電子音楽 作曲家/アーティスト別

姓のアルファベット順です。
複数の作曲家/アーティストの作品が収録されているCDはコンピの方へ。




Daniel Arfib
Musique Numerique

2008 Creel Pone  #88

マルセイユにあるフランス国立科学研究センター(CNRS)の職員だった人間の
コンピューター処理を使った電子音楽作品集。
1981年に出たLPのブート再発ですが、オリジナル自体がレーベルなしの自費出版というあたりマニアックすぎる。
MUSIC Vというコンピューター音楽プログラム/プログラミング言語のソフトで作成された音源。
MUSICシリーズは音響合成で直接デジタルオーディオを生成するプログラミング言語として
なかなかメジャーな位置にあるようですね。日本語Wikipediaがあるくらいだし。
スペーシーな趣の電子音の雲から、オルゴール風の音がきらきらと零れ落ちてくる。
ふわふわとしたとりとめない電子音の動きは、時にリズミカルで
ある時は旋律的になり、拍動を感じさせない不規則な動きにもなる。
地味な音楽ですが、奇妙な聴きやすさがあるあたりガチガチの電子音楽とも
イージーリスニングやアンビエントの走りとも言えない不思議な感覚にさせてくれる。
第3曲は長いけれどその分広漠とした殺風景が広がります。一番面白いのは一番短い1曲目かなあ。



Robert Ashley
Automatic Writing

1996 Lovely Music  LCD 1002

タイトル作の「Automatic Writing」(1979)は45分を超える大作。
なにやらシンセオルガンや低音ビートの不思議な音楽が、BGMのように微かに響いてくる。
僅かに電子音がころころと転がり出し、アシュレイとMimi Johnsonのささやき声が反響する。
アシュレイの提唱する「無意識の話法(involuntary speech)」が存分に味わえる、濃い作品。
ある種、泥酔状態で話される言葉のような意識にない話し方に通ずるこの方法、
はたから聴いているとトリップしている人がよくわからないことを呟いているのと大差ない。
でも、これに手を加えるだけで緊張感のある素晴らしい作品になるから不思議。
「Purposeful Lady Slow Afternoon」と「She was a Visitor」はどちらも1966-67年に書かれた
彼のオペラ「That Morning Thing」からの抜粋。ちなみにこれは(確認してないけれど)ほぼ間違いなくTVオペラ。
彼の友人(女性)が続けて3人自殺したことを機に、自殺の描写なしにそれを表現しようとした作品です。
ホワイトノイズの中で女性のつぶやきに重なるグロッケンとほら貝みたいな音。
「She was a Visitor」のループに重なる、声にならない発声の重々しいドローン。
素晴らしい内容ではあるけれど、とりあえず映像が欲しい。
タイトル曲は元々に映像があろうがなかろうがとにかく面白いけれど、後の2曲は元が元だけにどうも足りない気が。



Robert Ashley (and Paul DeMarinis)
In Sara, Mencken, Christ and Beethoven there were men and women

Cramps  CRSCD 103

アメリカを代表する作曲家の一人であり音声詩の大家、TVオペラの提唱者であるロバート・アシュリー(1930-)の
1972年作品「サラ、メンケン、キリスト、そしてベートーヴェン、そこには男と女がいた 」、クランプから。
この作品ではポール・デマリニスがムーグシンセで参加してます。
落ち着いた、リズミカルな電子パルスに乗せて、アシュレイの声が
John Barton Wolgamotのテキストを休みなしに滔々と読み上げる。
そこにさらに電子音がきゅるきゅると広がりを加え、具体音が控えめに聴こえてくる。
凄く、聴いていて瞑想的。というか倒錯的。
以前聴いたアシュリーは記憶がないんですが、これはすごく楽しめた。



Francois Bayle
Fabulae

Musidisc  244732

フランソワ・バイルのアーカイヴシリーズVol.4。4つの情景からなる、全1時間の大作。
きらきらとコンピュータ音がきらめき、不安定にリズムが見える。
奇妙な音の絨毯が広げられ、混沌とした合成音の連なりが広がっていく。
第2部では、それが特定の何かを示唆しだす。月明かり、タンゴ、スウィング。
とはいえ、その気ままな振る舞いははっきりとした所が全くない。
第3部では、短い音のさまざまな対比の形。そのため、一番せわしなく動き回る。
パルス風ループもあったりして、なんだかちょっとエレクトロニカな風味も感じます。
そして最後の第4部では、それまでを統括するように音が現れつつ、その個々の動きはさらに深く織り込まれていく。
90年の作曲らしい、洗練さと軽さのある音の響き。



David Behrman
Unforeseen Events, Refractive Light

Ben Neill,mutantrumpet
1991 XI  105

電子音楽などの実験音楽界における重鎮であるデヴィッド・バーマンの作品集、ニブロック主催のXIレーベルより。
アルバムタイトルにもなっている「Unforeseen Events」はベン・ネイルのミュータントランペットとの共演、4曲構成。
トランペットのフリージャズ風なゆったりしたソロに、やはりジャズを思わせるコードの和音が寄ってくる。
第2曲以降では動きが双方ともに近づき、心地よい音階風の旋律を奏でたり、ゆるやかな瞑想音楽を展開する。
非常に聴きやすい、電子音楽何だかジャズ何だかわからない音楽です。エレクトロ・アコースティックだから余計に。
「Refractive Light」も可愛らしいころころした電子音がぱらぱらと響いてくる、10分ちょっとの作品。
何かはっきりとした音楽の形をとっているわけではないけれど、聴いていて癒されますね。



David Behrman
Leapday Night, A Traveller's Dream Journal, Interspecies Smalltalk

1991 Lovely Music  LCD 1042

デヴィッド・バーマンの代表作的なCD。
「Leapday Night」はBen Neillとの共演。お二方仲がいいなあ。
オルガンの音色による、ころころ変わる和音を背景に、ミュータントランペットがフリーに動き回る。
後半は、トランペットは持続音を吹くに留まり、和音の動きがメインになっていく。
聴きやすいだけでなく、トリップ性ももった非常に美しい曲です。素晴らしい。
「A Traveller's Dream Journal」は、傾向がいくらかエキゾチック。
いかにもシンセサイザー風な音で、やはり聴きやすいふわふわした音楽が展開します。
Jakinoがキーボードの即興演奏で参加。こう聴くと、自分にとっての彼の音楽性も、まんざらではない感じ。
「Interspecies Smalltalk」では小杉武久がヴァイオリンで参加。
彼におる、息の長いメロディーに、シンセな電子音のドローンと細かいグリッサンドが絡む。
後半はグリッサンドの代わりに、雫の音のようなサウンドが入ってくる。
基本的には「Leapday Night」と似た音。こちらは動きが少ない分、癒される感じです。
とりあえず「Leapday Night」だけでも、是非ジャンルを超えて様々な音楽ファンに聴いてもらいたい。名盤です。



Chris Brown
Talking Drum

2005 Pogus  P21034-2

ゴードン・ムンマやジェームズ・テニーに師事したアーティストの名作。
キューバの民族音楽が、水音と虫の音が、バリのガムランが、室内楽のつぶやきが、
新世界の伝統音楽が、さまざまなドラミングが次々と現れては交代して行く。
そこにさりげなく混ざる電子音のリズム。ちょっと変わった、独特のサウンドスケープが展開されます。
確かに彼の代表作と言われるだけのことはある濃い内容。
電子音なのかフィールド録音のままなのか曖昧なまま終始淡々と進んでいくあたり、感性が尋常ではない。
彼の作品集は以前聴いてまあまあといった感じでしたが、これは出来がいい上に聴いていて楽しい。



Herbert Brun
Language, Message, Drummage -compositions for Tape and for Instruments
Futility 1964, Five Pieces for Piano(Op.1), Anepigraphe, String Quartet No.2,
Trio for Flute,Double Bass,and Percussion, Piece of Prose,
Just seven for drum, Gesto for Piccolo and Piano

LaSalle Quartet  Kathleen Keasey,Piano
James Culley,snare drum  University of Illinois New Music Ensemble
1998 Electronic Music Foundation  EMF CD 00614

WDRケルン音楽スタジオ在籍経験もあり、主にイリノイ大学で活動していた
ドイツ出身の電子音楽家ヘルベルト・ブリュン(1918-2000)の作品集。
器楽作品も多く含まれているため、彼の作曲家としての活動が概観できます。
電子音楽「Futility 1964」、じりじりしたノイズ風電子音を皮切りに、
妻Marianneの朗読と電子音のごりごりしたサウンドがすっぱりと入れ替わっていく。
「ピアノのための5つの小品」は1940-45年の作曲なので本当に最初期の作品。
散文朝ではありますが、その内容ははっきりと近代の無調的な印象主義を進んだ先にあるもの。
「Anepigraphe」は50年代の初期電子音楽らしい、がちがちの内容構成による点描的音響空間。
「弦楽四重奏曲第2番」は短い様々な楽想が小気味よく連なっていく、5分ほどの小品。
音楽の発展形式を3段階にして設定しているようですが、全体的にばらばらと音楽が撒かれていくのは同じこと。
極端な編成の「三重奏曲」では、点描的に動く個々のゆがんだ動きが
次第に相互干渉して自分の動きに作用していくように作られています。
構成はガチなんですが、聴こえてくる音楽は、意外とふわふわころころした丸い輪郭。
フルートやスネア、シロフォンなんかの動きがけっこう軽快なんだよなあ。
「散文的小品」は名前に反して20分の大作。ポーランドの国営ラジオ?の委嘱によるもの。
パルスのような冒頭から、ぱらぱらと音が零れ落ち、じりじりと重なっていく。
要素はいくつか同じようなものが繰り返されるので何とも言い難いところがありますが、
いきなりステレオで硬いパルスが流されるのはちょっとびっくりする。
「Just seven for drum」はスネアドラム単体のための8分を超える力作。
これだけ後年のほうの作品(1987)です。やっぱりこの人の曲はリズミカルな要素が多い。
「Gesto」は双方が激しくぶつかり合う音楽ですが、点描的にしても前衛的というより近代的。
電子音楽黎明期から活動する人物ですが、その内容を見ると
現代音楽よりは電子音楽のほうが確かにわかりやすいというか面白い音楽を作っている気がする。
器楽作品は聴きやすいし面白いけれど、どうも微妙な気がしてしまう。



Christian Calon
Ligne de vie : recits electriques(Life Line:Electric Tales)

1990 deffusion i Media  IMED-9001-CD

マルセイユ出身、現在はカナダで活動を行っているクリスチャン・カロン(1950-)の80年代作品集。
「Portrait d'un visiteur」は1985年、17分の作品。
じわじわと迫ってくる冒頭から、音声コラージュ、ノイズがちゃらちゃらと不規則にばらまかれる。
電子音・具体音といったさまざまな音たちが雑音的な概念のもとひとつにまとまっている感じ。
この曲がルイジ・ルッソロ国際コンテストで1位だったのが、すごく頷きたくなってしまう。
「La Disparition」はベートーヴェンやアフリカ・メラネシア等の民族音楽などをマテリアルに使いながら
それらを徹底的に分解・再統合してそれらとは全く異なった次元の音楽を作っています。
「Totem」部分の、オリジナルの弦楽合奏の面影を残しながらも
(現代曲の音源も交えながら)激しく暴れまわるパートは圧巻。
「Minuit(Midnight)」(1989)は全3部40分の大作。題材もあって静かめ。
諺を例示しながら、ただ第二部を「指し示す」だけのプロローグを経て、
朗読や緩やかに動く電子音、金属打楽器の静かにきらめく主部へ。
第3部ではさらに朗読・語りが主部になり、電子変調も交えながら一段と鋭く切り詰められていく。
音声表現にかなり重点がおかれている辺り、ポエトリー・リーディングなんかともつながる考えがありそう。
全体的に地味ではありますが、その構成は非常に繊細かつ発狂気味。
確かにそれなりに評価されてしかるべき作曲家だと思います。



Edgardo Canton
Promenade D'ete D'ulis NASA

2004 Nepless  CO 981

作曲者エドガルド・カントンは1934年アルゼンチン生まれ。初期はヴィオラ奏者として活躍し、Nueva Musica Associationに参画。
59年にパリに移った後シェフェール傘下のGRMでミュージック・コンクレートの研鑽を積みました。
そのころ彼が考え出した「エレクトロアコースティック(Electroaccoustic)」という単語は今では広く使われています。
そんな彼の主な活動の流れが追える貴重な作品集。
「Animal Animal」タイトルは、ヴァイオリンの弓による擦弦音が動物の鳴き声のように聞こえたことから。
前述の音と古さを感じる電子音がふわふわとドローン状にゆらめく1962年作。
「Vox Inouies」の題は「それまで聴いたことのない声(voices-never-heard-before)」と
「それまでなぞられなかった方法(ways-never-covered-before)」の二つの意味があるそう。
でも内容は比較的スタンダードなコンクレートの音を聴かせてくれる。
「Une Espece de Serpent」では鳥の声と電子音の振る舞いとを徐々に同一のものへ昇華していく。
「Promenade D'ete D'ulis NASA」はそのとおり、NASA製作の映画(正確にはAVイベント)のためのサントラ音楽。
きらめく電子音やゆらぐ大気のようなドローン音、木管楽器、ギターにハープやシンセ音の簡素なメロディが心地よい。
電子音楽らしいミニマルループももちろん多く見れますが、ほとんどアンビエントにも取れてしまう曲調です。
エレクトロアコースティック創始者の到達点が、このNASAで撮影された星々の爆発からインスパイアされた
40分を超える大作にひとつの形として示されているでしょう。
聴きやすいし、その落ち着いた幻想的な雰囲気が個人的にはかなり気に入っています。

ごく普通の音楽家としての道がシェフェールという教師によって歪められた?好例。
でもその結果、その二つを並立させるために一時期は大きな潮流の一つにまでなった
エレクトロアコースティックを生み出したのだから、その功績は大きいでしょう。
音響はNASA向けの近作(1984)でもちょっとチープなものですが、現代音楽の流れを知る上では重要なCD。



Jay Cloidt
Kole Kat Krush(St.Q.)
Karoshi
Jimi's Fridge
Life is Good... And People are Basically Decent
Exploded View(excerpts)
Light Fall
Kole Kat Krush(Ens.)

