作曲家別 U-Z
姓のアルファベット順。
Jakob Ullmann
A Catalogue of Sounds
Ensemble Oriol Berlin Freya Ritts-Kirby,Vn. Sophie Renshaw,Vla. Michael M. Kasper,Vc.
2005 Edition RZ ed. RZ 1017
ヤーコプ(ヤコブ)・ウルマンは1958年生まれ、ドイツの作曲家。
かすれた音にならない音が、物の隙間を縫う風のように微かに響く。
音楽の全てが静寂と発音の合間に迷い込んで挟み込まれ、音になりきれないうめきを上げる。
弦楽合奏のかすれた響きは、その実内部で様々な変遷を遂げていることが傾聴で分かります。
その移り変わりは、例えばピッツィカートが現れるだけで劇的な変化になるほどの小ささですが、それでも
僅かな音を聴こうとする耳には繊細な変化として現れることになります。
それはまるでフランシスコ・ロペスの静寂な音響作品を聴いているよう。
あるいは、音に対する聴き手の姿勢はフェルドマン作品へのそれを思わせます。
しかし、音楽的にはやはりルイジ・ノーノの後期作品群のような、あの不気味な静寂さと密接にありますね。
ものすごく薄く、それでいて非常に濃い75分間。
Galina Ustvolskaya
Preludes nos.1-12, Composition No.1"Dona Nobis Pacem"
Composition No.2"Dies Irae", Composition No.3"Benedictus qui Venit"
Oleg Malov,P.&Cond. St. Petersburg Soloists
1994 Megadisc MDC 7867
ロシアの女性作曲家ガリーナ・ウストヴォルスカヤの作品集。
「12の前奏曲」は1953年なので、けっこう初期のピアノソロ作品。ウゴルスキに初演されています。
彼女らしい激しい音の動きと不気味さはすでに萌芽が見えますが、後期のそれに比べるとすごくまとも。
師であるショスタコーヴィチの「24の前奏曲」らしい部分も見えますね。クラシカルにいい曲。
「コンポジション第1番」はチューバの野太いソロに、衝撃音的なピッコロとピアノが絡んでくる。
続くピアノソロも、伴奏部分は不協和音(というかクラスター)の強打が続く。これぞウストヴォルスカヤ。
音の凶暴さが、音高の両極端さと相まって異常な世界を作り上げます。
「第2番」は冒頭、ピアノの攻撃的なメロディーと、弦楽の混沌とした和音が印象的。そこからトムに導かれて
暴力的な音楽の行進が始まります。ピアノ、弦、トムの三者がそれぞれの衝撃音を提示し合う。
「第3番」は木管アンサンブルとピアノ。木管のどろどろした和音にピアノが和音を叩きつける。
演奏はきちんとまとめられてはいますが、あまり迫力がない。ただ、そう聴こえるのは録音に依る所が大きい感じです。
弦はそれ抜きでも怪しいですが、チューバなどはかなり良い感じ。ピアノはまあまあ。
Peteris Vasks
Cantabile, Cor anglais Concerto,
Message(Vestijums), Musica Dolorosa, Lauda
Normunds Schnee,C.a. Riga Philharmonic Orchestra Kriss Rusmanis,Con.
1994 Conifer / BMG BVCO-1501
ラトビア出身、旋律的な作風で以前から注目を浴びているペーテリス・ヴァスクス(1946-)の作品集。
これは国内盤もあるし、おそらく日本国内での流通量が多いディスクの一つでは。
「カンタービレ」は演奏・録音共に多い彼の代表作。
美しく憂いと喜びを込めた旋律が繰り返し押し寄せては引いていく。
クラスターのように感情が押し寄せ、思いがほとばしるようなグリッサンドが垂れる。
自分も、この10分たらずの音楽が彼の作品では一番気に入っています。
「コーラングレ協奏曲」はNYフィルの奏者から依頼された曲。
第1・3楽章の叙情的な音楽はヴァスクスお得意のもの。
第2楽章は個人的にお気に入り。民謡に基づく、愁いを帯びたリズミカルで華やかな楽章。
第4楽章は、彼独自の偶然性を取り入れた、まさに自然に溶け込むような音楽。
「メッセージ」ピアノと低弦のうねりから美しく、かつどこか不協和的に展開。
繰り返されるメロディに各自の裁量で即興が許されていることで、音楽の自由さと人間味が加わる。
緊張を持った、このなかで一番現代性と彼の音楽観が強く結びついた作品。
「ムジカ・ドロローザ」は作曲者の「最も悲観的な作品で、ここにはいかなる楽観も希望も」ない。
確かに、音楽は朗々と歌うのではなく切実に何かを訴える調子。
「ラウダ」は彼の(この時点で)最大の作品。ラトビアの民謡を収集したことで知られる
クリスヤニス・バロンス(Krisjanis Barons)の生誕150年を記念してかかれたもの。
偶然性、感情のように押し寄せる旋律、時折現れる素朴な民謡。
彼の音楽の特徴が全て見れる良い作品です。
演奏は細めで、録音のせいもあり勢いはあまりないですが、この流麗な作品群の演奏ではそう目立ちません。
むしろよく纏まっていますし、ヴァスクスを知る良いCDになると思います。
Jacob ter Veldhuis
Postnuclear Winterscenario No.3, De Zuchten van Rameau,
The Laws of Silence, Lucebert -Van Grote en Kleine Vogels, The Storm
Groningen Guitar Duo Annelie de Man/Thora Johansen,harpsichord Djoke Winkler Prins,Soprano
BVHaast CD 9606
ヤコブ・テル・フェルトハウス(1951-)の古い作品集を偶然ゲット。
「核の冬構想第3番」、これは幾多もあるこの曲の編成種類によって番号が変わるだけみたい。
彼の曲としては異常に簡素な、単音の旋律が重なっていく憂鬱な音楽。
これ、間違いなくグローニンゲン・ギター・デュオのCDに収録されてるのと同じ音源だ…残念。
「ラモーの溜息(The Sighs of Rameau)」はソロ楽器にテープ再生とプロジェクションが付随する彼お得意のパターン。
ラモーのクラヴサン組曲を基に構成された、バロック音楽の構成要素を再構築して見出していく試み。
まるでフリージャズのような淡いテープにハープシコードがアルペジオを重ねていく。
中盤になると次第にエコーからリズムが現れ出し、ポップながらもハープの舞のような綺麗な音が乱れ打ち。
後半にはロックのリフもサンプルに現れながら混沌としていきますが、最後は冒頭のような静けさに回帰する。
「The Laws of Silence」はテープ作品。「車椅子の物理学者」として有名な
スティーヴン・ホーキングの使う人工音声に興味を持って、これをサンプルに音楽を組み上げた模様。
彼の本領発揮、ポップに壮大に、楽しくてリズミカルだけど変てこな、サンプリングの醍醐味が味わえる。
なお、ここの音源は後年編集された短縮版で、本来はもっとあるらしい。
「ルチバート(Lucebert -On Birds Large and Small)」は1987年、比較的初期の作品。
オランダの芸術家であった彼の詩にテープ伴奏と歌唱を付けた、ポップ色の薄い作曲です。
ただ、そのテープ音響自体は近年の彼らしいところもあるので、ポップというかチープに聴こえなくもない。
3曲目なんかは、そのリズミックというか反復的な構成が近作を連想させる出来。
「嵐」は「ラモーの溜息」で使われなかったスケッチを再利用して作曲されたもの。
これらの作曲中に滞在していた友人作曲家宅の留守番電話などをサンプリングしています。
なんというか、ライヒの音声サンプリングみたいなことをしているけどインパクトはない。
ただ、その分バロックの残滓と一緒くたに淡々とミックスされていく感覚はこの上なく彼らしいポップさ。
2,3曲目が期待通りのアヴァンポップしてて最高でした。
Jacob ter Veldhuis
Heartbreakers
Grab it!, Heartbreakers, Tatatata,
May This Bliss Never End, Gulf War, Lipstick, Pitch Black
Arno Bornkamp,T.Sax. The Houdini's Rene Berman,Vc. Kees Wieringa,P.
