ノイズ系音響
実験音響の中で、ハーシュノイズ風味やノイズ一辺倒なものをこちらへ。
同じノイズでも、薄暗い感じのノイズドローンが延々伸びていくような
ドローンの要素が強いものはドローンのカテゴリに入れてますので注意。
もちろん判別は曖昧なものになりがちですのでご容赦くださいな。
一応アルファベット順。ただし姓名とか関係なく最初の頭文字で判断。
Andrew Coltrane
In Dreams We Channel the Flight of the Blind
2009 905 Tapes 905.83(Cassette)
ミシガンで活動を続ける同地のノイズアーティスト有名どころ。
テープのみでリリースを行う大御所レーベルから、35分と30分の2カセット・ボックスセットでリリース。
まずは35分。ヒスノイズのような動きがかすかにこだまし、次第にノイズに侵された音たちが動き回る。
かさこそと動き回るようなノイズたちの群れは、どこか整然としていながらも
アンダーグラウンドらしい静かな狂気を存分に垂れ流してきます。後半ほどハーシュノイズ風味。
B面は重いマシンガン風ノイズに、やはりパルス的なノイズが被る冒頭からギター風の
メリスマを強調したノイズの動きなどが絡みつく、なかなかかっこいいハーシュノイズ。
30分のほう、ABともに具体音サンプルも交えたノイズのわななきあい。
勢いはないですが、これはこれで悪くない。
限定50部。
Artificial Memory Trace(AMT) & PBK
Transphere 1997_1999
2001 Erewhon CDWh0N002
チェコ出身ベルギー在住のサウンドアーティスト、ミュージック・コンクレートの影響を強く受けているAMTと
80年代から活躍するアメリカのノイズ系音響の重鎮PBKことPhillip B. Klinglerの、
97年から99年の共同作業による音源。
物音系ノイズがごつごつと響く中から、どろりと溶けたドローンノイズがはみ出てくる。
なんというか、音の振る舞いが実にミュージック・コンクレートのそれ。
そこに王道のノイズがじりじりと介入してくるのがなんとも面白い。
ある種古典的とまでいえる電子音楽的な構成に、ノイズがそのまま載せられている。
トラック5や8などはテープループが礎になっているのでより後年の電子音楽シーンに聞こえますが、
パルスノイズが折り重なるこれはこれで楽しい。
あとトラック6はAMTのアンビエント的側面も伺える作風で良かった。
Asmus Tietchens
Recycled Music
RRRecords なし(Cassette)
ドイツの実験的な電子音楽の重鎮Asmus Tietchens(アスムス・チェチェンズ)の、
RRRecords名物企画参加作品。このシリーズ、ほんと色んな人が出してるよね。
規則的な、低くくぐもったノイズに、ふわふわとヒーリング調の歌唱が淡くかぶさる。
エレキピアノやシンセの断片が奇妙にループされる中、徐々に全体が
冒頭のようなどろどろした音響とノイズに音楽が沈んでいく。(以上A面から)
点描的なピアノと弦の破壊的な音響断片。激しいドラミングのようなパルスノイズ。(以上B面から)
様々な音楽がくるくると多く登場しながら、その全てが溶解して異常音響に消えていく。
音響はアンダーグラウンドな爛れたノイズですが、場面転換の仕方が狂っていながらも
なかなか構成的で、(ああ、一応シリアスな音楽もかなり知ってるんだな)と考えた。
名前は時々見かけていたんですが聴いたのはこれがはじめて。見かけたら1,2枚買おうかな。
さて今回のオリジナルカセットはゲイリー・ムーアでした。いきなり心地よいギターサウンドに変わって大爆笑。
Aube
Suppression Disorder
Alchemy Records ARCD-109
中嶋昭文によるノイズ界の代表的ソロユニット、オウブ。
低いドローンから警告音のようなループ、甲高い電子音にノイズ。
音の極端な触れ幅がたまりません。しかもその構成が緻密なことが、聴いてはっきりわかる。
曲につきほぼ単一の音源を用いて作曲することによる、純粋な響きのノイズ音。
ノイズとしても、音響作品としても、非常に完成度の高いハイテンションな音楽を聴かせてくれます。
Aube
108
Old Europa Cafe A.V.S. OECD 018
煩悩の数をアルバムタイトルにした、ちょっと仏教チックな観念のノイズ。
非常に小さい音からじわじわと鐘を叩くような、無機質な金属音がこだましてくる。
小さく蠕動する鈍い電子音の波。そこに時折入る、冷徹なノイズのくぐもりは
次第に全ての音を溶かしノイズにしていく。
ふわふわと浮かぶドローンがじわりじわりと、神秘的にその息を大きくしていく。
じりじりとうごめく、振動音のようなノイズ。