Kronos Quartet  Basso Bongo  Paul Dresher Ensemble
1999 Starkland Recordings  ST-208

Jay CloidtはRobert AshleyやDavid Behman(どちらも電子音楽大御所)に師事経験がある、ポール・ドレッシャー・アンサンブルのメンバー。
「Kole Kat Krush」では春の祭典やらさまざまな断片がコラージュされ、電子音と弦楽四重奏の陳腐なロックに飲み込まれる。
「Karoshi」は様々な音がぐちゃぐちゃに羅列され、ベースの上を転げ回る。
マテリアルはそこまで加工されているわけでは無いけれど、ベースがあるだけでなんだかそれがきちんと
メロディーを持った曲の構成部分なんじゃないかと思えてくる。もちろん曲の引用もあり、ペール・ギュントとか聴こえました。
ちなみに、題名はもちろん「過労死」のこと。
「Jimi's Fridge」では一見随分まともそうな電子音楽を作ってます。Cloidt家の冷蔵庫音が強く加工され、うねりを上げて押し寄せる。
シリアスなんだかチープなんだか分からない感じがふざけていて良い。ポール・ドレッシャーとの共作。
「Life is Good...」1曲目はパルスのような動きが強い。数字を叫びながらクラップする演奏者。
2曲目はバイクが遠くを走っていく静かなサウンドスケープ。3曲目は疾走感溢れ、4曲目はまたインプロ風なサウンドスケープ音楽。
5曲目はおまぬけで壊れたディキシー・ミュージック。あんまり統一感がないです。
「Exploded View」はMIDIサンプラー音源のみを使った曲。1曲目は猫の鳴き声を模した音から始まる変態的な音楽。
2曲目は赤ん坊みたいな微妙なあえぎ声が展開するさっき以上に変態なもの。3曲目はアクセルモーターで同じく。
「Light Fall」の構成音はほとんどフィールド音。列車がレール上を通り過ぎる音など、金属的なサウンドがゆっくり入れ替わり主張する。
「Kole Kat Krush」、アンサンブルだとずいぶん俗っぽい響きに。この曲のチープさが全開です。
相当やりたい放題なアルバムでした。面白かったけれど、この手の曲によくあるようにそうお勧めするほどのものでもない感じ。



Philip Corner
On tape  from the Judson years

alga marghen  plana-C 4NMN.019

コーナーが62-63年に制作したテープ音楽を収録した一枚。
最初の「Lucinda's Pastime」では水音のみをマテリアルにして、強烈な対比のカットアップを聴かせる。
「Memories:Performances」はコーナーの持つそれまでの様々な音源を再構成したもの。
そのため、マテリアルの中ではオーケストラがいろいろフリーな前衛音楽を奏でています。
それがさらにだらだらとスイッチングしていくので意味不明に拍車がかかる。
そういう意味では、きわめてパーソナルな「記憶」。
「From Thais」は名前から予想つくようにジュール・マスネの「タイス」を主なマテリアルにした作品
なんですが・・・極端なまでにコラージュと重ね合わせをしたものだからもうぐちゃぐちゃのげちょげちょ。
ジャズとかの音源も乱入し、60年代前半のくぐもった劣悪な録音がそれにアクセルを全力でかける。
この中では一番錯乱しているというか、猥雑さが群を抜いているので聴いていてある意味爽快。
後半はしっかり瞑想曲をきれいに?聴かせて、安心して終わらせてくれます。
「Oracle,an electronic cantata on images of war:strike week version」はJames Tennyも協力。
一番幅広い素材を使用し、音による一大絵巻のようなサウンドスケープを見せる。
後半はほとんどノイズの世界に入っているあたり、音響作家。
「Flares -the electronic element」はコロンビアの電子音楽スタジオで制作したらしい。
珍しく電子音のみで作られているんですが、蚊のような音が神経質にうねる様は意外とストイック。
「Bev's Circus Tape」はライオンの鳴き声がマテリアルの中核。
そこにバレルオルガンのポルカが乱入して乱痴気したりする、なんかコーナーぽくて安心する作品。



Paul Dolden
Delires de Plaisirs

2005 empreintes DIGITALes  IMED 0577

カナダはオタワ出身、エレキギター等のミュージシャンから
現代的なアプローチの電子音楽作曲家へと進んだ、なかなか不思議な経歴のポール・ドルデン(1956-)作品集。
この人、ヨーロッパ、北アメリカを中心として多くの賞を取り、なかなか聴衆にも知られているようです。
「Entropic Twilights」、サウンド自体は確固たるシンセサウンド、イージーリスニング的。
ただ、構造がイージーリスニングのそれとはとても言い難い。
様々な楽想ががさがさと全く臆することなく転がりまわる。
今日の日常生活で溢れる様々な娯楽的な嗜好の音楽の洪水を電子音楽で表したものです。
クラシカルの、ロックの、ヒーリングの、ジャズの、ガムランの音が無節操にばらまかれる。
なんだかショッピングモールを歩けば再現出来そうな、そんな喧騒の風景。
製作に5年をかけただけある、ハチャメチャでド派手な楽しい大作。
後半のResonanceシリーズはエレクトロ・アコースティック作品。
「The Gravity of Silence. Resonance #5」はフルートとテープ。
簡素な美しいメロディーがロックを皮切りに様々な音楽がごつごつと無理矢理に楽想を展開して行く。
「The Heart Tears itself Apart with the Power of its own Muscle. Resonance #3」も基本的には同じ。
壮大な序奏に始まり、テープの素地が容赦なく弦楽アンサンブルをジャズやロックの世界に巻き込んで行く。
正直あまり期待はしていなかったし、事実使用している音自体はチープさが否めないけれど
作っている世界のやたらめったらなぐちゃぐちゃさは実に面白かった。
なんというか、ある意味(ギターと一緒に乗ったバイクで空中から音符ばらまく)ジャケットどおりなんだなと理解。



Roger Doyle
Babel

1999 Silverdoor  SIDO 003~007

アイルランド出身の電子音楽作曲家ロジャー・ ドイルの、50歳を記念して製作された5CDセット。
彼自身の独自な手法を築き上げるために「バベルの塔」という概念を使用し、
その部屋に見立てて様々な音楽手法を曲に用い、この大作を練り上げたそう。
Disc1-3が本作「Babel」で、4-5は「KBBL」というBabelの補筆みたいな構成になっています。
Disc1「Temple Music」
「Concert Music - Pagoda Charm」はアジアの寺院音楽をカットアップ・再形成していきます。
ささくれた叫びのような歌も絡み、サイケだけれどのんびりした不可思議空間が広がる。
だんだん電子ドローンに支配されていってぐちゃぐちゃになったと思ったらつと落ち着いて終了。
「Mansard」。あれ、聴いたことあるぞと思ったら、以前この人のCD買ったことあったのに今更気づく。メランコリックなピアノメインの良い曲です。
この次から「The Iron Language Alphabet」まで、まとめて「Temple Music」という1曲になるみたい。
「Yunnus」は尺八みたいな楽器のストイックなソロ・・・と思ったら実は普通のホルンでした。
「Earth to Earth」は音が不規則に痙攣しあい、破裂音で次の位相に移っていく、緊張感あるサンプリング音楽。
「Cantilena」は過激なまでのコラージュ音楽。サンプルが細分化されぐちゃぐちゃに。
「Kalu Rehearsals」は「Yunnus」のクラリネット版。「Mercedes Spring」もかなり過激なコラージュ作品だが緩急激しい。
「The Iron Language Alphabet」はトランペットのもわもわしたソロから電子ドローンになるが、たまにはいる合いの手にびびる。
合いの手はだんだん主張してくるが、同時にそれはどんどん壊れて分解していく。
Disc2「Chambers & Spirit Levels」
「Entry Level I」は激烈コラージュ音楽。様々な具体音と「Mansard」など自身の音源が嵐のように入り乱れる異常な世界。
「Mr.Brady's Room」は落ち着いた、歪んだ電子音と空ろなフィールド音のサウンドスケープ。クラフトワークみたいなロボ声も。
「Squat」はサックスのソロが様々な具体音とフリーソロを繰り広げる。けっこう変調とか加えて歪む箇所あり。
「The Room of Rhetoric」はドアのきしみなどの音と電子ドローンが組み合わさった、なかなか激しい曲。
中間部は声のコラージュから入り、さらにぐちゃぐちゃに。後半はロボ声コラージュから仕切りなおし。
「Spirit Levels I-IV」は1997年の国際エレクトロ−アコースティック音楽コンペティションでプログラム音楽賞を受けた曲。
ゲーム音楽みたいな音が破裂音と共に、まるでゲームセンターにいるかのような混沌さで襲い掛かる。
そこから声や電子音の境界が曖昧になった、ドローンとコラージュの合体したような音楽に流れていきます。
「The Stairwell」はヴァイオリンの、猫の鳴き声みたいな独奏からさまざまに変奏をきかせます。
その裏で、ピアノや声の様々な音楽やパフォーマンスが淡くうっすら聴こえてきます。声とかの展開がけっこう怖い。
Disc3「Delusional Architecture」
「Entry Level II」、題名から想像できる通り、Iと負けず劣らずのげちょげちょコラージュ。
「Dark Scenery Court Games」は幻想的な電子音楽かと思いきや、これが野蛮な音源やノイズと変態的にかみ合わさっていく。
「The Dressing Room」では単調なサックスの背後をプリミティヴな音楽や声が吹き抜ける。
「Vertical Fissures in Stone」は雷のようなごりごりした電子音と叫ぶ朗読の競演。
「Beautiful Day」、臼で挽かれた後のようなこなごなコラージュ。一瞬で終わる。
「Mall Fountain」はシリアスで混沌とした序盤からストイックな電子音、不思議な歌のようなものへ・・・など構成がけっこう変わる。
「Johnny's Body at 002」サンプリング音の変態エレクトロニカに野太い女性のきち○いなシャウト。かなりキてる音楽。
「Mr.Foley's Final Moments」は低い電子/具体音ドローンと余白の多いサウンドスケープ音楽の合体。
ここからKBBL。Disc4「Earth at Full-Moon」
「The Morning Show」は完全にラジオのパクリ。曲間にパーソナリティーとかの語り
(どっかの音源ではなくオリジナル、"KBBL Radio"とか言っているし)が普通に入ります。
音楽のほうもチープな電子ファンクロックにクラシカルな歌が入ったり民族調ロックだったり今までと別の意味でいかれてる。
「Surface du Monde」はケルト音楽だったりチープなムード音楽だったり。音楽の変態具合はさっきの3倍増し。
メイン楽器は生ですが、もちろん伴奏は電子音で。
「Trapeze in Full-Moon Nights」は「4幕のイマジナリー・サーカス」という副題の付いた、シリアスになり切れなかったコンクレートと
気の抜けたチープな電子音楽をつなぎ合わせたような音楽。今までの流れのとどめにこれじゃ背骨が砕け散りますね。
Disc5「Leisure Pursuits」
「The Entertainment and Leisure Persuits Show」は「The Morning Show」の続き、今度は気だるい午後です。
ジャジーな曲だったりシリアスな曲だったり。ただ全体的に見ていつものコラージュ風が多くドイルの地がかなり出ている感じ。
飽きてきたのかな、とか邪推。16曲45分とこれだけでも長い。
「The Nightshow」はさらにその続き。夜らしいムード音楽が多い。でもやっぱりどこかおかしいのが何時もどおり。
深夜の、あの通常とは違うテンションに合うような不可思議なヒーリング音楽で5時間半に渡る大曲を閉じます。

・・・長かった。もっと短くまとめても良いんじゃないの、似た雰囲気の曲多いし。
まあ個々で聴けばどれも面白い作品なんですけれどね。買って損した気分でないのは確かです。



Christian Eloy
Musica Mundara, L'estran

2001 INA-GRM  275 832 / INA e 5010

電子音楽の大家クリスチャン・エロワの、Ina-GRMによる2作品を収録。
「Musica Mundara」ちょっとリズミカルな冒頭から様々な断片が幻想的に入れ替わって見せる輪郭を変えていく。
彼お得意の、微細な音の移ろいを見てそれを主張させていくような、そんな
音そのものの響きの面白さを見つけることができる。
また、タイトルからも考えられるように、私たちの実生活から聴ける音もサンプルにしながら、
曼荼羅を読み解くように音そのものの実体を模索するような宗教的思索も感じ取れます。
「L'estran」はその5年前、1995年の作品。
海の暗示が多分に使用されているようなんですが、聴いた感じとしては
単純に声のサンプルが使われてないなあ、といった感じ。
まあ確かに暗示のみで終わっているからでしょうが、いつもより硬派で概念的な音楽。
彼らしい、人の声をマテリアルにして作られた「Musica Mundara」の方がやっぱり聴いてて面白いなあ。
30分ちょっとの収録なのが残念。