Eleonore Pameijer,Fl. The Aurelia Saxophone Quartet
2001 Emergo Classics EC 3920-2
ヤコブ・テル・フェルトハウスのラジカセ再生と共演する90年代後半の曲を揃えた一枚。
有名どころが結構あって、それだけでも壮観。
「Grab it!」(1999)は自分が初めて彼を知った曲でもあります。
少年犯罪の囚人を扱ったドキュメンタリーをサンプリング源にすることで、
制作時に意識していたクリスチャン・ローバの「Hard」を超えるハードさの作品を求めたそう。
ここでは初演者でもあるArno Bornkampによるオリジナルのテナーサックス版を収録。
なるほど、この演奏で聴くとこれはこれでギター版よりシンプルながら鋭いエッジが聴けて良い感じ。
それでいてクラシカルなユニゾン風構造の面白さが聴けるのが評価高い。
「ハートブレイカーズ」(1999)はテレビのトークショーがサンプル。
ジャズアンサンブルのために書かれただけあって、非常に弾けていて楽しい。
とはいえ、その奏される旋律は会話のピッチから作られていて、
Grab it!ほど分かりやすくはないものライヒにも似た声の旋律化を施されています。
第1部はアップテンポのスウィングジャズ、第2部はピアノソロから始まるメロウなバラードから
どんどん盛り上がっていくファンク系も入った盛りだくさんな内容。
なおこの曲はYoutubeにあるサックス四重奏版もこれと同じかそれ以上にカッコいい。
チェロとラジカセのための「タタタタ」(1998)は子供時代に詩人アポリネールと邂逅した人物の話がオリジナル。
"Time Stretching"の最初が印象的に繰り返され展開していく、
なかなか軽快ながらも面白い変奏曲。チェロ独奏の技巧的な面も楽しめるところが良い。
チェロ、ピアノとラジカセによる「May This Bliss Never End」(1996)は
チェット・ベイカー最後のインタビューをマテリアルにしたもの。
これは割と生楽器とラジカセの同期がはっきりしてる方。どこか陰のある響きで
後半なんかは独白みたいなシリアスぶる楽想になりますが、これもまた良し。
テープ音楽「湾岸戦争」(1997)は「ハートブレイカーズ」と同様のサンプリングですが
PCによる音楽再生はどこかチープながら普段と違う重みもあり、人間に潜む暴力性の描出を試みています。
フルートとの共演作「リップスティック」(1998)はフープダンスのような音楽を目指したらしい。
なるほど女声のサンプルに乗せて軽やかに舞う様はいつもの彼らしいポップさに加えて優雅さも兼ね備えている。
アメリカのトークショーとビリー・ホリデイのインタビューを組み合わせた作品。
サックス四重奏とラジカセのための「ピッチ・ブラック」(1998)もチェット・ベイカーがネタ元。
彼が薬物依存と囚人生活を回顧する場面などが切り取られ、サックスによる緩急ついた
ジャズ風の影響を持ちながらも実にフェルトハウスらしいノリの音楽が続く。
最後はベイカー自身の演奏録音で静かに締めるあたり、サンプル元としての、および
個人的な対象としての敬意を感じられてしんみりきます。
演奏も全てが委嘱した/初演した人物によるものだけに不安さは全くなし。
曲目も含め、フェルトハウス作品を知るのにこれ以上ないし、また彼を語るには外せない重要なCD。
それなのにもはや入手困難な部類に入っているのが非常に惜しい。
Sandor Veress
Hommage a Paul Klee, Concerto for Piano,Strings & Percussion, Six Scardas
Andras Schiff/Denes Varjon(Hommage),Piano
Budapest Festival Orchestra Heinz Holliger,Cond.
1998 Teldec 0630-19992-2
ハンガリーはトランシルヴァニア生まれ、後にスイスに亡命したシャーンドル・ヴェレシュ(1907-92)。
彼の作品は前衛とは全く違う道を歩んでいます。
亡命直後の1951年に作られた「パウル・クレーへのオマージュ」を聴いてもそれがよくわかる。
あくまで彼はバルトークとクルターク(やリゲティ)の隙間を行くような道を選び、
当時の前衛の潮流に自分を任せようとしなかったことがわかります。
クレーの「石のコレクション」による印象を元にして、絵画による印象を変えるように
中心調性を振り分けながら、淡く美しい音楽がピアノとオーケストラで綴られる。
複雑な和声と近代的な技法、溌剌としたリズムと流れるような旋律。さらに「火の鳥」など他作品の引用。
「ピアノ協奏曲」は上記と同時期の作品。ここでは純粋に構成的なヴェレシュの作曲手腕が聴けます。
ある程度シンメトリックな構造を持つ付点リズムの印象的な第1楽章、
長く揺れる悲歌の第2楽章、十二音配列を使いながらもその古典的な溌剌さを失わない第3楽章。
ピアノのための「6つのチャルダーシュ」は1938年の作品。
軽く聴くと簡素な舞曲のパラフレーズ。けれど、そこには若いヴェレシュの考えが様々に盛り込まれています。
リズムの印象的な、短い7分間。
素晴らしいほどに美しく、そして力強い作品たち。
クルタークの作品は自分は好みではないのですが、彼の作品はとても気に入りました。
クラシカルな作曲性を、自分のものにしながらそれを頑固に貫いた正当な作曲家です。
演奏も申し分なし。同じハンガリーにルーツを持つメンバーならでは。
Peter-Jan Wagemans
De Zevende Symfonie(Seventh Symphony), De Stad en de Engel(The City and the Angel)
Netherlands Radio Philharmonic Orchestra Hans Leenders/Micha Hamel,Cond.