よくやる激しめのノイズとは正反対ですが、作り方は彼らしいノイズドローン。
こういうのも良い。むしろ、このほうが音に傾聴させられる感覚が持てて好感です。
Audiocum vs Bassfucker
Harsh Music for Hot Nurses
2007 Symbolic Prod SYMBCD28
フランスのレーベルSymbolic Prodが贈るド変態シリーズの記念すべき?1枚目。
なんでこの組み合わせなのか全く理解できませんが、とにかくエロいナースコスのジャケット。
なんというか、安っちいグラビアの臭いがぷんぷん。
それなのに中身は思いっきりハーシュノイズやパワエレ系ばっかりのアーティストによるコラボ。
この一作目はフランス、べグル出身のAudiocumとボルドー出身Bassfuckerのコラボです。
内容は文句なしに直球ハーシュノイズ。ぎゅるぎゅると潰れた音が飛び回ります。
ただ、ちょっとモノフォニックで物足りないところも。
まあ、単純に一本縄みたいにうねうねとうごめく様もこれはこれで楽しい。
トラック3とかの溶解系ハーシュは大好きです。
限定250部。CDRをそのままぶち込んでくる所が残念すぎて泣ける。
Brad Taylor
From the Moon to the Fish
trente oiseaux TOC 971
微かなホワイトノイズとパルスが続くと思ったら、いきなり金属質の音が沸きでてくる。さらにいきなりどろどろのノイズに。
音量が不規則になったと思ったらぶった切られ、今度は搾り出されるようなノイズ音の応酬に変わる。
とにかく一つの調子が長くは続かない。渋い電子パルスがいきなり轟音ノイズになると思ったらいきなり消えたり。
急激な展開の部分はやっぱりびびりますが、それでも聴衆の意識はしっかり掴んで離さないだけの魅力がある。
様々な音の振る舞いが聴けて楽しいですね。ミニマルな音展開が多め。
2曲目は静寂音響。聴こえるかどうか怪しい小ささで、音がぶつぶつ言う。ドローンよりの金属電子音空間もありますが、基本的には静か。
それぞれの音楽に対して、どれも鋭いクールさを感じました。やっぱtrente oiseauxのリリースらしいや。
The Cherry Point
Black Witchery
Pac Records PACrec118
今までにいろんなレーベルから3インチCDで出ていた音源をまとめたもの。
1曲目、野太い音の一本勝負。音を大して重ねていないのにはなから最高に暴力的で圧倒的な音を作っていて凄い。
そんなのがだんだんと重なっていくからもうたまらない、ただただ音の暴走に身を委ねるばかり。
曲もただわめいているだけじゃなく、うまく盛り上がりや音のヴァリエーションをつけていて巧い。
2曲目はその流れを引き継いで、様々なノイズが縦横無尽に暴れまわる。
先ほどよりは落ち着いた分、なかなかクールな響きで巧みなノイズの配置をしています。下手な電子音楽より楽しめるかも。
3曲目も方向性は2曲目と同様。ぼやけたノイズが多めで鮮明な輪郭が現れると目立ちます。
1曲が長い分なかなか凝っていて、久しぶりに(これは好きだ)と感じられるハーシュノイズ作品でした。
The Cherry Point & Moth Drakula
2000 Maniacs
2005 Troniks TRO-134
Phil Blankenshipによる、個人的に気に入っているThe Cherry Pointと
Evan Pacewicz, Ex-JesusによるMoth DrakulaのスプリットCD。
まずMoth Drakula。地響きのようなノイズに、底から沸き上がるような電子音の渦。
容赦なく吹き荒れる地獄のようなノイズの烈風が聴き手を投げ飛ばします。
中音域ノイズの叫び声をきっかけに音楽は不穏気な落ち着いた展開に。
とはいってもノイズが何時暴れるかと緊張感がぷんぷん漂うヤバいムード。
もちろんそのうち大爆発して耳が挽肉状態になるわけですが。
今度は金切り声みたいなノイズも混じって、今までの重量感に鋭さが足されちゃいます。
とにかく展開が色々手が込んでいて、非常に攻撃的なハーシュノイズが豊かな展開性をもって聴くことができる。
一方The Cherry Pointのターンは、やっぱり最初からダイレクトにパワー勝負のハーシュノイズ。
ばらばらにはじけたノイズが四方八方から突き刺さってきます。やっぱり凄い。
ただ、Moth Drakulaの方と比べても、若干展開の起伏が緩やか、というか一本調子な気が。
いや、これでも十分にいかれた音の重なり方が漸次的に展開されてて満足なんですけれどね。
そこらの一直線にハーシュノイズなアーティストとは一線を画す、非常に素晴らしい出来。
限定50部。
Deathpile
G.R.