J.D. Emmanuel
Rain Forest Music
Rain Forest Music, Ocean Music, Visions of Life

2007 North Star Productions  NSP-2001 CD

70〜80年代は有象無象の電子音楽アーティストがひしめきあいながらLPを細々と出している、
まさにアマチュア電子音楽黎明期のような様相だと思うのですが、このJ.D. Emmanuelという人物もその一人。
80年代初頭に2枚のLPを出したのみ。テキサスの人物で2000年代も後半になっていきなり
活動らしきものが再開されているようですが、このCDは初期に出されたものの一つ。
熱帯雨林のフィールド音が常に背後で響き、そこからメロウなギターサウンドが入ってくる。
そのギターを模した電子音はとてもミニマルで、ニューエイジ黎明の息吹を感じさせる。
ふわふわとした音楽はどこかクラウトロックも連想させる。
続くOcean MusicとVisions of Lifeは背景が海鳴りに変化しただけ、と言えば分りやすい。
録音はどうしてもチープ気味ですが、その個性的なアンビエント空間はとても面白かったです。



Luc Ferrari
Son Memorise
Presque Rien #4"La Remontee du Village",
Promenade Symphonique dans un Paysage Musical ou un Jour de Fete a El Oued en 1976,
Saliceburry Cocktail

Sub rosa  SR252

リュック・フェラーリ(1929-2005)の中ではまあまあメジャーなCDでしょうか。
「プレスク・リアン第4番「村を登る」」は、実際にフランスの村の山道を登りながら得られた音素材を使って作成されています。
子供の無邪気なはしゃぎ声、ぽつぽつと聞こえてくる村人たちの声、かすかに響く編集音響。
もっとも、このプレスク・リアンのシリーズ中ではまだ編集がはっきりしている方。
素材の素朴さもあって、音を通して見えてくる光景がいつもよりにぎやかです。
この、フィールド録音でありながら、そのさりげない日常にかすかなスパイスを加えて
実に刺激的で光景を想起させるような魅力を持たせている点は、さすがは彼の代表シリーズと言えます。
「Symphonic Walk Through a Soundscape or A day of calebration in El-Oued,1976」とはまた長い名前。
70年代後半の作品、彼のスタンダードな音語りが展開されています。解説にも展開が説明されているし、
そもそも音をずっと聞いていればはっきりと情景描写を示唆するように作られている。
アルジェリアを舞台に繰り広げられる、民謡や喧噪、さまざまな具体音の物語。
中盤は民族音楽がまるまる収録されているようなもんでもあるので、民族音楽だけでも楽しめたりする。
「Saliceburry Cocktail」は2002年の作品なので晩年のもの。
ここでは結構音に加工を施して抽象さを強調させ、往来の電子音楽のように聴かせます。
フェラーリによるちょっと過激な編集が聴けて、なかなか面白い。



Pietro Grossi
Battimenti

2003 ants  AG03

イタリア電子音楽界の旗手だったピエトロ・グロッシ(1917-2002)の1964-66年作品。
395〜405ヘルツ内の非常に近い周波数から11の周波数を取り出し、それらに番号を振ったうえで
それらによる幾何学的な図形を作成。それを横に読み解くことで組を決定し、そのうねりを作品として演奏させる。
上記の取り組みからわかるように、やっていることは完全に音響実験。
聴こえてくる音は最初から最後まで、サイン波のうねりだけ。完全にアルヴィン・ルシエの世界です。
というか、こんな常軌を逸したことを60年代にすでに行っていたあたりがすごい。
このCDには周波数が2組から5組まで4種類のものが収められていますが、
何も知らずに聴かされたら、自分は自信満々に「ルシエの曲でしょ?」という自信がある、それくらいの内容。
最後の5組にまでなると、まるで薄い雲がたなびくような、淡く混濁した音響に変貌します。
グロッシは初めて聴きましたが、これだけで彼の前衛さがよくわかりました。
ある意味名盤。



Pierre Henry
Interieur Exterieur

1997 Philips  462 132-2

ミュージック・コンクレート大御所、ピエール・アンリの60分を超える大作の一つ。
アメリカのオルタナ系バンドViolent Femmerによる音源協力も得ながら製作したもの。
相変わらずですね、アンリ御大。プリペアドピアノ、鳥、声、自然音などなどいろんなマテリアルが絡み合う。
なのに、聴いていてはっきりアンリの作品だと分かる個性が凄い。
なんかその無節操さが独特なんですよね。ディジュリドゥのドローンにロックなリズムと電子音が乱入したり。
今回はキャッチーな音源が多いお陰で音の性格が判別しやすいです。だから、雰囲気の急激な変化を楽しむ手もあり。
Violent Femmerよりもプリペアドピアノがかなりメインな気もしますが。



Ake Hodell
Verbal Brainwash and other works

2000 Fylkingen Records  FYCD 1018-1-2-3

スウェーデンの作家Ake Hodell(1919-2000)の60-70年代作品集。これ以上彼について焦点を当てたCDはないでしょう。
なお彼は、第二次大戦時はスウェーデン空軍のパイロットとして活躍したという経歴を持つ人物でもあります。
事故に よりパイロットを退役・療養の後、60年代にアーティストデビューを果たしました。
マルチメディア・アーティストとして具体音詩や絵画詩など実験的な活動を行った彼の様子が、この三枚組CDに詰まってます。
さてまず1枚目、冒頭の「Law&Order Inc.」からぶっ飛ばしてくれます。
行進に合わせてだみ声が「One-Two-Three-Four」、ひたすらループ。こいつはやばい。
「Structures III」、様々な銃声が乱れ飛び、重機の音が垂れ込める。まさにこれは大戦の記憶に他なりません。
全6部、30分にわたる大曲がこのCDではばらばらに収録されています。
このさまざまな攻撃音だけで作られた作品を聞くと、彼の経歴だけで感慨深くさえ思えてくる。
「General Bussig(General Buddy-Buddy)」、Hodell自身によるミニマルで不可思議なボイスパフォーマンス。
とりあえず、言葉の一部または全てのアルファベットをひたすら反復して言っている構造みたいなのは分かった。
「igevar(Presentarms)」、構成は「Preeeeeeeee・・・(3分)」(間)「taaaaaaaaaaaaa・・・(7分)・・・rms」、これだけ。なんだし。
「The Voyage to Labrador」、ラブラドール地方の音声がミニマルに奇天烈に、どこかノリよく展開する。
「Orpheic Revelations」は舞台作品のための音楽。ハープ、吐息、流麗なオケ音源が不自然に継ぎ合わされる。
「Numro Ba Besch」は「General Buddy-Buddy」のテープ版。45rpm→33rpmの音高変換にチープな打楽器音を加え、よりドラッギーに。
「General Bonhomme」、同じく「General Buddy-Buddy」のフランスヴァージョン。
「Presentezarmes」、「igevar(Presentarms)」のフランスバージョン。
CD2からは大作メイン。なお、CD2の4曲はまとめて「Electronic Purgatory」というシリーズの(順に)III、IV、II、Iです。
「The Djurgarden Ferry across the Styx」はCaronという地への旅行の印象を表した
詩の朗読に始まり、重い機械音や汽笛のようなドローンが支配する電子音楽へ。
後半にクラシック?の地味にリズミックなぶつぶつカットアップあり。
「Cerberus, the Hellhound」に出てくるように、Hodellにとってケルベロスは神秘的なものの象徴だったようです。
ストックホルムの地下鉄を初めとする都会音、犬の吼え声、奇妙な歌?のようなものの断片。何時も以上にグロテスクな側面が目立つ。
「The Road to Nepal」、解説に初演などの情報がないので詳しいことは分かりませんが、
鳥を初めとするさまざまな動物の鳴き声を多く使っているのを見ても、現地の音源を使用していると勝手に推測。
「220 Volt Buddha」、別でもリリースされていて彼の有名作ですね。「220ボルトの仏陀」とかインパクトありすぎな題だ。
元は舞台音楽として作られた作品。木琴の音にゴングが鳴り、加工されくぐもった男の太い声。
ぶちぶちの機械パルスがもうもうと立ち込める、今まで以上に粗い質感でぐりぐり攻めてくる。
CD3、「USS Pacific Ocean」はモールス信号のパルスが徐々に重なりアメリカやソ連の様々な断片が飛び交う。
冷戦の風刺がテーマであるようで、星条旗とかがしつこく出てくる。
「Where is Eldridge Cleaver?」のEldridge Cleaverは、黒人解放運動で有名なブラック・パンサーの情報相。
当時のリーダー、ヒューイ・ニュートンの有名なポスターを制作した人物です。
朗読劇のような要素が強い作品。そして台詞が多いだけに展開がまだ理解しやすい。
ちなみに「Law&Order Inc.」はこの作品からの派生物と言って問題なさそう。同じ構造がはっきり出てきます。
「Mr. Smith in Rhodesia」は、旧ローデシア共和国(現ジンバブエ)の首相であったイアン・スミスのこと。
現在のジンバブエはムガベ大統領によるトンデモ黒人主義政策が採られていますが、彼のときはその正反対。
極端な白人主義政策で相当批判されていました。なお、作曲者はこの前に収録されているインタビュー?で
「黒人の子供でサンプリングしたかったんだよ」みたいなことを喋ってます。
内容としては先ほどと大差はありません。どちらも同様の語法で批判を行っています。こっちの方が目まぐるしくテンション高めかな。
「Spirit of Ecstasy, Racing Car Opera」は、20世紀が車の世紀であったことに対する作者なりの反応のようです。
様々な国歌、クラクションに混じって歌われるお間抜けなボイス・パフォーマンス。

ループを多く使うのが特徴的な、とても独特の世界観が垣間見える素晴らしい作品ばかりです。
音響詩やコラージュ系の音楽が好きな方は是が非でも聴いてください。
また解説などのアートワークもカットアップ系統のいかれたものが多くて見ごたえあり。



Heins Hoffman-Richter
Music To Freak Your Friends And Break Your Lease
Symphony For Tape Delay, IBM Instructional Manual & Ohm Septet

mashroom sounds

この作曲家/アーティストの詳細がわからないんですが、ベルリンのコンセルヴァトワールを出ているらしい。
元はStanyanというレーベルから74年にリリースされていたLP。
虚ろな電子音のコラージュが鳴り渡り、多種多様な音断片がこれでもかとディレイ効果にまみれて
再生される。その異常な音楽光景はいかれているとしか思えません。
きっかけは落雷でいかれたブラームス再生らしいですが、にしてもこれはやばすぎる。
この音や音楽を徹底的にコラージュしてある種下品なまでに積み上げていくやりかたは
昨今のアンダーグラウンドな根性に凄く似ている気がします。
一応4楽章構成ですが、まあどれも似た様な激烈コラージュのコンクレート音楽。
何でも、レイモンド・スコットの「赤ちゃんのための音楽」も使われているそうですが、
ラストで微かに聴こえてくるリズミカルなのがそうなんでしょうか。
自分の耳ではピエール・アンリ(っぽい音)がうるさくてこれが一番印象に残ってしまう。



Roland Kayn
Cybernetic Music II

Reiger Records Reeks  KYCD9601

ドイツの電子音楽重鎮ローランド・カインのアルバム。
「Assemblage」、靄がかった電子音の影が伸び、霞が幾重にも積み重なって持続音になる。
50分を超える大曲ですが、ほとんどの間ひたすらドローンのように音が伸びる。
サイバネティックというタイトルから、音楽が漸次的に変化して、
ゆるやかに生物のように変動するさまから来ているのでしょうか。
それとも自動制御的なシステムを作って演奏させてるんでしょうか。
解説がドイツ語じゃなかったらねえ・・・
全体的に混迷とした調子ですが、時折美しい展開があったりするし、全体的にさっぱりした感触。
程よく景色が絶えず変わっていくので、そこまで退屈しない。
「Refractions」も基本的には同じ構成。マテリアルが内部でより複雑に響きます。
こちらの、低音まで含めて渦巻く音響のほうが個人的には密度が高くて好きです。



Phil Kline
Glow in the Dark
Premonition, Chant, 96 Tears, The Holy City of Ashtabula, Bachman's Warbler