2007 Etcetera KTC 1347
クラウス・フーバーらに師事したハーグ出身のペーテル=ヤン・ワーヘマンス(1952-)の作品集。
「交響曲第7番」(1999)、オランダで7番まで交響曲を書いたのはこの時点では
他にハルトマンとヘンツェしかいないらしい…この交響曲書きとしての活動は
師でもあるMatthijs Vermeulen(マタイス・フェルメウレン,1888-1967)の影響が大きい様子。
ワーグナーチューバ、ビューグル、互いで四分音ずらされた2台のグロッケンを用いる巨大編成です。
清涼さを感じる高音楽器のきらめきとクラスター風の低い音で開始。
ベートーヴェンの9番から引用をした主題を基に、次第に音楽は重くも派手になっていく。
第2楽章は彼の作風としては比較的珍しい、終始激しいテンポで疾走する楽想。
いわゆるスケルツォ風楽章ですが、その混沌が押し寄せてくるような倒錯は
メシアンのトゥランガリラにおける第5・10楽章で感じるものに似ている。
第3楽章はそれと対する楽章、先ほどは暗闇の暗示でしたがこちらは光。
ゲーテの死の床を着想元にした、グロテスクなものもありながら、次第に光の中に消えゆくような音楽。
第4楽章はウェーベルンの技法も使った、短くも技巧的で印象的なもの。動きもある。
終楽章はじわじわとコード進行から爆発するような動きが漏れ出てくる。
楽想としては冒頭のようなものに戻りながら、コードに戻って終わる。
1時間近い大作ですが、その割にはあっさりした終わり方。でもきちんとは締まっている。
「The City and the Angel」はJames Ensorの絵画の印象を基に作られた作品。
グレゴリオ聖歌からの引用を使ったりと中世の感触を垣間見ることができます。
快活な6/8の音楽などが混沌とした流れから現れる、彼が得意とするモザイク風の形式の
魅力が十全に聴ける作品だと思う。割とはっきり三部形式。
あまり多くないですが、勢いのある部分の派手さが半端ない。
特に交響曲の第2楽章だけでも個人的には繰り返し聴けるはちゃめちゃぶりで満足。
Jean Wiener
Works for Piano
Second Sonatina, Reve, One-Step, Sonatine Syncopee,
3 Moments de Musique, Blues, Haarlem, 3 Dances, Sonata
Marcel Worms, Piano
BVHaast CD 9614
パリ音楽院で学び、若いころはミヨーやコクトーらと特に親交の深かったジャン・ヴィエネル(1896-1982)。
ナイトクラブのピアニストとして経歴デビューしたり、映画音楽の作曲やラジオでの即興演奏を積極的に行い、
後年はピンクフロイドを聴きながらベリオやディティユーとも友人だったりと
終生純音楽と軽音楽と言われるカテゴリの壁をなくそうとしていた人物でもありました。
「第2ソナチナ」第1楽章は、プーランクも引用したことがあるシャンソン歌手Yvonne Printempsに捧げられています。
シャンソンにウインナ・ワルツを組み合わせたような、流れるような音楽。
第3曲なんかは、ジャズと名付けられている通り20年代ジャズの語法が丸のまま出ていて爽快。
「夢」はウインナワルツとジャズを組み合わせたような独特の音楽が面白い。
「ワン・ステップ」(1926)はその名の通り、当時流行していた踊りの一形式をそのまま表したもの。
彼が作ったミュージカルからの抜粋ですが、短くもダンサブルな軽い小品。
「シンコペート・ソナチネ」(1921)はかなり初期の作品。
これはかなりクラシカルな軽さが聴けて良いと思う。プーランクやケクランの軽いところを抽出したような楽想。
「音楽の3つの瞬間」(1980)は替わって最晩年の作曲。
こうしてレント主体の音楽を聴くと、和声は六人組あたりのものと似通っていて
彼らと同世代の人物だったんだなと凄く納得できる。
「ブルース」「ハーレム(ブルースのテンポで)」は彼のジャズ趣味がそのまま出た名前通りの小品。
「3つの踊り」(1955)は彼の軽快な作風がジャズの影響抜きで聴ける。
ポルカ、ジャバ(19世紀仏で流行った形式)、タンゴ、どれも見事。
「ソナタ」(1925)は彼のバロック趣味が現れた作品。第1曲はかなりバッハしてる。
そこにポルカやジャズやストラヴィンスキー風新古典が紛れ込んでくるからいかれてる。
近代の中で活躍していた人物ながら、かなり知名度が無い存在。
サティがこれだけ再評価されている中、もうちょっとでも知られて欲しいものです。
オランダのピアニストによる演奏も良いタッチで満足でした。
Christian Wolff
Stones
Wandelweiser Komponisten Ensemble
Antoine Beuger/Jurg Frey/Chico Mello/Michael Pisaro/Burkhard Schlothauer/Kunsu Shim/Thomas Stiegler
1996 Edition Wandelweiser Records EWR 9604
クリスチャン・ウォルフ(1934-)の代表作「石」。スコアには数行の指示があるのみ。要約すると、
1.石を使って音を出す
2.だいたいは単発的に、時々は連打
3.基本は石同士で叩くが、たまには他の物を叩いたりこすったりしてOK
4.壊しちゃいけません
ということ。これを守っていれば、後は何をしても良いわけです。
さて、この音源はヴァンデルヴァイザー出版なわけで、当然中身は異常なまでにストイック。
アントワーヌ・ボイガー、ユルク・フレイ、マイケル・ピサロといった錚々たる面子が
7人も集まっているのに、音は1分の間にいくつ鳴っているか怪しいレベル。あ、こいつらが7人も集まってるからか。
全64分の中で(あ、音が鳴ってるな)と断続的に思えた瞬間は…2分くらい?
いろいろとヴァンデルヴァイザーらしい、一枚でした。
Randall Woolf
Rock Steady
Shakedown(1990)
New Dancetudes(1988) -Allemande, Courante, Sarabande, Gigue
Ice 9(1992)
Quicksilver(1992)
Your Name Backwords(1995)
New Millennium Ensemble & Meridian Arts Ensemble Bradley Lubman,Cond.
Kathleen Supove,Piano & Keyboard Jean DeMart,Fl. Lynn Chang,Vn. Eve Beglarian,Vo. & Key.
1998 Composers Recordings Inc. CD 777?776?(場所によって表記違うよ、なんだこれ)
ミシガン出身、1959年生まれの作曲家。
1曲目からいきなりノリノリのシンフォニック・ロック調。見事なまでに古典的な響きがない。
けれど、構造を注意深く聴いているとしっかり「自分はクラシックの作曲家です」と主張しているのがわかります。
曲調がころころ変わりジューク・ボックスのような氾濫具合が飽きを覚えさせない大編成のアンサンブル作品。
2曲目のピアノ作品は名前からして洒落っ気。ミスタイプじゃないですよねこれ。
こちらはまだ随分クラシックしてる。古典的舞曲との融合というテーマもあって、これだけ影響が見られれば健闘したほうか。
3曲目はまたアンサンブル作品。一番前衛的にやりたい放題してる感じで気に入っています。
冒頭などに特に見られる、特定の音形がだんだん暴走していっていきなり別のメロディーに、というパターンがいかれてて好き。
中高音のきらきらした動きと低音、特にバスクラのがっちりしたベースが印象的。
4曲目はフルートとヴァイオリンのデュオ。ロックの音楽性は、こういう小編成室内楽で再現すると何だか中途半端に聴こえてしまいますね。
悪くないけどちょっと自分好みではなかったです。2曲目みたいにソロだと逆に古典的モノトーンからの逸脱が楽しめるんだけれどなあ。
5曲目はキーボードを駆使して様々な電子音が飛び交います。こりゃほとんどロックの音響だ。
女声の語りに近い歌に、様々に加工された音やシンセ音がロックと具像的音楽のはざまを突き進む。
総じて、クラシック音楽界におけるロックの再現という面ではよく出来ているほうだと思います。
というかこの人、デル・トレディチに師事してますね。それを知ってちょっと納得してしまった・・・なんでだろう。
John Woolrich
Ulysses Awakes
Ulysses Awakes(after Monteverdi), It is Midnight,Dr.Schweitzer,
The Theatre Represents a Garden:Night(after Mozart), A Leap in the Dark(21 Pieces for Strings),
Four Concert Arias
Jane Atkins,Vla. Eileen Hulse/Adele Eikenes,Sop. Christine Cairns,M-Sop.
