの引用をしている
第2楽章との対応をしています。こちらもなかなか旋律美が光る綺麗な音楽。
「Lux aeterna」は最後に相応しい、穏やかなコラール風の旋律で終わる。
演奏は予想をはるかに超えて良かった。まあ、背景事情としても
大統領含む全員が死亡した第二次大戦以降のポーランドで最悪とも言われた事故の追悼式典ですから
演奏にも感情が籠っているのはよく分かる。録音もライヴと思えない良好さ。



Peter Ruzicka
Sinfonia, Befragung, Feed Buck, Metamorphosen

Radio-Sinfonieorchester Stuttgart  Michael Gielen,Cond.
NDR-Sinfonieorchester  Moshe Atzmon,Cond.
Sinfonieorchester des Sudwestfunks  Ernest Bour,Cond. etc.
Kolner Rundfunk-Sinfonie-Orchester  Gerd Albrecht,Cond.
1993 cpo  999 053-2

ザルツブルク音楽祭の芸術監督を務めていたことで知名度も高い
ペーター・ルジツカ(1948-)の作品集。「メタモルフォーゼン」(1990)以外は70年代前半の曲。
「シンフォニア」はランボーやウィリアム・ブレイクに影響を受けた、弦楽器メインの作品。
マーラー、アイヴズ、バルトークの引用も後半に出てくる。
弦楽器の静かで線的な盛り上がりと、打楽器や声の入り乱れる爆発がかなり対比的。
「Befragung(Questioning)」、音楽断片の不意な中断や予期せぬ進行などに主眼を置いた、かなり進行が極端な作品。
そういう意味ではすごい聴いていて面白かった。ウェーベルンの作品を構成のヒントにしています。
現代音楽の持つ意外性を強調しているので、構成を抜きにして聴ける。
「フィード・バック」はソロイスト的な性格を持たせた4群の管弦楽のための作品。
全編にわたり構造のフィードバックが中核になる、七部構成。電子的な響きやノイズ音響も入ってくるので、相当やかましい感じ。
途中、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」をもじったような音楽も出てきます。
これ、実際に聴いたら音響に溺れるのが相当楽しそう。収録曲の中で一番おもしろかった。
「メタモルフォーゼン」もやはりマーラーやアイヴズ(の「答えのない問い」)に影響を受けた曲。
凍りつくような弦楽の下地に、トランペットの錯乱がはるかに響いてくる。
ハイドンの断片のような音楽が淡く降り注ぐ、時間が凍りつくような冷たさと儚さをもつ作品。
「フィード・バック」とは対照的な音楽ですが、これも負けず劣らず素晴らしいと思う。
演奏は超一流の指揮者ばかり。すげえ。



フレデリック・ジェフスキ
Frederic Rzewski
「不屈の民」変奏曲
The People United Never be Defeated! for solo piano 36 variations on El Pueblo Unido Jamas Sera Vencido! by Sergio Ortega and Quilapa Yun

高橋悠治、ピアノ
1989 コジマ録音(ALM)  ALCD-19

ジェフスキの有無を言わせない代表作。
チリの革命歌を主題にして、その他のメロディー引用もしながら36の変奏が1時間かけて繰り広げられる大作。
様々な技法が使われながら6変奏ごとにクライマックスを築き、最後には即興のカデンツァを挟み主題が帰ってくる。
前衛的ではありますがそんな大したものではありません。特に主題は普通に良いバラード。
主題からして政治的アプローチが強い作品ですが、それ抜きにしても十分満足できる内容です。
この高橋悠治の演奏は、硬い音できっちりと聴かせてくる。変奏の一つ一つが迫力を持って響いてきますね。
ジェフスキ自身の演奏と比べると、所々の表現にはそっちの方が良いかな・・・という場面もありますが、変奏は少なくともこちらの方が楽しめる。
あとテンポはこちらの方が速め。性急なところは乗れる反面、もうちょっとためてほしいところもちらほら。
でも有無を言わさず突進する様はぐいと引き寄せられるようで、聴いていて心地よい。
自作自演版はどうもテンポが遅くて・・・渋くて良いのですが私にはまだ合いません。
ただ、この悠治盤で一番の欠点は音に重みが少ないこと。特に主題では低音の音がガツンとほしい所もあっさり弾いてしまう。
全体の流れがとてもスマートなだけにここは痛い。主題だけ聴くなら自作自演版のほうかなあ。



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