1998 CRi  CD 801

ピッツバーグ出身、コロンビア大学を卒業したバン・オン・ア・キャン系列の作曲家フィル・クラインによる作品集。
といっても、ほとんどがループやテープ作品なので電子音楽の系列で考えたほうが作曲家として納得。
「Premonition」はBang on a Canフェスティバル10周年のための音楽。
1000の弦楽器を想定して作られたテープ作品ですが、ゆるやかなグリッサンドが
分厚い音の中で繰り広げられるだけ。正直1000も必要な意味が全くわからん。
「Chant for Voice」、ちょっとおどろおどろしい感じの女声が聞こえてきますが、
それが大きくなると次第にそのエコー的な構造が分かってきて面白くなる。
どんどん倒錯的にこんがらがってきてホラーな音楽になる辺り緊張感があって良い。
「96 Tears」は8つもエレキギターを使っていますが決して派手ではないです。
むしろアンビエント・ドローンに近い美しい音楽でとても気に入りました。この和声の入れ替わり方がたまらないです。
「The Holy City of Ashtabula」、弦のうねりが地の底から響いてくるようなこのテープ作品は
素材こそ「Premonition」と一緒でも世界が全く違う。はるかに暗く厳しく、そして素晴らしい作品。
後半の盛り上がりなんて全音域がゆらゆらと鳴り響き、非常に幻想的で美しい。
「Bachman's Warbler」はバン・オン・ア・キャンのコンピCDにも収録されているらしい。
ハーモニカの淡い和音がぽつぽつと置かれ、徐々にテープループからそのエコーや具体音などがそっと入り込んでくる。
「96 Tears」「The Holy City of Ashtabula」が聴きどころでしたが、どれも持続音的な性格が非常に強い。
個人的にはバン・オン・ア・キャンのイメージで捉えるよりも電子音ドローンの作家として捉えたほうがしっくりきた。
ポール・ドレッシャーとか、そんな感覚。



Jan Liljekvist
the strange and incredible world of Dr. Jayne Insane & The Gutbucket Philharmonicks

2003 Fylkingen Records  FYCD 1022

ストックホルム出身、木管奏者としてその音楽キャリアをスタート。
その後オケやビッグバンド、ガレージロックやらに手を出して
現在は主にエレクトロ・アコースティック音楽の作家として活動するアーティスト/作曲家のアルバム。
最初の「Flesh Converters -is meat murder?」、
一発音がどかんと爆発、豚のものすごい鳴き声がハーシュノイズのごとく響き渡る。
がこんがこんと響く衝撃音と相まってとんでもなく印象的な音楽です。
おそらくはベジタリアン的視点を込めた曲なのでしょう。たった1分半と言うのが何とも言えません。
「Five Easy Pieces」、最初の曲は具体音がごそごそとうごめきながらも一定のリズムが鈍く響く。
その後のトラックではヴァイオリニストでもある彼らしく、それを元としたノイズが軋みをあげたり
ごりごりした質感の心地よいギター系ノイズがアブストラクトなミニマルビートしてたらいつの間にか
ファンキーしてたりとどこらがEasyなのか良くわからない、なかなか濃い音楽が続く。
声をドローン風加工して奇天烈なエスニックに仕上げた3曲目のインパクトが強烈すぎる。
「Global Bliss」では蝿みたいな羽音が飛び交い、突如混沌とした激烈ノイズコラージュが乱入する。
子供の鳴き声や叫び声や牛の鳴き声などが激しく絡み合い、「God Bless America」の言葉が乱舞する。
「Serenade for strings」、弦楽器の出す特殊奏法の音が編集され、次第に
弦楽器の音なのか非常に怪しい音や関係ない音にまで乱入されてどんどんと音楽が音を立てて崩壊していく。
「Duckdreams」、ディズニー冒頭の軽快なあの音楽に始まり、ドナルドのあのだみ声が響く。
それらはすべて褪せたセピアな音響の中で展開し、その下を重苦しいドローンが流れる。
ドナルドダックのための短いカットアップ風小品。ああ、なるほど、だからこのタイトルなのか・・・
「Being Jan Liljovic」は重々しい電子音・ティンパニなど具体音奏法の持続音に始まり、
室内楽のパッセージがぱらぱらと差し挟まれる。次第にナンカロウみたいないかれたパッセージや
クラスターになりだして素晴らしい具合に錯乱しだす。後半はどろどろした暗い音楽が
またさらにクラスターで彩られ、狂気に染まったようなおどろおどろしさに。
「Forkladd Gud(God in disguise)」は23分の大作。電子音がぽつぽつと鳴らされてはエコーを執拗に変調する。
歪んだ音が湧き上がり、朗読が激しく加工される。鈍い金属音のドラミングやら
フォークなヴァイオリンのワルツ、倒錯的なノイズドローンなどが入り乱れ、
派手さはほかの曲に比べると薄いですが、その内容の濃さは変わらず。
最後は「Flesh Converters II -the revenge!」、リベンジしなくていいってば。
シンセドラムの乱打に絡む豚の声はもはやただのノイズ。これまでの他の曲の音源も絡み
このアルバム最後にふさわしい完全な錯乱状態になって終わります。

フィルキンゲンからリリースしているだけあって、ものすごい内容のコラージュ系電子音楽。
これは強烈過ぎてやばい。もっと知られて欲しい一枚です。



Rune Lindblad
Objekt 2 -electronic & concrete music 1962-1988

1998 Pogus  P21014-2

ルネ・リンドブラッド(1923-1991)はスウェーデンを代表する、初期の電子音楽作曲家。
Objekt 2(Op.25)は弦を擦るような音がひたすら組み合わされる。
Plasibenplus(Op.30)、声の断片が細切れになり、不規則な爛れ音パルスになっていく。
Halften av Nagonting(Op.38)はスペーシーな音楽かと思いきやいきなり悲鳴などが乱入してくる。
Frage(Op.59)、インダストリアル系のサウンドが転がりまわる。ちょっとノイジー。
Tora(Op.67)男のうなり声と薄く甲高い叩くような電子音が徐々に興奮してくる。
Maskinlandskap(Op.122)はノイジーな電子音ビートが絡み合う、子の中で一番テクノ系実験音楽風。
Innan Konsert(Op.190)スペーシーで広大な冒頭から、
ふわふわと音楽が壊れたようなそうでないような微妙な境界を進んでいく。
Lagun i Uppror(Op.197)はシンセロックを馬鹿にしたようなはちゃめちゃリズム音楽。
Dimstrak(Op.203)は笛を模したシンセの単音メロディーにギターのアルペジオ。表面的には普通の曲。
どの曲も、シリアスな電子音楽ではあるのですが、素でねじが外れたような狂気を垣間見せる展開。
Op.122と199間で10年スパンがありますが、そこで前衛の道を脱したためにさらにイカレ具合がupしてます。
普通の電子音楽とは一味違う、コアな音楽は聴く価値ありです。



Anestis Logothetis
Electroacoustic Works

Iecoq  AT-G61

ブルガリア出身のギリシャ電子音楽作曲家アネスティス・ロゴテティス(1921-94)の作品集。
74年に出されたLPの2曲に未発表の音源を収録したものです。
「Untitled,coloured noise, tape from the archive」、広漠としたホワイトノイズの風が
ゆっくりと吹き荒れる、短いながらも彼の音に対するストイックな姿勢を見れる作品。
「Fantasmata & Meditation」は1960-61年の作品。20分の大作です。
電子変調された声や雑音のようなものが激しくカットアップされて転げまわる。
甲高い声がケロケロと叫びまわり、ノイズがぐちゃぐちゃとものすごい勢いで塗り替えられていく。
正直言って、とてつもないインパクトです。非常に刺激的で20分全く飽きない。
後半Meditation部分の激しく吹き寄せるノイズドローンの嵐も含め、まさにギリシャの黒さが全開。
クセナキス、クリストウの次に来るいかれた内容です。
「Nekrologlog」、Logothetis自身の語りによる音声詩作品。
何の変調もされていないのですが、その声に込められた迫力は素晴らしい。
ドイツ語の抑揚をうまく使った表現が耳にリズミカルな心地よさを残してくれる。
最後の「Wellenformen」だけはウィーンでなくストックホルムのEMSスタジオで制作されたもの。
1981年の作品なのでステレオ音響に進化しています。その結果は聴いて一発、やばい。
おそらくは何らかのパラメーターを設定してその中でランダムに音を生成してるんでしょうが・・・
(おそらく内ジャケットにプリントされたグラフィックスコアはこの曲のものでは?)
音程のグリッサンドを伴う電子音がぐちゃぐちゃを絡み合い扇情的に群となって暴れまわる。
どの作品もかなりヤバい、素晴らしいです。



Bent Lorentzen
Electronic Music
The Bottomless Pit, Visions, Cloud-drift

creel pone

デンマークの作曲家ベント・ロレンセン(1935-)はコペンハーゲンでホルンボーらのクラスを受講した
同地の重鎮作曲家のひとり。このLPブートは電子音楽作品のみですが、それ以外にも多くの作品を書いています。
「底なしの淵」(1972)はヨハネの黙示録を元にした作品。
重く薄暗い、とても「天国」とは思えないような冒頭から、
金属質の硬い音を含め、深い残響にすべてが包まれた曖昧で非現実的な世界が広がる。
音素材は比較的少ないですが、その破滅的で扇情的な世界はなかなかすごい。
残響とステレオ、カットアップが非常に印象に残る音の組み上げを担っていて、巧みに音世界を伝えます。
とりわけ、底なしの淵を描くパートの異常さは特筆もの。
その後の空虚から、虹を描く虚ろな淡い電子音の響きが響いてくるところもいいですね。
「ヴィジョンズ」(1978)、前半と後半でそれぞれ6つの音構成を使った作品。
落ち続ける響きやごりごりした音響などが聴ける、普通にコンクレート的な曲。
「クラウド=ドリフト」(1973)は、おそらくスコアの見た目から連想したんじゃなかろうか。
7つの塊からなる、ふわふわした電子音が空間をゆっくり充満する8分間。
なお、後半2曲はスコアが全曲分(小さいですが)ジャケットに載っているので
構造が非常によくつかめます。こういうのは助かるなあ。



Ingram Marshall
Three Penitential Visions, Hidden Voices

1991 Elektra Nonesuch  9 79227-2 (WPCC-4213)

ニューヨーク州出身、ウラジーミル・ウサチェフスキーに電子音楽を学び、カリフォルニア芸術学校で活動。
独特な立ち位置のイングラム・マーシャル(1942-)作品を二つ収録。
「三つの悔悟の幻影」はテープループとマルチトラックレコーディングが主な作曲技法。
鳥の鳴き声や教会の鐘の音が幾重にも重なり、
加工された(残響だらけの)サックスがふわふわとしたアンビエンスな音楽を形作る。
元々は写真家ジム・ベングストンとの共作による二部構成だったものに「アルカトラズ」の改作を加えたもの。
「アルカトラズ」は私が一番最初に聴いた彼の作品ですが、たしかにマテリアルがはっきりと同じ。
あの独特のピアノやチェンバロのトレモロが、ここではさらに細分化されて美しく響き渡る。
「束の間の幻影」の題にふさわしい、幻想的な場面です。
「隠れた声」は母の死をきっかけに作曲された、東欧の悲歌をもとに作られた曲。
ソプラノの透明な歌唱に、サンプリングされた歌がふわりふわりと和音をつける。
電子的な処理を施された、時に重いリズミックさも持つ楽想は「三つの〜」とはかなり異なります。
民謡のメランコリックな旋律がさまざまに響きわたる様はどこか
マルタの「運命、嘆息」やロルニックの「バルカニゼーション」を想起させるもの。
使用する技法(アナログかデジタルか)に違いはあるものの、どちらも独特の
靄のかかったような曖昧さを持った美しい音楽。
New Albionのシリーズに劣らずマーシャルの音楽の魅力を十分味わえるアルバムです。



Ingram Marshall
Ikon and other works
Cortez, Weather Report, The Emperor's Birthday,Rop pa fjellet(Cries Upon the Mountains),
SUNG, Sibelius in His Radio Corner, IKON(Ayiasma)

2000 New World Records  80577-2

ウサチェフスキーを始めミマールオールらに師事し、初期はミニマルや
電子音楽畑と密接に活動したマーシャルの、その初期作品集。だいたい70年代の作曲。
「コルテス」詩を唄う男声をマテリアルにした唸りのような声が、重なりながらループする。
その声がやがて変調され、オリジナルの詩朗読とからみ合う。
正直、この冒頭のインパクトはなかなか強烈です。最初期の傑作。
「ウェザー・リポート」って書くと某フージョンバンドみたいだけれど、要は「天気予報」。
デンマークのラジオから流れる予報士の声をループ、ずらしては加工していく。
「コルテス」でもそうですが、こちらではよりスティーヴ・ライヒやアルヴィン・ルシエの影響が顕著。
解説でも言うように、手法が彼らの「It's Gonna Rain」や「I am Sitting in a Room」そっくり。
「皇帝の誕生日」は、アフリカンのインタビューがこれまでと逆に、徐々に点描的に収束していったりしてしまう。
ライヒにたとえるなら「振り子の音楽」の逆みたいな感じだ。
13分の中で何回も何回も展開が行われていきます。
「Cries Upon the Mountains」は北欧の羊飼いの鐘などをマテリアルに、それに近い情景を創りだしたもの。
ふわふわ、というよりはおどろおどろしく響く呼び声が湧き上がる。
「サング」はGunner Ekelofの詩朗読を元にした作品。
男女による朗読が、徐々にずれていく「亡霊」のような過程が楽しい、というかまんまライヒ。
「Sibelius in His Radio Corner」、シベリウスの写真に感化されて書いたらしいですが、
内容は冷漠とした地吹雪の舞う世界。そこから第6交響曲の残滓が浮かび上がってくる。
最後の「イコン」は、やはりGunner Ekelofの詩が徐々にループし、単調化してひたすら遅く低く響くようになる。
有名なこれ以後の作品群は情緒的なものが強い、情景的作品が多いですが、
初期はなかなかミニマリズムな、これはこれで面白い作品を書いていたんですねえ。