The Orchestra of St John's John Lubbock,Cond.
2004 Black Box BBM1091
イギリス出身の作曲家、ジョン・ウールリッチ(1954-)の作品集。
「ユリシーズの目覚め」はモンテヴェルディ「ウリッセの帰還」を基にしたヴィオラソロと弦楽アンサンブルのための作品。
バロックな旋律が暗く美しく盛り上がり、新古典主義のような簡素さの中でしっとりと歌われる。
その作り方は、やはりペルゴレージ作品を基にしたストラヴィンスキーの「兵士の物語」を思わせます。
「真夜中のシュヴァイツァー博士」は11の弦楽器のための作品。11の楽章に11の調性と数を統一してます。
暗く響く弦、低く垂れさがるチェロやコントラバス。
平均1分という短い楽想の中で淡く、暗く、そして美しいながらもとりとめなく移ろう。
なおティンゲリー作品の名前が各曲には冠されています。
「劇場は庭園を表す:夜」は今度はモーツァルト作品をコラージュしたもの。
「魔笛」「フィガロの結婚」をマテリアルにしながら、淡い彼自身の作風を
「モーツァルティアーナ」のように溶け込ませて神秘的に響かせる。
「闇の中の跳躍」、副題に21の小品とついていることからも想像できるように、
「シュヴァイツァー博士」と非常に良く似た構成。淡い楽想がとりとめなく続く。
「4つの演奏会用アリア」はウールリッチの淡さ・美しさが良い感じに表れていて、
旋律という中核的な要素もあるので視点をはっきりと定めて聴けるのが良い。
淡くやや暗めなこの楽想は、イギリスの作曲家としてはなかなか個性的な位置にあるのでは。
「ユリシーズの目覚め」と「4つの演奏会用アリア」が個人的には良かった。
Charles Wuorinen
Tashi, Percussion Quartet, Fortune
The Group for Contemporary Music New jersey Percussion Ensemble
2007 Naxos 8.559321
シュテファン・ヴォルペらに師事し、弟子にカーニスやアーサー・ラッセルらを持つチャールズ・ウォーリネン(1938-)。
ピュリッツァー賞最年少受賞経験も持つ、フラクタル幾何学を作曲に用いながらも
新しい複雑性のようなとっつきずらさは忌避している独特の作曲技法を持つ人物。
「タッシ」は名前の示すそのまんま、現代音楽を得意とするアンサンブル、タッシのために書かれた作品。
アンサンブルと管弦楽のためのバージョンもありますが、ここでは4重奏版。
非常に技巧的なパッセージが終始激しく踊りまわるその楽想はウォーリネンの作風を如実に表したもの。
間奏曲は前の楽章の店舗を維持しながら別の展開をすることでつなぎの役割を果たします。
中間楽章のコラール風な楽想は、それだけに染み渡るものがあって面白い。
「打楽器四重奏曲」は聴く前からもう相性が簡単に予想できるというもの。
聴いてみても、その作風は実際、音楽をよりど派手なものに変えてくれている。
18分のあいだ、ずっと激しく叩き続ける疲れやしないか不安になるレベルの動きぶり。
「運命」のタイトルは1980年のベートーベンフェスタのために書かれたことから。
ベートーベン作品の引用も行いながら、今までに比べるとびっくりするくらいロマンティックに進む。
まあ、もちろん構造の過密ぶりは無くなったわけではないですが。
意外とこれが一番面白いかもしれない。
Iannis Xenakis
Electronic Music
ヤニス・クセナキス
電子音楽作品集
Diamorphoses, Concret PH, Orient-Occident,
Bohor, Hibiki-Hana-Ma, S.709
1997 EMF EMF CD 003
クセナキスでどれといったらこのCDかEdition RZなのは間違いないでしょう。
このCDに収められているのはそのどれもが大傑作。今更自分なんかがいろいろ言う必要ありませんね。
実は一番好きなのはS.709です。この曲の異常なまでの音の動きがたまらない。
暴力的なノイズのちぢれがのたうつ様が最高ですよ。
もう何十年も前のエレクトロサウンドなのに、これ以上のノイズは未だに出ていないでしょう。
クセナキスはその意味でもとてつもないことをしました。晩年は・・・まあ仕方がない。
遺作のO-mega聴いたときいろいろ泣きそうになりました。
Iannis Xenakis
Oresteia
Agamemnon
Kassandra
Agamemnon(Suite et Fin)
Les Choephores
Les Eumenides
Sporos Sakkas,Br. Sylvio Gualda,Perc. Robert Weddle,Cond.(Vo.) Dominique Debart,Cond.
Choeur du Departement musical de l'Universite de Strasbourg Maitrise de Colmar
Ensemble Vocal d'Anjou Ensemble de Basse-Normandie
1990 Editions Salabelt SCD8906
クセナキス、1960年代の合唱大作「オレステイア」、全3部。
ただ、正確に言うと、この後何回か改訂をしており、そのたびに曲が挿入されたりしています。
この録音は最後の改訂前のため、第3部挿入曲「La Deesse Athena(アテネの女神)」は入ってません。
男女の混声合唱にだいたい1管編成の管楽アンサンブル、さらにバリトンと打楽器のソロと児童合唱まで盛り込んでます。
この曲の作られた1965-66年頃、他にはあのEdition RZ盤収録のTerretektorh(テルレテクトール、1965-66)や
現代チェロ独奏曲の名作Nomos Alpha(ノモス・アルファ、1966)が作られています。まさにバリバリの大活躍をしていた時期。
曲のほうも、それから察する期待を裏切らない素晴らしい出来です。
アンサンブルの攻撃性、合唱のおどろおどろしさ、打楽器の原始的で粗野な爆発、
バリトンソロのファルセット乱発の呻きと叫びと、どれをとってもクセナキス初期の音が満載。
特に、ザッカスとグァルダ、二人のクセナキス演奏のプロが激しく競演する第1部挿入曲「カッサンドラ」は最高です。
やはりこの人たちの演奏は音の凶暴さが他と違う。一つ一つが聴いていて自分に突き刺さってくる、鋭い演奏。
こんな凄い演奏がライヴという時点で感動もの。終わった後、自分も一緒に拍手したくなります。
合唱だけ時々やたら平坦な語り口なのが残念、激しい音の他メンバーに比べ浮いてる。とはいえ、雰囲気は出てるので問題なし。
とにかく、クセナキス代表作をいくつか聴いた後なら是非聴いてみてください。今は残念ながら廃盤状態みたいだけれど。
Iannis Xenakis
Musique Electro-Acoustique
Pour la Paix
Voyage Absolu des Unari vers Andromede
Danielle Delorme, Francoise Xenakis, Philippe Bardy, Maxens Mayfort;Performers
Choeur de Radio France Michel Tranchant,Cond.