Michael McNabb
Invisible Cities

Artis Wodehouse,P. Michael McNabb,Sop.Sax./Synthesis/Processing
1989 Wergo  WER 2015-50

マイケル・マクナブ(1952-)はカリフォルニア州出身の作曲家。John Chowningらに師事しています。
「見えない都市」はサンフランシスコ・ダンス・カンパニーのために書かれたダンス用の音楽。
イタロ・カルヴィーノの同名作品をもとにした、一種のエレクトロ・アコースティックの延長といえるでしょう。
カメラのシャッターが回るような機械音が鳴り、淡く電子音が伸びる冒頭が過ぎると
ピアノとコンピュータによるリズミカルでエネルギッシュな民族調の音楽に。
第2曲のふわふわした質感はまさに80年代のコンピューターサウンドですが、それでも非常に美しい。
このどこかチープにも聞こえる、わかりやすく柔らかい音は、おそらくは原作のイメージにもマッチしていると思う。
第3曲はリズミカルな民族打楽器のリズムに乗せた軽やかなポリリズムの踊り。
第4-5曲のちょっと無駄にシンフォニックな響きはさすがに・・・だけれど、
第6曲のリズミカルで美しいピアノ導入からサックスが入り、流麗に盛り上がるところなんて、
吉松隆やフィットキンの作風でも真似たんですか、みたいな音楽。
コンピューターミュージック、というよりはイージーリスニングに近い感じでもあるけれど、
一応構成に気を使っているのはわかるし、そもそも現代の音楽でそこいらのジャンル分けは無意味だし。
そんなわけで、素直に楽しく聴けました。美しい良作。



Gil Melle
The Andromeda Strain: Original Electronic Sountrack

2006 Creel Pone  #28

ギル・メレ(1931-2004)はジャズ・サックスの奏者でありコンポーザーとして活躍した人物。
ジャズだけでなく電子操作系も得意だった故に、これを初めとしていくつものTV/映画音楽などを制作しています。
このアルバムは映画「The Andromeda Strain」のサウンド・トラックとして作られたものですが、
1971年に電子音楽でサントラを作ろうという意気込みはかなり凄いと思うんです。
ちなみにこの映画の原作はマイケル・クライトンの「アンドロメダ病原体」。彼の作品はアメリカ的ですけど読んでて楽しいですよね。
自作のパーカションも使用しているというその内容は、実にスペーシーで刺激的、緊張感ただよう高内容。
短い曲が8曲だけしかありませんが、実に印象的でかつ情景に効果的な音楽に仕上がっています。
時にノイジーで凶暴、ある時は神秘的でミニマルな曲調。
それでいて、どこかメロディアスで聴きやすくもあり、サントラとしての役割もしっかり果たしている。
六角形10インチ・ヴァイナル、シルバー・スリーヴのジャケという強烈なジャケを再現は流石にできていませんが、
それでもインナーを六角形にしてジャケをちゃんとコピーしてあるだけ頑張ったと思う。
これはcreel poneからの限定100部なブート発売ですが、2010年にIntradaからようやく正規CD再発されたというその事実は
いまだにこの音楽が色あせずに、聞き手/鑑賞者の心を打つものであることを認識させてくれます。



Ilhan Mimaroglu
Wings of the Delirious Demon and Other Electronic Works
Wings Of The Delirious Demon, Anacolutha: Encounter And Episode II,
Interlude II〜Prelude No. 8, Provocations〜White Cockatoo, Hyperboles

Dolor Del Estamago  なし

トルコ出身、現在はアメリカで活躍するイルハン・ミマールオール(1926-)。
ダグラス・ムーアに作曲を学び、オットー・ルーニングやウサシェフスキーらに電子音楽を学んだほか、
ヴァレーズやシュテファン・ヴォルペといった面々との関わりもありました。
後年彼はフリージャズなどのプロデュースなども手がけ、チャールズ・ミンガスなんかともかかわりを持ってたりします。
そんな彼の電子音楽作品集。オリジナルは1969年に出されたLP。今となっては相当レアな品のブート再発です。
電子音がぐちょぐちょぽんぽんと節操なく足跡をそこら中に撒き散らす。
細く伸びるエコー音に、突如破壊的な金属電子音が乱打される。
60年代のレトロな音響の中で繰り広げられる、過激なまでに実験的な電子音楽です。
やはり他の方が言っているように、タイトル曲のインパクトがひときわ大きい。
比較的近年の作品になって電子音のバリエーションが増えるにつれて、その音楽の異常性も増すけれど、
やはり初期の限られた音響の中でこれだけの激しい点描的な、それでいて広がりのある音楽を作れることは凄い。
あとは、「前奏曲第8番」のような、オルゴールと撥弦楽器(を模した電子音?)による怪しげな音楽が印象的だし、
「ハイパーボールス」のような、音に錯乱的なカットアップ編集が加わった作品も捨てがたい。
適当な紙をたたんだなかにCDRが印刷ナシで入った怪しげなブートですが、録音状態はかなり良くて満足。
レコードノイズはかなり小さくて、普通に無視できました。
内容も凄いし、後はもうちょっとまともにリリースされて欲しいばかりです。



Ira J. Mowitz
A la Memoire d'un Ami
Darkening
Shimmering

1992 New Albion  NA 047 CD

作曲者はプリンストン大学やIRCAMで勉強したことのある、アメリカの作曲家。
「A la Memoire d'un Ami」は急死した師Norman Dinertein追悼のための作品。
声のような電子音が暗く、重くのしかかるように音を奏でていく。女声のような高音と男声のような低音との対比がより煽る。
やがてそれは弦のようなはじける音と、よりピュアな電子音ドローンへと変わっていきます。ここら辺は逆に明るめ。
2曲目はオルゴールのような音と明るく柔らかいドローンが心地よい音楽をもたらします。
3曲目ではドローンが幾重にも不規則に重なり、不可思議な倒錯世界へと変貌していきます。
「Darkening」は広大な土地を寂しく吹き抜けるかのような音楽。ドローンが控えめに打ち寄せる。
切なく、けれど穏やかに通り過ぎ、安らぎを求めるかのようです。
「Shimmering」はメロディアスで切ない音のかけらがふわふわと浮かび漂う綺麗な曲。
消えそうになったり、より集まってきたりといった展開がとてもトリップできます。
全体的に、使われている音はヴァリエーションが少ないですが、それによる独特のモノクロさが気に入りました。



Gordon Mumma
Studio Retrospect

2000 Lovely Music  LCD 1093

電子音楽の巨匠、ゴードン・ムンマ(1935-)の作品集、アメリカ系の電子音楽や実験音楽に強いLovely Musicから。
1曲目「Retrospect」は59年から82年の間に作られた電子音楽を元に再作曲しているため、いろいろ雰囲気が変わる。
静寂な中をかすかにドローンが聴こえると思ったらいきなり粗野なドラム連打になったり。
2曲目は「Music from the Venezia Space Theatre」の題の通り、前衛舞踏やイメージ投影なども同時に行われたもの。
じりしりした、虫の羽音的な高めの電子音が伸びる前半から、時代を思わせるレトロな音がぐちゃぐちゃ沸いて出る中盤。
静かな中を電子音が空ろに響くラスト。
「The Dresden Interleaf 13 February 1945」は、第二次大戦のドレスデン大空襲への追悼の意をこめた作品。
くぐもった電子音がぶつぶつ動き回り、警報のような耳障りなノイズとエンジン音、計器音のようなものがその時の光景を思わせる。
「Echo-D」は、さまざまに奏されるチェンバロの音を反響させた曲。
チェンバロの音がさまざまに変化しながら、時には重々しく、またあるときはきらめくように入ってくる。
音材料も、加工もそれほど激しくないので、特に前半はけっこう聴きやすい。後半はだんだん、ころころした電子音風味も。
「Pontpoint」も彼の以前の作品をもとに再構成したもの。バンドネオンとプサルテリウム(ツィター風の古楽器)
をサウンドマテリアルに用い、高音主体のふわふわした音楽を作っています。
「Epifont」は作曲家George Cacioppoへの追憶として作られた短い作品。
フィールドレコーディングに導かれ、鐘のような電子ドローンが伸びていく、美しい作品。
この曲だけ近年の作品ということもあり、響きが非常に透き通っている。ドローン作品としても楽しめました。



Gordon Mumma
Live-Electronic Music
Than Particle, Hornpipe, Mesa, Horn, Medium Size Mograph 1963

William Winant,Perc.  David Tudor,Bandoneon
Robert Ashley/George Cacioppo,Voices  Wiliiam Ribbens,Cybersonics
Gordon Mumma,Computer/Hr./Piano/Cybersonics etc.
2002 Tzadik  TZ 7074

電子音楽の大御所ゴードン・ムンマの作ったライヴ・エレクトロニック音楽集。ほとんど60年代の曲。
「Than Particle」ではWinantの打楽器とムンマのシンセ打楽器が奇妙にシンクロしながら
1分ほどのサイクルで変わる音楽を連続して奏でる。これだけ80年代の作品。
奇妙にリズミカルで、滑稽な印象があり聴きやすいといえば聴きやすい。
「ホーンパイプ」最初は加工なしのライヴ。ダブルリードを時にはつけながら、様々な響きが間をあけて奏される。
そこへ、次第にサイバーソニック(一種の電子変調を行う機材)による音の変調がさしはさまれる。
次第にアンバランスで奇異な響きになっていくリアライゼーションがこの音楽の根底の流れ。
「Mesa」はおなじみマース・カニンガム舞踏団の依頼によるもの。
サイバーソニック変調されたバンドネオンの音が4方のスピーカーから出されるわけですが、見事なまでにノイズドローン。
「ホルン」になると完全にノイズの世界に入っていて、元の音がホルンなのか声なのかよくわからない。
「Medium Size Mograph 1963」はピアノの音がマテリアルですが、
核実験の振動による地震計の波形をもとにしたその音は、破裂しながらエコーが特異に反響する。
聴いていて、経過がどうであれ結果は見事なまでのノイズドローンな音響実験アルバムでした。



ヴァーツラフ・ネリベル
Vaclav Nelhybel
Outer Space: Music

2007 Smithsonian Folkways Recordings  FTS 33440

ネリベルは吹奏楽だとなかなかメジャーな作曲家にみなされていますね。
「交響的断章」の2作や「トリティコ」なんか有名ですよね。演奏したかったなあ。
そんな彼ですがきちんとした理論派的音楽の書き手としての極北と言える音源がいくつかあります。
これはスペーシーな音がディレイやリヴァーヴで加工されていく短い音源が20ほど入ったもの。
音響にはあまり手を加えていませんが、平均1分の曲の中で電子音とスネア・ピアノ等の生楽器の音が混じりあい、ころころ跳ねます。
どうも効果音集なのかきちんとした作品集なのか判断つきません。CDにも公式サイトにも情報ないし。
まあSmithsonian Folkways Recordingsだし、単なる資料としての見方も一応ありかな〜
(このレーベルはスミソニアン博物館が非営利目的で運営してるものです。
そのラインナップは異常なまでマイナーなものばかり。すげえなあ・・・)
PCで開くと1974年のオリジナルLPジャケットの画像が見れます。
紙の特殊ジャケに浮き彫られた「Smithsonian Folkways Archival」がちょっとセンス良い。

とりあえず吹奏楽ファンの方々は間違ってもこれ聴かないように。理解できるか・許容できるか怪しいので。
そんな人はあと「creel pone」ってレーベルのやつも聴かないほうが吉。
音響系の狭間にはまりこんでも良い方だけ買いましょう(笑)



Arne Nordheim
Dodeka

2003 rune grammofon  RCD 2030

アルネ・ノールハイム(ヌールハイム)(1931-)はノルウェーの大御所作曲家。
彼の以前(1967-72)に作られた電子音楽作品の初CD化です。
アナログと(当時の)デジタルの技法を併用させた、独特の音が一緒にならされる音楽。
単音がぽつぽつと、不思議なメロディーを奏でながら重なっていく。
当時はデジタルというものが出てきたばかり、新しい録音技術を利用した
音楽作りへの作曲家なりの試みが、この曲から聴くことができる。
せわしなく音が転がる、音響的にも退屈しない作品でした。



大野松雄の音響世界 3
「はじまり」の記憶

2005 KING records  KICP 2638

大野松雄(1930-)は、映画やアニメなどの音楽・音響を主に担当してきた音楽家。
知的障害者支援にも関心があるようで、経歴には関連の仕事が多く見つけられます。
本作は50分を超える2004年の大作。純粋な電子音楽として普通に楽しめます。
詳しい曲の進行は解説に乗ってるので割愛。
また、解説にもあるように、大作にも関わらず使われている素材が非常に少ない。
その限られた素材を最大限に利用して、幅広い加工を加えながら大きな世界を作り出している。
このスペーシーな音楽空間は彼にしか作れない独自のもの。



Jocy de Oliveira
Estorias Para Voz, Instrumentos Acusticos E Eletronicos

2006 creel pone  cp032

サンパウロとパリで学んだブラジル出身の女性作曲家/ピアニスト
ホシ・デ・オリヴェイラ(1936-)の作品集ブート。オリジナルは81年のLP。
現地盤らしく、後ろの解説が総ポルトガル語でさっぱり。
1曲目「Estoria II」、女声による前衛的な朗読に具体音等の絡みが入り、打楽器などの音がどんどんと入れ替わる。
操作は時に意図的なカットアップの繋がり、別の所ではまるで生演奏のように自然に流れていく。
エキゾチックなリズムも時折差し込みながら、目まぐるしく全く飽きない展開が続く。
2曲目「Wave Song」は名の通りサイン波による波がじわじわとひたすら静かにうねる。
そこに、ピアノのこだまが静かに反響してきて、サイン波も次第にリズムを刻みだす。
「Dimensoes Para Quatro Teclados」はチェンバロを加工したような音のリズムが入り、
電子音のふわふわした流れとピアノなどの激しい動きが対比的に響く、聴きやすいけれど面白い作品。
後半まるまる使って「Estoria IV」。出だしは「Wave Song」みたいな感じですが、
そこに女声のうなるようなわななきが加工された電子音と共に入り込んでくるあたりが奇怪。
更に民族打楽器のドラミングが添えられたりするからヤバさに拍車がかかる。
中間は打楽器の間の多いアンサンブルを軸に声の加工が続きます。のっぺりした感触が危険すぎる音楽です。



Bob Ostertag
Burns Like Fire

RecRec Music  RecDec 53

フレッド・フリスやアンソニー・ブラクストンなどと関係の深い
サンフランシスコなどで活躍するサンプリング・アーティスト、ボブ・オスタータグの作品。
タイトル曲、歓声やリール音がループし、ノイズの中で様々な声が倒錯的にループし絡んでいく。
そこにドラムが入り、ライヴ演奏の断片がやはり細かくループしてくる。
ここらになると、まるで初期ライヒみたいな位相ずれが聴こえてきてミニマル好きの神経をくすぐります。
音源がギターのような心地良い音なので、余計にトリップする。
パート3では男声を中心に持ってきた、若干重たげなループ。
また会場の音声を元にしたホイッスルなどのループでラスト。長さ的にも、パート2の心地良さがいいですね。
「Snow on Water/Smoke on Snow」はフレッド・フリスのギターがマテリアル。
ささくれたノイズ音を効果的にループしながら徐々にサンプルが増えて混沌としていく。
ギターの音が前面に出てくるパート2と「Snow on 〜」が個人的には良かった。
でも、それ以外の部分も含めて実に良いミニマルループ作品。



Else Marie Pade
Face it
Simphonie Magnetophonique, The Little Mermaid, Face it

2002 Da capo  8.224233

デンマークの電子音楽界では主役的な立場である、エルセ・マリー・パーゼの作品集。
「テープレコーダーの交響曲」はこのCDの目玉。電子音楽や具体音方面の音響音楽が好きな人にもお勧めです。
環境音、声を過剰に加工したもの、耳障りな機械音、日常生活から出る音、楽曲。
とにかくありとあらゆる様々な音が、同一のざらざらした音響の中で豊かな競演を繰り広げます。
ピエール・アンリ直系の激しいミュージック・コンクレート。
この過激なつぎはぎは凄い。音響としては50年代後半の乏しいものなのに、とても広い自由な世界が展開してます。
「人魚姫」はラジオドラマ等の音楽を手掛けていた彼女ならではの作品。
45分にわたり、人魚姫の朗読に花を添えるように水音のような音をメインにした妖しげで幻想的な世界。
おそらくデンマーク語の朗読は何話してるか全く分からない上激しい展開が無いのでちょっと内容が薄く感じますが、
ひたすら地道に展開する、水気を感じる独特の雰囲気は面白い。
表題曲「Face it」はスネアの単純な鋭いリズムに乗せて、原型を留めないほどにカットアップされたヒトラーの演説と
「ヒトラーは死んでいない」と壊れたようにループされるスピーチがひたすら交互に現れる。
これほどサイケな感覚の強烈なコンクレート・ミュージックは聴いたことがないです。油断してると洗脳されそうなほどのヤバさ。
彼女なりの、戦争を知らない後世への警鐘の意をこめているようですね。一度は聴いてみるべきコアな曲。



Bernard Parmegiani
De Natura Sonorum version integrale

1990 INA GRM  INA C 3001

ラジオ・エンジニアとしてINAGRMに入り、そこから電子音楽活動を始めていった
ベルナルド・パルメジアーニ(1927-)の1975年作品、代表作の一つ。
自然的な(加工されていない)音と芸術的な(加工された)音との対比からなる、分かりやすい構成。
ぼんやりとしたドローンにばちばちと音が叩かれる。水尾とやサックスなど具体音が変調されてノイズを立てる。
パルメジアーニはどちらかというと理論的な書き手と言うより、単純に音自体への関心をもって
音楽創作を行うタイプの人間であるため、単純に聴いて楽しめるのがいい。
ああ、この人は本当にただ音をいじってその変化を見るのが好きなんだなあ・・・と感じました。
派手な展開皆無で音も少ないけれど、どこか面白さ・興味深さを感じてしまう、そんな個人的には不思議なアルバム。
でもそんな魅力があるからこそ人気の高い作曲家なんでしょうね。



Dick Raaijmakers
The Complete Tape Music of Dick Raaijmakers

1998 Composer's Voice/NEAR  CV-NEAR 09/10/11

ついに買ったぞディック・ラーイメイカーズ(1930-)作品集。
オランダの電子音楽黄金期を飾った人物の一人であり、ノイズシーンにも多大な影響を与えた人物。

「Tweeklank」のぽこぽこしたリズムと茫洋とした電子ドローンの絡み合い、オーバーラップする音たち。
「Pianoforte」の、ピアノの内部奏法で得た音を電子変調&切り貼り。
「Vilf Plastieken(Five Sculptures)」の過激な音の飛び具合は爽快。
そして彼の代表作、「Vilf Canons(Five Canons)」。じりじりぶつぶつ、ノイズがちりばめられる25分間。
なぜカノンなのかは、解説の図を見るだけでもなんとなくは分かる。
元となる点と線からなる楽譜(ダイアグラムなど)から作り上げられる、不恰好なパルスの応酬。
「Canon-5」だけ古いレコードを音源にして作られています。この歪んだ音のノスタルジックさが良い。
「Ballade Erlkonig Voor Luidsprekers(Erlking Ballad for Loudspeakers)」、名前の通り
音源は様々な短波放送からとられたもの。ありとあらゆる娯楽音楽、ノイズ、通信音、混信、
さまざまな音がまるで本当の混信であるかのようにころころ変わる。激しい編集は変わらず。
さらにゲーテ「魔王」の流れを沿った作りになっており、
解説には詩のどの行に対応するか書かれた台本的なものが載っています。約25分の大作。
CD2、最初の3曲はそれぞれの企業の制作したフィルムのための音楽。
Philipsのための1曲目、せわしない背景とは裏腹に、しっかり旋律があるところにびっくり。
TVスクリーンを作る機械の音楽化。リズミカルでノリがよく楽しい。
Bekaertの2曲目はPhilipsより大型の工場産業がモチーフ。音源もかなり幅広い。
Sidmarのための3曲目は同じ大型機械工場でも、重く物々しい機械音が響き渡る。
だいたいは工場のサイズによって音楽イメージも移り変わっているところが面白い。
Mao三部作は毛沢東関連のもの。解説ではなかなか熱く語っておられます。
「Chairman Mao is our Guide」、テープノイズが8分間続くだけ。焼かれたテープの灰色な残骸。
「De Lange Mars(The Long March)」は中国の弦楽器(胡弓か?)を8人の奏者で奏でる。
フィードバック的な作品のようですが、とにかく鬱屈としたドローンが20分。
「」、名前が長いのでとりあえず省略。中国映画の7つの悲歌をマテリアルにした淡い音楽。
「Ach!Ach!」、これ成立の経緯が良く分からない・・・Michael von Bielが書いたスケッチが基なのか?
ヴァイオリン3本とクラリネットの生演奏。微分音的なずれ。
CD3の「Plumes」と「Flux」はどちらもモノクロで機械的なノイズ音がどんどん重なっていく。
音の響きが完全にノイズアーティストのそれ。
「Lied van de Arbeid(Worker's Song)」、労働歌を奏でるオルゴールを機械じかけで物凄く遅くまわした演奏。発想一発勝負。
「Kwartet」、弦楽四重奏のドローン的生演奏を、マイクロフォンを通して微妙な変調にかける。
「Ping-Pong」、ああやっちゃった。卓球台とラケットにトランジスタ・ラジオを取り付け音を出すようにしただけ。
なんかもう聴いてて笑える。遠くに、先立って聴こえる元のラリー音が響いていてさらに滑稽。
「Der Fall Leiermann」では、シューベルトの「ライエルマン」が、音高をぐちゃぐちゃにかき乱される。
ちょうど、テープレコーダーの再生速度を極端にめちゃくちゃにした感じ。というか、作り方もその通り。
そこに破壊音などの衝撃、街頭の歌声、シューベルトの交響曲第10番のドローン的断片が挿し変わる。
「Du Armer!」はハーグのコンセルヴァトールでの共同制作による音楽劇から。
合唱による、神秘的で背筋がぞくぞくするひそやかさをもった音楽。
最後は最近作の「Vier Fanfares」、どうやら同胞のPiet Mondriaanのアイデアを具現化した作品みたい。
だらしのない汚い音による、気の抜けたファンファーレに聴こえなくもないもの。

それにしても、これを聴いているとノイズ音楽にしか思えないものが沢山ある。
音楽シーンに大きな影響を与えたことが良く分かる、素晴らしいCDでした。
あとは解説がもっとすらすら読めればなあ・・・冊子で200Pもあるのですっごく大変。



Folke Rabe
What??

Dexter'sciger  dex12

スウェーデンの作曲家フォルケ・ラーベの、音響リスナーに大人気の一枚。
純粋な電子音のドローンが伸びていく。倍音が重なって係わり合い、そこから新たな響きが生まれ出てくる。
倍音が重要な焦点の一つに当てられているようですが、はっきり言ってそれくらいしか変化が見当たらない。
たまに現れる音自体の変化がとても体に沁みる。最後の倍音は感動的ですらあります。非常に変化の緩やかな電子音楽。
こんなに異常なまでトリップできる電子空間を60年代後半に作っていたことはとても凄いことですね。
2トラック目は同じ曲の再生速度を半分にしたもの。音がオクターヴ下がって「よりメロウ(by作曲者)」な感じに。
音が内向的な印象になり、よりディープで異常な空間になってます。これで50分、やばすぎる。



Eliane Radigue
Jetsun Mila

Lovely Music  LCD 2003

作曲者のエリアン・ラディーグはパリ出身、シェフェールやアンリといった大御所に学んだ電子音楽の作曲家。
1975年にチベット仏教の信者となり、以来それを基にしたドローン音楽を発表しています。
この85分にわたる作品は、11世紀チベットの聖人ミラレパの生涯を綴った一大絵巻。
低く震えるような、独特のかすみがかったドローンが伸びていく。
そこから、徐々に太鼓をたたくような、あるいは心の拍動を示すようなリズムが微かに聴こえてくる。
やがて、その安定した精神世界は風の微かにこだまする現実世界に投影されます。
雨の降るようなノイズ、不規則に現れる打音。だが、ドローンは何者にも左右されず超然と構えている。
またノイズ -今度は何か引きずるような音- が遮ってくるが、規則的な鐘の音がこだましてきて、対立をする。
不浄な存在は鐘の響きによって力を奪われ、勝者はその存在を高潔に宣言する。
Disc2はこの続き。鐘の音は落ち着き、安らかなドローンと一体になっていく。
やがて、流れていたふわふわ心地よい音が、不穏なドローンに交代していく。
怪しげな空気が充満する中、そこから打ち勝つかのような輝かしい音が現れてくる。
聖なる歌のようなその神の響きは、それまで充満していた鬱屈なる音どもを和らげさせ、改悛の道に進ませます。
音たちは、楽器などの歓喜をもって偉大な息吹の元に集まりその神聖さを讃えていく。
ところが、その中から不穏な空気がまたもや現れる。今度ははっきりとした不可避さを持って。
抗うことを許さないかのような音を前に、警告を促していた楽器音もかき消され、重苦しいドローンが空間を支配する。
が、それは破壊するような乱暴さは持たず、厳格でありながら抱擁するかのよう。
立ち尽くすその音は聖人の最後を見届け、無音の中に消え行きます。

・・・なんかこう書くと、いかにも壮大なスペクタクル音楽みたいだ(笑)
実際には茫洋としたドローンが微妙な変化を見せながら伸びているだけです。
ドローンに慣れている人じゃないと結構きついんじゃないでしょうか?彼女の音楽は素晴らしい世界を見せてくれるんですけどねえ。
逆に言えば、ドローン好きは知ってなきゃアウトだろ、ってくらい。



Eliane Radigue
VIce Versa etc.