2001 Fractal 015
クセナキスの、UPIC使用の電子音楽作品2つ。けっこう有名な盤ですよねこれ。
「平和について」は、これは男女2人ずつの朗読者と混声合唱に電子音楽の編成なので、正確にはアルバム題通りの
エレクトロ・アコースティック作品。けれどこの録音、なんか個別に録音してミックスしてるみたい。
電子音楽パートが何時も以上に激しいです。ぎょろぎょろ動き回る。
落ち着いた朗読の隙間にこんな電子音が入ってくるので対比があらわに。その中に先鋭的な合唱が入ってくる。
「ウナリからアンドロメダへの絶対的な旅」はUPICによる純粋な電子音楽。
グリッサンドが結果として多いため、下降音形が多いところでは眩暈がしそう。
常に電子音が襲い掛かってくる、ノイジーな逸品。こういうのは大好きです。
ちなみに題の「ウナリ」は日本語のうなりから。
やっぱり、クセナキスの作品を聴いていると、いつもその音楽の持つ力に圧倒される。凄い。
Iannis Xenakis
A Colone, Nuits, Serment, Knephas, Medea
New London Chamber Choir Critical Band James Wood,Cond.
1998 hyperion CDA66980
クセナキスの合唱曲ばかりを収録した、たぶん一番メジャーなCD。
「コロノスにて」はいわゆる「ギリシャ民族主義」的な側面を持った合唱曲。そのため非常に旋律的。
もちろんクセナキス的なトゲトゲしい歌いまわしがありますが、これを聴くと
(クセナキスのくせになんて古典的なんだろう)と思ってしまう。でも普通にいい曲。
「夜」はこの収録曲の中では一番クセナキスらしい音楽。
1967年の作品なだけあって、管弦楽作品などで見られる彼の過激な音の運動がそのまま合唱に使われています。
口笛の使用なんて、まるで「テルレテクトール」を見ているよう。
これが「誓い」(1981年)になると、その頃の作風に準じて流れが混沌としてくる。
個々の声部が激しく動きまわるのではなく、幾分モノフォニックになった流れにカオスと爆発が割り込んでくる。
ある意味インパクトは一番ある曲かもしれません。
「クネファス(暮色)」は晩年、1990年の作品。さらにモノフォニックでドローン的な混沌に進化しています。
晩年のもはやノイズドローンと化した作風を聴くのには良いですが、
やはり彼の音楽の魅力としては物足りなく感じてしまいますね。
最後の「メディア」は1967年に書かれた男声合唱とアンサンブルのための作品。
冒頭の楽器群や合唱のどろりとした動きから、印象的には意外にも後年の作風に似ている。
ただ、構成的にははっきりと当時の語法に倣っていて、そう感じる原因はむしろ
ギリシャ民族主義に則っていることや、そもそもこの曲が舞台音楽として作曲されたことであることがわかる。
最後は打楽器による強烈なリズムに支えられながら熱狂的に音楽が進んで行く。
演奏は(ハイペリオンの上品な録音もあって)小奇麗にまとまりすぎている感じもありますが、
作品の魅力を十二分に伝えてくれるもの。
少なくとも合唱の技量はトップレベルでしょう。
Iannis Xenakis
Orchestral Works
Ais, Tracees, Empreintes, Noomena, Roai, Jonchaies, Shaar, Lichens, Antikhthon,
Synaphai, Horos, Eridanos, Kyania, Erikhthon, Ata, Akrata, Krinoidi,
Metastaseis, Pithoprakta, ST/48, Achorripsis, Syrmos, Hiketides
Spyros Sakkas,Br. Beatrice Daudin,Perc. Hiroaki Ooi,P.
Orchestre Philharmonique du Luxembourg Arturo Tamayo,Cond.
2009 Timpani 5C1177
ティンパニから出ていたクセナキスの管弦楽作品集シリーズがついにまとめて再発。
5枚組でフルにクセナキス、いやあ凄い。
「アイス」、強烈な金管のコードに始まり、バリトンの裏声と打楽器の鮮烈な殴り合いが繰り広げられる。
後期特有の民族風な動きも垣間見えながら、それでも後期としては異常なまでに激しい音の粒が爆発する。
この録音は打楽器の迫力が凄い。録音・編集で見せている所も多いけれど、それでも結果として素晴らしい。
ザッカスの方が、さすがに年月を感じる迫力で、ちょっと負けてはいた。でも十分に凄い。
「描かれたもの」は1987年の作品なので結構晩年の方。
冒頭のど迫力の叫びからピアノを含めた強靭なパルス、終始突き刺さるような烈しさ。
たった5分の作品ではありますが、後期の混沌とした音の渦が襲いかかる良い作品です。
「痕跡」、金管のロングトーンから徐々に彼らしい痙攣音型が見えてくる。
弦楽器のグリッサンドが絡みつき、じりじりと音と緊張と力がこもっていく。
「ノーメナ」、クラリネットから始まるどぎついグリッサンド群、それがやがて崩壊して激しい個々の動きへと拡散していく。
「ロアイ」は冒頭の混沌から終始クラスターががんがんと突き進む、晩年特有の音楽。後半は普通の現代音楽みたい。
CD2、「ジョンシェ(藺草が茂る土地)」は冒頭のインパクトがやっぱり凄い。
強烈なグリッサンドの頂点から沖縄音階(のようなもの)が降り注ぐところ。
強烈な管弦楽の足踏み、激しいパルス。70年代の代表作の一つです。
「シャール」、声楽でよくやるグリッサンド音型に始まり、切羽詰まるようなパルス、激しい高音低音の応酬。
晩年の作品としては派手で、かつ普通の現代音楽みたいで聴きやすい展開が。
「リシェン(地衣類)」、細かく動く弦楽、鞭をきっかけに錯乱していく全体。
民族的な旋律?を交えながら打楽器暴発のなかなかテンション高い音楽。
ただ構造は後期ならではのもやもやした音群が中核的です。
「アンティクトン(対地星)」、クラリネットの不協和音から始まりグリッサンドや咆哮、
中期の荒々しさがフルに詰まった傑作バレエ音楽。
CD3、ネタ知名度はやたら高い「シナファイ」、確かに凄いけれどこれだけでなく(他曲含め)もっといろいろ見てほしいなあ。
音のトレモロが容赦なくぶつかり合う、中期の烈しさが詰まった曲。
「ホロス」後期らしい、分厚い音の塊が不恰好なリズムの上で踊る。
クラスター的という意味では、一番強烈な音響を誇るかも。
「エリダノス」、比較すると地味ではあるけれども十分に初期・中期の要素が詰まった曲。
弦楽器主体で攻める場面が多いせいだろうか。単体で聴くと十分とんでもない曲なんだが。
「キアニア」90年という晩年にしては20分の大作。
音塊がごつごつホモフォニックに動きまわる、純粋に音の密度が濃い1曲。
ただ、長い割にそこまで面白いとは残念ながら・・・
CD4、第2ピアノ協奏曲である「エリフソン」、激しいピアノの乱舞から弦楽の痙攣、
節操ないまでにばんばんと叩かれるピアノ。「シナファイ」と違う、それ以上にどろどろした様相です。
同一の音名を執拗に叩き続けたり調性的に聴こえる展開が印象的。
これで第3ピアノ協奏曲の「ケクロプス」も録音してくれれば完璧なんだが・・・
「アタ」、弦楽の軋みから原始的なリズムに載せ不恰好に激しく管弦楽が踊る。
60年代クセナキスの傑作とよく言われる「アクラタ」、実は管楽アンサンブル≒吹奏楽。
パルス、フラッター、ミュートのロングトーンが鋭くからみ合う、「噴出」を意味する題と対照的に暗く重い曲。
「クリノイディ」、今回の中では91年と一番最後の作曲年。
「アタ」と似たものを感じながらもこちらは冷たく、どろどろと溶けて冷え切っていく。
CD5は初期作品集。たぶん、ル・ルーのあの音盤やEdition RZのあれを意識したチョイス。