Important Records  IMPREC259

仏教ドローン、はたまたハードコアなドローンの作り手として有名なラディーグ。
パリのギャラリーで少部数配布されただけの、1970年代のレア音源を発掘。
磁気テープのフィードバック音だけを使って作られた、というだけでもう内容の予想がある程度つく。
低音主体の芯のある、けれど非常に抽象的な趣の強いドローンが伸びる。
かすかに響く高周波のパルスがそれに僅かな輪郭のバリエーションを作る。
トラック2、先程よりも全体の振動数がやや高め。それだけ。
トラック3、先程よりも全体の振動数がさらにやや高め。それだけ。
トラック4、ようやく高周波だけの、印象が少し違うドローンに。
以上CD1。30分しか収録ないのになんでCD2があるかというと、こっちは逆再生版だから。
まあどこが違うと言われても何とも言えないレベルですが、
確かにこちらの方は(逆再生に至る加工の部分で生じるのだろう)うねりのような感覚が強調される。
実に硬派なドローン世界。安心して聴けました。



Michel Redolfi
Sonic Waters #2(underwater music) 1983-1989

1990 Hat hut  hat ART CD 6026

最初はINAGRMで活動してたのに、いつの間にやら水中音響にハマって抜け出せなくなった
いかれぽんt、じゃなかった変わり者、ミシェル・ルドルフィ(1951-)のシリーズ2作目。
まあ70年代後半には「Body Speakers」なるものを使って音楽書いたりして
ちょっと変わった物に興味を示していたみたいだし、初期からそのケはあったんでしょうな。
ハイドロフォンなるマイクを使って水中で集音したりプールの中でコンサート開いたりとやりたい放題です。

ふわふわ淡くただよう電子音に、水面に泡の浮かぶ音、緩やかな水流、
太陽のきらめき、深い水底をイメージさせる音がゆっくりと加わっては消えていく。
その中にさらりとフルートやハープの具体音が遠く響くように入ってくる。
なんというか、水族館のBGMを多く手がけているのが納得できる出来。
見事なまでに水中世界を表現したアンビエント・サウンドスケープ。

ちなみにトラック1なんかではジャン=クロード・リセが関与(彼が委嘱者の一人)したりしていて地味に真面目。
というかこれ、電子音楽なのかアンビエントにカテゴライズすればいいのか全くわからん。
リリースがHat ARTなことが混乱に拍車をかけてさあ大変。
たしかに出来は電子音楽畑としか言えない高内容なんだけれど・・・
でも結果として聴こえてくる印象はやっぱりアンビエントなんだよなあ。



Josef Anton Riedl
Polygonum, Komposition Nr.3・4/I, Paper Music,
Studien fur elektronische Klange II, I, IV, Vielleicht-Duo

Creel Pone 23

作曲者は1923年ドイツ生まれ。ヴァレーズの「電離」に影響を受け、シェフェールの音楽に出会ったことにより電子音楽に入り込みました。
作品集は2枚ありますが、未だにこのCreel poneによるブートしかCDでは聴けません。
「Polygonum」は呻き、嘆息、口笛、笑い、ハミングなど人間の出すことのできるあらゆる音に、
金属音、破裂音などが絡み合うシリアスでシンプル、かつ非常に効果的に素材が使われている音楽。
「Komposition Nr.3」はありとあらゆる機会音や音楽断片が極端に対比されて短く織り込まれていく。
電子音のドローン的な展開の中間部を挟み、後半は双方が混然と入り乱れる。
「Paper Music」はその名の通り様々な紙を切り、契り、はためかせ、丸め、叩く。
フルクサスのBen Pettersonにも同じコンセプトの曲(あっちは「Paper Piece」)があったけれど、あれに比べ激しさが段違い。
紙が騒々しく舞い、暴れ、叫びまくる。聴いているだけで圧倒されます。
「Komposition Nr.4/I」はさらに音源の極端さが増す。日常音ノイズ、音楽や声、作曲についての講釈などなど。
後半はジャズナンバーのノリノリさとどろどろした声が絡み合って凄いことに。
「Studien fur elektronische Klange II, I, IV」は1960年前後に作曲された純粋な電子音楽。
あのレトロなサイン波の音がごぼごぼ、がつんと絶え間なく動き回り、ドローンがその上を伸びていく。
「Vielleicht-Duo」は男性が水の中に顔を突っ込み、様々な発声・発音を行っていく激しい内容。そこに電子音や人の声などが乱入してくる。
激しい、というか変人との境界を5歩ぐらいは余裕で越えちゃってます。絶対何も知らない人間に聴かせられないなあ。
どれもなかなか内容的にも勢いや音響的にも激しく、テンション的には聴きやすかったです。



Neil B. Rolnick
Sanctus, Balkanization, ReRebong, Macedonian AirDrumming

1992 Bridge  BCD 9030

ニール・B・ロルニックはアメリカの電子音楽を(おそらく)メインに作っている作曲家。
なかなか凝ったHP持ってます。
「サンクトゥス」はBarbara Hammerのフィルムのために製作されたもの。
さまざまな作曲家(マショー、バード、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ヴェルディ)が作曲した
”Sanctus”の断片が繰り返され、加工されて姿を変えていく。
あまり原曲の神聖さや神秘性を損なうことなく再作曲することに焦点を置いたらしく、マテリアルの主張がはっきりしている。
また、それと同時に思い切り加工した音も用いて響きの幅広さを演出している。典型的なカットアップ音楽です、楽しい。
「バルカニゼーション」は、この作曲家を知ったきっかけであり、このCDを買う動機になった曲。
バルカン半島の民族歌がループして、それを模した電子音と共に流れていく。
基本的にはメロディーを主体にして音楽が進んでいくのですごく聴きやすい。
「ReRebong」ではガムラン楽器の生演奏にリアルタイムで加工を施しています。
金属の音がふわふわと漂う、打楽器の音に素直に酔える音楽。
「マケドニアン・エアードラミング」もやはり、バルカンの音楽を意識したもの。マケドニア独特のメロディーやリズムを存分に使っています。
印象としても、同じMIDI演奏でもある「バルカニゼーション」と似た感じだけど、よりリズミック。

この人の曲は、どれも基本的に素材がはっきりとわかる状態と全く分からないほど加工した状態を
交互にかつ効果的に使っているところが良い。シンプルな構造だけれど音そのものの振る舞いを楽しめます。
余談、このCD買ったら解説が2部入ってました。あんまりなさそうなミスでちょっとびっくり。



Willie Ruff and John Rodgers
The Harmony Of The World
-A Realization for the Ear of Johannes Kepler's Data From Harmonices Mundi 1619

Kepler  なし?

ケプラー(1571-1630)は代表的な天文学者として超有名ですが、「世界のハーモニー」という理論はマイナー。
太陽の周囲を公転する6つの惑星(当時の数)の公転周期を音に置き換えるという、現代音楽の一発ネタみたいな考え。
これを、イェール大学のWillie RuffとJohn Rodgersが実際に音にしてしまったCDがこれ。
ケプラー以後に発見された3つ(当時)の惑星は、パルスに見立てて組み合わせることで採用。
ぴよぴよ水星など内惑星の音がうねり、ガス惑星がほぼ完全にドローン。そこに新惑星パルスが絡んでくる。
60年代を思わせる電子音が、ドラッギーさを強調します。
電子音楽とドローンを足したこの曲調は、ラーベの「What?」に近いでしょうか。
それにしても、こんな音楽を400年前に書いているのが凄い。嘘だろ、って言いたくなる。
なにしろ音楽史的にはまだ古楽orそれ以前ですから。グレゴリオ聖歌とかと大差ないレベルのころ。
音源は新惑星のパルスがある分聴きやすいけれど、原曲ではリズム要素がないからね、これ。
本当の意味で太陽系に思いを馳せられる、凄いアルバム。
にしても、本当に冥王星は惑星は外れちゃったんだなあ、とこれを書いて実感する。



Pierre Schaeffer
L'oeuvre Musicale
CD1:Cinq etudes de bruits(Five Noise Studies),Diapason Conciertino(Turning-Folk Concertino),
Variations sur une Flute Mexicaine(Variations on a Mexican Flute), Suite pour 14 instruments,L'oiseau RAI(The Bird RAI)
CD2:Symphonie pour un homme seul(Symphony foa a man alone), Bidule en ut(Thingamajig in C), Echo d'Orphee, pour P.Schaeffer
CD3:Quatre etudes de bruits, Concertino Diapason, Suite 14, Masquerage, Les paroles degelees(The Unfrozen Words),
Etude aux allures, Etude aux sons animes, Etude aux objets, Le triedre fertile, Bilude

1998 EMF  CD 010

ミュージック・コンクレートといったらこの人、創始者のピエール・シェフェール(1910-95)の音源を3枚組にまとめた音源。
CD1。1948年の「5つのノイズ・エチュード」、鉄道の規則的なきしみ、ホイッスル、民族楽器のリズム、
様々な音がループと加工の中で変化していく。一つ一つの音を慎重に繋げながら作られた、
従来のものとはかけはなれた、それでいて音楽的な流れを感じさせる音。
ループの性質もあり、リズムがしばしば構造に組み込まれているので微妙な高揚感までおまけにつく。
「Turning-Folk Concertino」は前記の作品のエチュード3を元に作ったピアノ協奏曲
・・・風のテープ音楽。管弦楽音源の切り貼り。全4楽章10分の中で聞こえてくる音楽は、
響きこそ普通の管弦楽ですが、構造が明らかに同じ。断片的なループが音楽を支配します。
「メキシカン・フルートによる変奏曲」、6穴式の民族楽器によるふわふわした旋律が重なり、
打楽器やフルートのリング打音がかぶさってくる。この曲はただ音響の実験成果としてできたみたい。
「14楽器のための組曲」のほうはまだ随分普通の近代曲に聴こえるなあ、とくに最初。
もちろんおかしい構造がたくさんあるんだけれど、ループ構造がそこまで奇異に感じない。
よく聞くことで、そのいかれた音楽の輪郭が見えてくる、あ、当然テープ音源を元にした音楽です。個人的には気に入ってる。
「The Bird RAI」はイタリアのラジオのための音楽に使われた鳥の鳴き声を元に加工した短い作品。
口笛のような虚ろな音が加工されてそこかしこでひょろひょろと響き渡る。
CD2はまず、シェフェールとピエール・アンリの共作作品から。「孤独な男のためのシンフォニー」は名作ですよね。
ベジャールがこの作品への振り付けで一躍有名になりましたね。ここでは12楽章のバージョンを収録。
人体から発せられる声を含む音、管弦楽、プリペアド・ピアノ。これらが混然となりながらも整然として、
テープループと再生変調、カットアップの海から生まれ出る。緊張感に満ちた、素晴らしい作品です。
「ドのなんとか」、タイトルはなんとも言えない気持ちにさせてくれますが、音楽はピアノから出る様々な音響を
駆使して作り上げた、凄く良いんだけれどやっぱりなんとも言えない気持ちになる曲。2分足らず。
後半の「Echo of Orpheus」はアンリの単独作品。シェフェールに捧げられています。
オルフェウスの神話を題材としたオペラの為に制作した53年オリジナルの作品。
女声をメインとしながら、倒錯的な展開を積み上げていくのはアンリの通常運転ですね。
CD3の前半は初期の作品を70年代前半に改作した物。「5つのノイズ練習曲」は
リヴァイスドした結果数が減って「4つのノイズ練習曲」に。順番を入れ替え、ミックスされています。
「Turning-Folk Concertino」も随分カットされて短くなっていますね。
「14楽器のための組曲」改め「組曲14」も10分弱に。まあただ、これら3つに共通して
少しだけ録音が聴きやすくなり、エッセンスが詰まって新鮮さを持ったまま聴き通せる。
「Masquerage」もオリジナルは1952年ですが、ここでは71年の改作版のみ収録。
Max de Haasのフィルムに使用した音源、ということでよろしいか。
「The Unfrozen Words」は52年の作品を82年に改作した物。Francois Rabelaisの書籍を
元にしたテキストの朗読がミックスされていく、なんだか音声詩みたいなの。
ここからはエチュードシリーズ。最初の「Study in Speed」、58年オリジナルの71年版。
ゴングなどの具体音が節制的に絡みあう、まさにミュージック・コンクレートのイメージそのまま。
「Study for Animated Sounds」、同時期の、持続音が激しくきしんでいく作品。
「Study on Objects」では4楽章にわたって、音の振る舞い一つ一つを吟味していく。
「The Fertile Trihedra」は一気に下って1975-76年の作品。
音響もそれに相応しく、一気にステレオ化されています。
これを聴くと、シェフェールのつくる音がいかに激しい動きを秘めているかよくわかる。
最後の「Jigamathing」は79年のピアノとテープのための作品。
同一の動きの主題が生演奏と徐々に乖離していって対比する、コンセプトが分かりやすい小品。
うーん、ボリュームがあった・・・
ひとつ言えるのは、自分はアンリよりもシェフェールの方が好みの作風だということくらいか。



Raymond Scott
Soothing Sounds for Baby Vol.1〜3

Basta 30-9064~6-2

「赤ん坊のための音楽」と題して、そのテーマの下で作曲されたアメリカの電子音楽家の作品集シリーズ。
非常に単純な音形と簡素なメロディー。異常なまでに音の少ない、わかりやすい音楽です。
理屈なんてどうでもいい、聴いていて楽しめるならそれが音楽の全て。
そう言いたげに、底抜けに明るい音たちがぴこぴこ可愛らしく踊りまわります。無垢であるがままの音たちが聴けますね。
もちろん音楽的な内容もきちんと押さえています。一昔前の電子音好きなら抑えて損はなし。
シリーズ全3枚。順番に対象年齢が違って、その度に(本当に)微妙に構造が発展していってる所が笑えます。
あと後半になるにつれて曲ごとの表情付けが濃くなってきて、結果脱力系のノリが増えてきててさらに笑える。
まあとはいえ、「電子音楽って訳わかんない曲ばっかでしょ?」って考えてる人に聴かせたいCDNo.1。
ただ、CD盤の趣味のよくないコラみたいなジャケはどうかと。頼むからLPのやつそのまま使ってくれよ・・・