「メタスタシス」、こうして聴くとこの傑作がいかに落ち着いて聴こえることか。
特殊奏法で始まる「ピソプラクタ」、数学理論でほぼ全曲を初めて作った曲。ごちゃごちゃした動きはここで初登場。
「ST/48」でのコンピューターを通した音の動きの冷徹さ。
「アホリプシス」での、作曲における数学理論の完全な採用。
これらの、現代音楽でありながら彼の個性を大きく打ち出した過激さを持つ音楽は
後年のノイズ的で排他的な楽想とは違い、なんと「分かりやすく」聴こえることか。
「シルモス」の弦楽によるパルス的な暴力サウンド、「ヒケティデス」の
トレモロとノイズの合体したクセナキスの暴力性全盛期の楽曲。後期の特徴もちらほら。
タマヨの指揮は音量上げれば十分に素晴らしく楽しめることを発見。
こうすれば、まとまっている上に迫力的なクセナキス音楽を5時間たっぷり聴けます。
もちろん初期作品を始め(うーん)と思う箇所もあるけれど。
Iannis Xenakis
Music for Keyboard Instruments realised by computer
Herma, Mists, Khoai, Evryali, Naama
Daniel Grossmann, MIDI Programming
2008 NEOS NEOS 10707
クセナキスの傑作として名高いヘルマやエヴリアリ、さらにハープシコードのための2作品なども盛り込んだ鍵盤作品集。
ただしコンセプトが大きく異なるところは、人間による演奏ではない、と言う一点。
MIDIによるコンピュータ演奏。つまりそれは、間違えようのない、技術とは全く話しの違う世界の音楽です。
聴いていても分かるように、肉体的な限界がありえないためリズム構造などが非常によく聴き取れる。
あとは、どれだけ「人間らしい演奏」なのかどうか、ですが・・・
自分的にはこれくらいなら(まあいいんじゃない?不安感はないし)といった感想。
もちろん本気で聴けばあれっと思うような違和感はあるものの、そういった観点から演奏を捉えなければ
そこまで不自然さを唱えるようなレベルではないと思います。ハープシコードの高音はさすがに厳しかったですが。
でも何より、過激なクセナキス作品に合うような、硬い音でがんがん叩いてくるのが魅力です。
やっぱりクセナキスは激しい音で聞かせないとね。それにしてもこんなにリズミックな曲たちだったとは。
とくにハープシコード作品はホイナツカの暴力的なサウンドに似た勢いで正確に叩いてくるものだから圧倒される。
聴く前はひやひやものでしたが、蓋を開けてみたらかなりよかったです。
やっぱりこういうとき、普段からテクノやらで電子音を聴いていると違和感を感じにくくて、素直に楽しめますね。
Iannis Xenakis
Chamber Music
Atrees, Morsima-Amorsima, Nomos Alpha, Herma,
ST/4, Polla Ta Dhina, ST/10-1080262, Akrata, Achorripsis
Pierre Penassou,Vc. Georges pludermacher,P. Quatuor Bernede
Instrumental Ensemble of Contemporary Music,Paris Konstantin Simonovich,Cond.
2010 EMI 50999 6 87674 2 6
1960年代、コンスタンティン・シモノヴィチらが残した名演奏をこのたびようやく初CD化。
10楽器のための「アトレ」、点描的なイメージも感じられる、クセナキスにしては静かな方の作品。
ただ、音の持つ力はまったく変わっていない。むしろ、それが浮き彫りになっている感じ。
「モルシマ-アモルシマ」は弦楽アンサンブルとピアノのための編成。
ぽつぽつとつぶやくピアノに弦楽の張りつめた音の霞が漂う。
初期作品の点描的な厳しさは、後期とはまた違った爽快さが楽しめて良いです。
チェロ独奏のための「ノモス・アルファ」あたりから異常さが際立ちます。これがこの中で一番後の曲。
このペナスーの演奏も十分面白い。ただ、パルムの名演と比べると分が悪いのも事実か。
鍵盤を集合論でまとめた実験的傑作「ヘルマ」をプルーデルマッハーが演奏・・・意外すぎる。
迫力はともかく、演奏概念として音を出てくる順番にまとめようとする感覚がいかにも彼らしい。
ただ、そのクラシカルな解釈はこの曲でやるとちょっと違う気も。でも演奏は聴きやすく爽快です。
弦楽四重奏のための「ST/4」、やっぱりこの曲は派手な動き。アルディッティと比べるともちろん
技量や鋭さは劣りますが、でもその音楽の持つ硬い意志は音楽を素晴らしく魅せてくれる。
児童合唱も入る「ポラ・タ・ディナ」はこれが未だに唯一の音源。
大編成のアンサンブルがおどろおどろしくうごめく中、淡々と一つの音で歌われる合唱。
この2枚組の中でも一番どぎつい印象を与えてくれる、音楽・演奏共に申し分ないもの。
「ST/10」は4と同じくSTシステムによる作曲。音の動きは同じく派手(というか同じ構成)なんですが、
そこに(彼がまず使わない)ハープが入ってくるのでびっくりします。
半音階下降の印象的なシーンをハープが受け持っているのは、けれど確かにあっている気がする。
パルスだらけの名作管楽八重奏「アクラタ」、この演奏は金管がちょっと軟派な音で困る。
その代り、ファゴットの低音とかがどろどろと聞こえてくるのはすごくよかった。
最後は「アホリプシス」。「アトレ」等からSTシリーズへ向かう様な、短いながら構造が不規則に混合される。
決して素晴らしいとまでは言えない荒さだけれど、その生々しさはやはり特記できる。
そして、これが1500円でお釣りが来るような廉価であることもびっくり。
Gayle Young
According
なし(JWD Music WRC1-1265)
David RosenboomやJames Tennyへ師事した女性作曲家の作品集LPのブート。
Reinhard Reitzensteinに依頼された作品で統一しています。
1曲目「According to the Moon」はソプラノとアルトの二重奏。
まるでタイミングが少しずれているだけのような、ふわふわと伸びていく女声ドローン。
二人の音が同時にずれることが無いお陰で、音が決して途切れず、結果持続音的な効果を生んでいる。
この作品は、ジャケットにもなっているReitzensteinによる同名のブロンズ彫刻作品が元なんでしょうか。
「In Motion」はColumbineというオルゴールのような音を出す楽器のソロ。
やはり、似たメロディーが徐々に初期ライヒのようなシフトずれで響いてくる。
だんだん声部が増えてごちゃごちゃと混沌としていく様は爽快。
「Theorein」はGayle Young自身によるColumbineの、電子的な音のふわふわした寡黙なドローン。
そこに、Reitzensteinのささやきがぶつぶつとはいってくる。
ひそやかで妖しい、ドローン的な印象が強い音楽たちでした。
録音はLP由来のぶつぶつノイズが結構激しいのがかなり残念な感じですが、内容は良い。
ただ折角なら、ジャケットもこんな中途半端なサイズじゃなくもう一回り小さく・・・
reSOUNDings -Music for Orchestra by Judith Lang Zaimont
Symphony No.1(1994), Elegy for Strings(1998), Monarchs: Movement for Orchestra(1988)
Czech Radio Symphony Orchestra Leos Svarovsky/Doris Lang Kolsoff,Cond. etc.
2000 Arabesque Z6742
ジュディス・ラング・ザイモント(1945-)はテネシー州メンフィス出身の女性作曲家。
Hugo Weisgall, Otto Luening, Jack Bessonに師事したそう。全員知らない・・・
アンドレ・ジョリヴェにも管弦楽法を教わったことがあるみたい。ミネソタ音大の教授もしています。
「交響曲第1番」、第1楽章は神秘的に始まり、徐々に混乱と絢爛さを持って興奮していく。
かと思いきや収まってコラール的な楽想に逆戻りしたりと、転換がかなりせわしない。
第2楽章はパセティックな弦の楽想から盛り上がり、徐々に劇的に展開していく。
第3楽章は打楽器強打で幕を開け、激しく躍動的に音楽が進む。
前衛的な響きはあくまでも刺激程度、普通のクラシックな耳で十分に楽しめます。
「弦楽のためのエレジー」は、流れるような美しい響きの音楽。
メロディ主導ではないですが、こういう音楽は聴いていてとても心地よい。
「Monarchs」は、ストーリー性の感じられる、交響詩みたいな音楽。
映画音楽もよく手がける現代の穏健な女性作曲家らしい音楽でした。
演奏もアンサンブルがしっかりしていて、不安なし。
Juliusz Zarebski
Piano Works
Grande Polonaise Op.6 in F# major, Les Roses et les Epines Op.13, Berceuse Op.22,
Tarantelle Op.25, Valse Op.27-2&6, Melodia Op.27-5, Mazurka
Marian Mika,Piano
2006 cpo 777 193-2
リストの高弟として華々しいデビューを飾りながらも、わずか31歳にして結核でこの世を去った
ユリウシュ・ザレンプスキ(ザレブスキ)(1854-85)のピアノ作品集。
ショパン没した後、その後を継ぐポーランドの隠れたピアノ曲作曲家にしてピアニストです。
「大ポロネーズ 嬰へ長調」はこの時期のポロネーズらしい、活動的でリズミカルな音型が舞う、リスト風の音楽。
「薔薇といばら」のメランコリックかつショパンを少し進んだような曲調は、彼の作風をよく表したものだと思います。
1曲目、冒頭はラヴェルの「夜のガスパール」を思い出したのは秘密にしといて。
あと、2曲目は以前どこかで聴いた気がしてならないのは気のせいか。
「子守唄」は、自分が初めて彼の作品を知ったきっかけであると同時に、最も人気のある曲。たぶん断トツに。
この憂いのあるけれど優しい、のびやかな旋律は凄く綺麗でまさに夢見るよう。
演奏も、程よく歌いながらも比較的落ち着いたテンポで、この曲の入手容易な音源の中では一番良いのでは。
弦楽器ソロのためにアレンジされてよく演奏されるだけある名曲だと思います。
この曲や「タランテラ」からは彼が亡くなる前年以後に書かれた作品。
そのため、たとえばこの曲を聴いているとその快活で強いリズムを刻む和声は結構近代の萌芽が見えるのに気づきます。
2曲のワルツとメロディーは「贈り物Etrennes」という小品集からの抜粋。
ここまでの曲に比べると、副題の通りなかなか簡素なものばかり。
最後の「マズルカ」は解説も何もないのでよくわからないのですが、作品15とかなんでしょうか。
跳ねるような音型が印象的な、4分ほどの小品。
なるほど、確かにポーランド音楽史で考えるとショパンとシマノフスキの間っぽい。あと挙げるならカルヴォヴィチか。
別にマイナー趣味なのを否定する気もないですが、やっぱりこの人はもうちょっと知られて欲しい気はする。
特に「子守唄」くらいはもっと録音増えても良いんじゃないかなあ。
Pascal Zavaro
Flashes, Three Studies for a Crucifixion, Metal Music, Fiberglass Music
Orchestre National de France Kurt Masur/Gerard Schwarz,Cond.
Ensemble Orchestral de Paris John Nelson,Cond. Quatuor Klimt
2005 Densite 21 DE 003
フランスの作曲家パスカル・ザヴァロ(1959-)の作品集。Naive傘下のレーベルからのリリースです。
「フラッシュ」(1999)は作曲者が気に入っている5つの都市へのオマージュのような内容。
「東京」、金属的な冷たさを持つ冒頭の後、メカニカルでせわしなく動く喧騒的な音楽に。
「カイロ」、激しく陽気な音楽がエスニックなエネルギーを持って展開する。
「パリ」、涼しい風のそよぎを音楽にしたような、ふわふわと漂う音楽。シンセも使ってますね。
「ワルシャワ」、寒空から雪が舞うような、静かな下降音階が印象的な曲。弦楽器は終始木枯らし。
「ニューヨーク」、シンセなどのぎらぎらしたリズムに支えられた、騒々しい音楽。
5楽章でわずか12分弱という短さの中で気軽に楽しめる、実にポストモダンな作品です。
「苦難のための3つの練習曲」(2004)はフランシス・ベーコンの絵画に触発された作品。
金属の虚ろな冒頭から、重々しく鳴り響くビートに支えられて旋律が激しく悶えていく。
ハイハットを持ち出したりして意外と音楽のノリは良く、節操ないといった感じのイメージ。
虚ろながら捉え所のない美しさを厳しさの中に隠し持つ第2楽章、ガラスのような響きから激しい連打へと爆発する第3楽章。
暗くシリアスな音楽ですが、ある程度の聴きやすさはきちんと持ち合わせています。
そういう意味では、何らかのイメージを聴き手に喚起させやすい。
「メタル・ミュージック」(2000)は打楽器と金管アンサンブルのための音楽。
さまざまな金属打楽器のビートに乗せて、ファンキーなトランペットが陽気に入ってくる。
静かな中でもやもやと盛り上がり、乱痴気の中で騒々しく派手に、ファンファーレ風にかっこよく終わる。
これを聴くと、作曲者がいかに他ジャンルの音楽と自由に足をまたいでいるかよくわかります。
6分ほどの小曲。ちなみにライヴ。ブラスバンド編成で聴いてて楽しいし、金管奏者など吹奏楽人間にもおすすめ(と宣伝しとこう)。
弦楽四重奏×2のための「グラスファイバー・ミュージック」(2001)、冒頭からいきなり、大人しいくせにファンキー。
リズミックにぼんぼん盛り上がる第1楽章、ゆったりと切なそうに音が伸びる第2楽章、
ライヒの「トリプル・カルテット」が始まったと勘違いしそうな第3楽章。まあ編成とかがそれに近いしね。
第3楽章のプレストで突っ走る音楽は実に爽快で盛り上がりますね。
前衛について固執することのないポストモダンな作風ですが、その既製の音楽様式を
ただ自分の思うがまま自由に使うことで、聴いていてなかなか楽しい音楽が作れていると思います。
突出したものはないけれど、例えば演奏会でこの人の曲が紛れていたらその演奏会の楽しさが増すような、そんな感じ。
ただ、あえて似た作風を挙げるとするとジョン・アダムスが出そうなあたり、ミニマリズムも結構混じっている。
演奏、かなりの大御所ぞろいで目立った不満はないです。ただ「メタル・ミュージック」は
その手のブラスバンドがやったらもっと爽快な演奏はできそう。
余談、この人の作品目録に「Densha Otoko」なる曲がさりげなく混じっている件について。
うーん、流石はヨーロッパのオタク大国だ、自由すぎる。
Hans Zender
Shir Hashirim
Julie Moffat,Sop. Martyn Hill,Ten. Roswitha Staege,Fl. Uwe Dierksen,Tbn.