カール・ストーン
Carl Stone
Al-Noor

2007 inTone Music  ITO/CD 10

カール・ストーンは個人的にはずれなしの作曲家/アーティストです。
複雑な技法は何も使ってませんが、それから出てくる音たちがびっくりする位面白い。
このアルバムもやりたい放題やってて気持ち良い曲ばかり。
民族調の女声ソロを基音とし、それを加工したものを和音として同時に再生させた「Al-Noor」。
やや落ち着いたテンポの、電子音主体のレゲエ風洋楽をスタートとして、
声のみのつぎはぎ編集からいきなりハイテンポ→テクノへのさり気無い転換をやってのける「Flint's」。
一定の短いループの中で刻々とフォーク系なのかレゲエ系なのかよくわからないマテリアルが表情を変えていく「Jitlada」。
ビートルズ系のロックのインストが延々と続いていく中にゆっくりと音が追加/削除/カットアップ等変化していく「L'Os a Moelle」。
今回も期待通りの良い仕事してくれました。
言うなら最近のノリノリ系だけでなくもっとアンビエントな作品も沢山作ってみて欲しいものだけれど、今回の「Al-Noor」みたいに。



Carl Stone
Exusiai

1999 Felmay  fy 7016 / 21750 7016 2

前衛舞踏のダンサーである笠井叡とのコラボレーション作品。
1曲目、ホワイトノイズのような音がゆっくりピッチを上げて大きくなる。一つのうねりが終わったかと思うと、次のうねりがまたやってくる。
2曲目はジャジーなピアノとドラムが多重に重なり、どんどんぼやけていく。無限に重ねられた中から、やがて新たな音響が見えてくる。
3曲目、よくわからない断片が細かくカットアップされた上で改めて並べられる。
格子窓から見た風景のように、奇妙なつぎはぎに電子音楽が飲み込まれていく。
4曲目は金属を擦るような音が一つずつ鳴らされる。間が多く、緊張感がある。
5曲目はかすれたドローンがぶつ切りになって、様々な方向から届いてくる。それがやがて落ち着いたアンビエントへ姿を変えていく。
6曲目は3曲目をリテイクしたものの様子。ぶつぶつした、やっぱり不可思議な音空間。
7曲目も1曲目のリテイクみたいですが、こちらはアンビエント風に変貌していて穏やか。
8曲目は逆に落ちていく金属音が主体。ゆがんだ鏡の中を水銀が滴る感じ。
9曲目はアンビエントかIDMにありそうな、淡い感じの音の呟き。題どおりのエコーが心地よい。
10曲目はそれが重なっていき雲状になって、波のように押し寄せてくる。どこか神々しさすら感じる、独特のドローン展開。
神秘主義的な笠井の踊りに合うような、抽象的で不可思議な曲が多いです。
でも一発ネタ的な彼の音楽要素ははっきりしていて、そういう意味では何時もどおり。



Tetsu Inoue and Carl Stone
pict.soul

2001 Cycling '74  C74-005

エレクトロニクスを操る重鎮同士の共演。
テツ・イノウエらしいエレクトロな音がこそこそと鳴り、そこにカール・ストーン由来の
涼しげでふわふわと浮かぶような電子音のループが流れてくる。
非常に短いサンプルが絶えず震え(この音源にはあのMam'sと同じものも)、
音のガラスのかけらがきらきらと小さな空間を照らし出す。
全体的な感触はかなりテツ・イノウエの作るエレクトロニカなものが強い。
ただ、そこにストーンのサウンドループなどの技術が入って、
その音楽世界をさらに曖昧で純粋に響くものへ進化させています。
とはいえ、やっぱりストーンに惹かれて買った私としてはちょっと物足りなかったのも事実。
トラック8のちょっと錯乱的な音のミックスが初期のストーンらしくておもしろいテンション。



Carl Stone
1196

1996 em:t / t:me recordings  1196

1995年、愛知芸術文化センターのプロモーションのために作られた、
ダンサーの木佐貫邦子と彫刻家の庄司達(しょうじさとる)とのコラボレート作品の音源。
淡いホワイトノイズの背景の中で、かすかに音がその身をくねる。
ゆっくり、ゆっくりとその音は輪郭を顕わにして、響きを豊かなものへと変えていく。
ここだけでも、実に素晴らしいドローンアンビエントの展開。淡くて最高に美しいです。
そこから茫洋としたドラミングが響きだしたら第2部。
激しいパンを伴いながら、それでもどこかふわふわと非現実的なものをまとって響き渡る太鼓の雷鳴。
が、その部分は短く、すぐに微かなサンプル音のパルスが反響する第3部へ。
エクスペリメンタルな音響がひたすら続きますが、そのなかでやっている音の加工は
実に彼らしいサンプリングの変形であることが分かる。
次第にサンプリング音同士が幾重にも絡み合い静かな興奮を誘い出す辺り、実に秀逸。
ゆっくりと淡いドローンに収束して、そこから新たな動機が聞こえてきたら、最後の第4部。
どこかアラビック、あるいはフリージャズ。さまざまなジャンルを想起させる断片が巡り、
ループ独特の淡いビートの中でノスタルジックに彩られる。
渋い男声の長い歌が音楽と交わり、実に幻想的・民族的で素晴らしい世界を見せてくれる。
終始抑えられた響きの中で繰り広げられる、ゆっくりだけれど変化に飛んだ一枚。
ストーンのアルバムの中では最も入手が難しい部類ですが、中身は是非聴いておきたいもの。



Elias Tanenbaum
Arp Art

mushroom sounds  ?

シンセサイザーArp 2500はその独特の浮遊感が特徴だったそうですが、
それをメインに用いて制作された傑作音源がブートリイシューされました。
アメリカの作曲家エリアス・タネンバウム(1924-2008)の電子音楽作品集。
オリジナルはDestoからリリースされたLP。なお、収録作品は全て1973年作曲です。
「Movements」、スペーシーで茫洋とした音に、電子パルス音型が入ってくる。
そこから次第に様々なパルスが呼応し合い、ふわふわと音が明滅する。
まさに宇宙的という言葉が似合う、虚ろな広い空間を感じさせる傑作。
ちなみに、サブ音源としてMarsha Petittのソプラノ歌唱を使用。
「Contrasts」はそこからパルスを取った感じか。
「Blue Fantasy」はスペーシーな浮遊音がディストーションもされ、重苦しく響く。
「For the Bird」のみちょっと毛色が異なり、エコー効果の少ない電子音が使われています。
点描的な音の蓄積が展開のメインに聴こえる、パルス展開の楽しい曲。
後半はサックスのスイングジャズも絡んだり、なかなかいい具合にテンションが飛んでる。
とりあえず端の2曲が素晴らしい出来。



Alejandro Vinao
Son Entero, Triple Concerto

Singcircle  Gregory Rose,Con.
Kathryn Lukas,Fl.  Judith mitchell,Vc.  Phillip Mead,P.
1990 Wergo  WER2019-50

アルゼンチン出身、現在はイギリス在住のアレハンドロ・ヴィニャオ(1951-)電子音楽作品集。
ペドロ・カルネイロと小森邦彦のライヴで名前を知ったので、打楽器とかのための作品を
多く書く人物かと思ってたんですが、実際には経歴にもあるようにかなり電子音楽の造詣に深い人間です。
「Son Entero」はキューバの詩人Nicolas Guillenの詩集にインスパイアされたもの。
4人の声楽家がテキストを複雑に絡めあい、そこに電子音による
さまざまな打楽器などを模した音楽が入ってくる。そのリズム構成がすごく秀逸。
南米的な雰囲気をかもしながらも、非常に細かいリズムを終始叩き続ける電子打楽器群。
後半はフルート、チェロ、ピアノとコンピュータのための「トリプル・コンチェルト」、
序奏のコンピュータソロでモチーフを提示。弦楽ともシタールともつかぬ不思議なサウンドで攻め込みます。
そこから発展として、3学期も加えた点描的な動きは次第にリズミカルに。
その後、各楽器のカデンツァとして電子加工を加えたソロへ。ピアノはなんかエコーみたいな反響が面白い。
フルートは息の発音を強調した、虚ろさを感じさせる冒頭から次第に高揚して行ってそのままチェロへ。
チェロのカデンツァは激しく音が随所から立ち上る、短いパッセージです。
フィナーレ、いったん落ち着いたところからすべての要素が絡み合って興奮した終わりを迎える。
リズム処理にかなり重きを置いたあたり、確かに自分が気になりそうな作曲家だった。
ただ、できればやっぱり「Book of Groove」がもう一度聴きたい。
※Book of Grooveは本人サイトでデモ音源が全曲聴けるので是非。



Simon Wickham-Smith
Love & Lamentation

2008 Pogus  P21048-2

英国出身サイモン・ウィックハム=スミス(1968-)の、電子音楽的な作品集。
VHFからリリースしてるようなドローン音響系音楽を想像してるとちょっと面食らいます。
とはいえ、エキゾチックな要素を使って曲を作る点は何時もと変わりません。流石はEliane Radigueと同じチベット仏教徒。
一曲目「Sandokai」、題は曹洞宗の経典の一つ「参同契」のこと。
さまざまの歌やサティなどをマテリアルとして、奇妙にかつどこか切なく響かせる。
この曲が自分のお気に入り。これは凄く良い。ちょっとグロテスクな美しさがたまりません。
2曲目「The Kin-kindness of Beforehand」はアメリカの詩人Rachel Beckerの朗読を元に加工した作品。
声が様々に縮められ、引き伸ばされ、様相を変えていく。
最後の表題曲は、全3楽章40分の大作。盲目のトルコ人トルバドゥール
(中世の、オック語抒情詩による詩人のこと)などにインスピレーションを受けた作品。
ループ加工された朗読に始まり、エキゾチックなコラージュ音楽がどんどんとあふれ出してくる。
激しい倒錯感に引き込まれる、カットアップ系の曲。彼の作品の中でも特にドラッギーな作品でしょう。
最後の、中東系宗教歌の神々しいコラージュなんか鳥肌物です。
以前から気にかけていた人物ではありましたが、これは素晴らしいアルバムでした。
にしても、Pogusはホント作曲家ともアーティストとも言うのに悩むカテゴリの人たちが集結してる。



Trevor Wishart
Voiceprints
Two Women, American Triptych
Anna's Magic Garden, Blue Tulips, Tongues og Fire

2000 Electronic Music Foundation  EMF CD 029

「声紋」のアルバムタイトル通り、人声に焦点を当て、それを殆どのマテリアルとして作り上げられた音楽。
1曲目は公共の音声案内に使われている女性の声をメインに据えたもの。
彼女らの声がさまざまな音源の声たちと共に、さまざまに分解されて再構築していく。
2曲目はアメリカのいわゆる「文化」的な音源のミックス。
この中ではキング牧師、アームストロング、プレスリーがアメリカ文化の代表として使われています。
声が途中で宙吊りになり、痙攣して引き付けを起こして混乱していく。GRM委嘱作品。
他の作品が全て90年代の作品なのに対し、「Anna's Magic Garden」だけ1982年作曲。
作曲者の娘の声を中核的な音源にしながら、市立図書館の足音まで含む様々な音源を同時に使用しています。
作りは何時もどおりでも、あくまでも曲調は穏やかに、不可思議さを匂わせる展開に仕上がっていますね。
4曲目、穏やかな老婆の語りに「Blue」「Tulips」の発音が乱入してくる。
ロンドン・シンフォニエッタの演奏会における劇場インプロヴィゼーションの定礎になった短い音楽。
「Tongues og Fire」は4セクション25分と長め。どこか怒ったような呟き声がぐちゃぐちゃに引っ掻き回される。
ひたすらグロテスクに展開していくところが彼らしい潔さ。

どの曲を聴いていても、ウィシャートは音楽のダイナミクスをつけるのがとても上手いと思えます。
細かな構造、抑えるところは抑えながら綺麗に音楽の山場を作っていく。
代表作「Red Bird」だけでも聞いてみる価値のある作曲家/アーティストでしょう。



日本の電子音楽 Vol.4
舞踏劇のための音楽 湯浅譲二
お婉、三つの世界

Edition OMEGA POINT  OPA-004

湯浅譲二のミュージック・コンクレート作品二つを収録。
「お婉」は大原富枝原作の舞踏劇の伴奏。最初の曲の能管と水滴以外は全て電子的な編集を行われています。
重々しい弦のような音響は主人公の暗い心を表し、全曲を底から支配する。
きらきらしたオルゴールのような音、鼓、使用される音は非常に限定されていて、空間を支配して大きく響かない。
シリアスで陰鬱な世界はテープ手回しのゆらぐ音響を通して展開され、そこから「有機的、整理的な音響」への糸口が現れる。
「三つの世界」は中編成のオーケストラとミュージック・コンクレートからなる作品。
ウェーベルンの影響を語る作者の通り、確かに系統が似た響き。そこにプリミティヴな感覚を連想させる電子音の鳴き声。
中間部の管弦楽はちょっと毛色が違って激しい。
作者はヴァレーズやメシアンを挙げていますが、自分的にはもうちょっと似た作曲家がいた気がしてならない。
個人的には「お婉」の方が一貫した世界を感じられて面白かったです。



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