Ulrich Loffler,Key. Christof Schulte,Sound Dir. Kamerkoor Nieuwe Muziek(Amsterdam)
Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrucken Hans Zender,Cond.
1997 cpo 999 486-2
旧約聖書にあるソロモンの聖歌をテキストにした、指揮者/作曲家ハンス・ツェンダー(1936-)のカンタータ「シル・ハシリム」。
全4部構成で、それぞれが春夏秋冬を表しています。このCDには第1・2部のみ収録。
それぞれ4楽章からなり、楽章ごとの「poetic idea」に依る音楽が展開されます。
非常にカオスな音楽構成で、短い構造が自由というか、かなり無秩序に近い印象で押し寄せる。
そのためかどうか、あるいは楽器(ソリスト)的に場面転換があるからか、どこか歌劇的。
ソロ楽器の音はライヴで電子変調を行われて、ハウリングのような特殊音響に生まれ変わります。
音楽自体はなかなかメロディアス。壊れたロマン派音楽みたいな感じで考えるとまだ普通に聴けます。
演奏は特には文句なし。まあだってツェンダーだし、自作自演だし。
ハンス・ツェンダー
シューベルト:冬の旅 〜創造的編曲の試み
Hans Zender
Schubert's Winterreise -a composed interpretation
Hans Peter Blochwitz,Tenor Ensemble Modern Hans Zender,Con.
1995 RCA Red Seal(BMG) BVCC-8863~64
指揮者・作曲者として活躍するツェンダーが1993年に発表した有名作。
聴いて分かるように、この作品は一般的な編曲・オーケストレーションでも改訂でもなく、
その中間に位置するような解釈(作者によれば「創造的編曲」)に基づいて作られています。
例えば本来の歌詞に同調するような音楽的な符牒を強調したり、音楽の方向性を現代の視点にあわせ変更したり。
独唱パートは大きな手を加えずにそのまま付加することで、より描写的な音楽に生まれ変わります。
たとえ現代音楽を聴かない聴衆でも、これを聴くとたとえ最初はその響きに戸惑っても、
聴き進めればその内容のはっきりした写実的性格を容易に感じ取れるでしょう。
実は自分、シューベルトはあんまり好きではなかったのですが、これは面白いなと思えました。
やっぱり感覚が「現代的」である証拠なんでしょうね。
演奏は自作自演のアンサンブル・モデルン、安心です。ただアンサンブルなだけにオケの豊かな響きとまではいかない。
確か自分がラジオで聞いたときはもっと大きな編成だった気が・・・気のせいかな。
Grete von Zieritz
Kassandra-Rufe, Concertino fur Klarinette,Horn,Fagott und Streichquartett, Zigeuner-Romanze fur Violine solo
Mitglieder der Orchester-Akademie des Berliner Philharmonischen Orchesters Horst Gobel,Cond.
Grete von Zieritz,Introduction Philharmonisches Oktett Berlin Marianne Boettcher,Vn.
1999 Arte Nova 74321 65421 2
ウィーン出身、ドイツなどを中心に活動し100歳以上を生きた
女性作曲家グレーテ・フォン・ティーリッツ(1899-2001)の作品集。
「カッサンドラの呼び声」(1985/86)は女性小説家クリスタ・ヴォルフの「カッサンドラ」と
画家Christoph Niessの同名連作を題材にした8楽器のための作品。
各楽章の導入に小説からの朗読(音源では作曲者自身)が入り、10つの絵画になぞらえた独奏メインの曲が入る。
そのため、40分もある大作の割に非常に淡く静かな印象。
もっとも、この作品がムソルグスキーの「展覧会の絵」になぞらえたものの
キエフ近郊がチェルブノイリ被害にあったことからヴォルフの作品を起用した
(彼女に「チェルブノイリ」という作品あり)こともこの寂寞さに関連しているかもしれません。
7曲目のコントラバス独奏曲や続くバスクラリネット独奏なんか渋いです。
最後の方は独奏以外の曲も出てきて、暗い曲のそれなりには盛り上がりをつけてくれる。
「クラリネット、ホルン、ファゴットと弦楽四重奏のための協奏曲」(1982)は
彼女の作風が一番わかりやすい。というか、他が分かりずらい。
至って穏健な、近代の延長と言える堅牢なもので、先ほどの曲に比べると動きも非常に多く面白い。
ヴァイオリン独奏のための「ジプシー・ロマンス」(1984)はもともとヴァイオリン協奏曲の
カデンツァ部分として書かれたもの。そのためかなり技巧的に聴かせる部分が多いです。
まあ正直「カッサンドラの呼び声」が一番充実しているとは思えた。
Bernd Alois Zimmermann
Antiphonen, Omnia tempus habent, Presence
Tabea Zimmermann,Vla. Julie Moffat,Sp.
Peter Rundel,Vn. Michael Stirling,Vc. Hermann Kretzschmar,P.
Ensemble Modern Hans Zender,Cond.
1996 BMG 09026 61181 2
セリー技法などを取り入れながらもコラージュや多元主義を得意とし、
突然の自殺で他界したドイツの作曲家ベルント・アロイス・ツィマーマン(1918-70)の作品集。
「アンティフォネン」はヴィオラ協奏曲の形式を取った5楽章の作品。
奇異な楽器配置を取るアンサンブルから聴こえる音はどこか違和感のような新しい響き。
奏者が様々な文章の引用を話す第4楽章は異色です。
「すべてに時宜あり」はソプラノとアンサンブルのためのカンタータ。
テキストの「ウルガタ聖書」は彼が好んで使っていたもの。
セリー技法を使った、旋法的には非常に幅の狭い作品であるはずなのに、様々な音響の楽器
(ソプラノ、グロッケン、チェンバロなど)を使っているために厳格さは薄れ、音響の豊穣さのほうが目立ちます。
「プレザンス」はピアノ三重奏による5場の仮想バレエ曲。
「存在と時間」という近現代哲学の核になる概念について彼なりに考察を加え、
それを各楽器のドン・キホーテ、ユビュ王、マリー・ブルームの三者への見立てに絡めて作曲したもの。
引用やテーマがはっきりと存在していながら、それが交差する激しい絡みあいも聴くと、
とてもそれぞれの自己存在が確立されているとは思えません。
そのあたりの曖昧さが、ツィマーマンの主作風である多元主義にはっきりと繋がっています。
音楽自体もけっこうころころと楽想が変わって楽しい。
実は彼の作品を聴くのはこのCDがはじめて。意外と普通の前衛音楽で安心したと言うか期待はずれというか。
こんど片山杜秀氏お気に入りの「ユビュ王の食卓のための音楽」でも聴いてみよう。
演奏はソリスティックで艶かしい。ツェンダー&モデルンらしいクリアな音楽で聴かせます。
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