Force of Nature fon04
パワエレって言うんでしょうか、すごく歪んだ電子音パルスのノイズミュージックです。
あくまでボイスパフォーマンスがメインなんですね、これ。ハーシュノイズの上を越えてささくれたシャウトが飛んでくる感覚が不思議。
そのせいか聴いていて激しい音の圧力を感じるのに、実際に圧倒される感覚がありません。
でも決してつまらない訳ではなく、むしろ展開がいろいろ見られて、聴いていてあんまり飽きが来ませんでした。
深みのある、侵食されたような音&声メインのじわじわくるトラックもあります。
なかなか良い内容でしたね。が、やっぱり自分の感性的には音響的にはやや単調な声が前面に出ている点でマイナスに。
声ならやっぱりDiamanda Galasくらいやってくれないとすっ飛ばないなぁ。ぜんぜん自分の感覚でも気持ちよく聴けるほうなんだけれど。
Destroyed Music
Recycled Music
RRRecords(Cassette)
RRRecordsの有名な企画「Recycled Music」。
既にメジャー市場で発売された、何かテキトーなカセットテープをリサイクルしてそのまま使うという手抜き一歩手前の発想。
だから、ジャケットとかも元の上に色の違うガムテープを貼って手書きの「Recycled」とあるだけ。
これを怒るか笑うか感心するかはあなたの感覚次第。
今回のは、Frans de WaardとRon Lessardの組んだDestroyed Musicがこの企画に参加したもの。
金属音がこだまする部屋の中みたいな音景に、レコードの溝を針が走るようなぶつぶつノイズが絡み合う。
ひたすらアブストラクトな音楽がテープ特有のもやもやした響きを活かした音響の中でせわしなく動き回る。
展開は、繰り返される音が替わるだけ。かなりディープな己の世界に入っちゃってます。
B面はささくれたノイズが、抑圧された世界の中でひそやかに叫びを上げる。
後半はA面のレコードオンリーみたいなものが流れたり変哲な音源のループだったり、元の世界に戻ってる。
さて、再利用してただ上書きしてるだけなので、新規収録部分が終われば当然元の音楽が流れてきます。
私の持ってたのでは歪んだモーツァルトが聴けました。これはこれでいかれた音楽として聴けるのが面白い。
というか、(自分が持ってるものは)B面でモーツァルトがバックに聴こえるんですけれど(笑)
でもこれはこれで倒錯した感覚が味わえて楽しいかな。
Dio Daga
The Lost Powers of Freedom
2004 Haamumaa なし
Uton名義が有名なJani Hirvonenの別名義ギターソロアルバム。
フィードバックノイズの中でひたすらにギターの乱れ弾き。
モノトーンな響きがひたすら不規則なリズムでたたき出されるさまは
中ジャケの写真にあるケチャ(と思しき儀式)の精神構造そのものの感覚に近い印象を抱く。
最初から最後まで同じハイテンションのままかっ飛ばしていきます。
そこまで何かが良いというわけでもないけれど、
ただ一本垂れ流すだけの普通のハーシュノイズよりは幾分楽しかった。
主にそのミニマルな構成のモノトーン加減がなんとも言えず微妙。
限定50部。
Eddie Prevost & Organum
Flayed / Crux
1997 Matchless Recordings MRCD27
OrganumにAMMのエディー・プレヴォーが参加した一枚。
「Flayed」は甲高い電子音に、太鼓やシンバルが激しく乱入してくる。ドラムメインのインプロみたい。
どろどろした音をオルガヌムのメンバーが出しながらプレヴォーが狂乱するさまは壮絶です。
「Crux」は重々しいドローンに金属音響が響き渡る。いつものオルガヌムらしい音楽です。
Failing Lights
Scent Pattern
Trash Ritual trash027(Cassette)
爛れた、古いテープのノイズを極端に強調したようなノイズがうねりをあげて襲い掛かってくるA面。
そこに叫び声のような、同様な音に加工されたギターが乱入してくる。
やがて電子的な音の咆哮がそこかしこから上げられてゆさぶりをかける。
B面は前述のノイズにエコーがかかった状態で開始。さらに倒錯感がupしてます。
そこからノイズが力を持ち、三次元の中を這い回っては様々な事象を叫びだす。
血なまぐさく、どろどろとした音は、けれど灰色のモノクロな世界の中にある。
毒々しいハーシュノイズ系。カセットテープ、限定91。
Ferial Confine
First, Second and Third Drop
2008 Siren Records SIREN 014
アンドリュー・チョーク初期のユニット、フェリアル・コンファインの音源がSirenからリリース。
オリジナルは1986年に録音されたものの、今まで未発表だったもの。
かすれたような金属ノイズがアブストラクトにこだまする。
ふわふわとしたドローンを背後に、軋み声を上げる金属的なジャンク音たち。
トラック4だけは静寂の中でノイズがこだまするような彼なりの不可思議な宇宙空間的世界。近作を思わせる展開です。
このノイジーぶりは近作の彼とは違うものですが、それでもその音の
作りこみや積み立て方は今と共通するものを強く感じます。
音楽的には初期Organumが非常に似通っているでしょう。
これの録音した年から彼はDavid JackmanとOrganumを結成するわけですから、
これは彼最初期の活動の流れを知る上でも貴重なリリースとなりましたね。
最初3曲のジャンクぶりもいいけれど、最後2トラックの作りこみが特に素晴らしい。
限定500部。
F.R.U.
Sine Language
Lapsed Electronics lapsed 09
3インチCDR。いまいち詳細がわからず。レーベルサイトもつぶれてるみたいだし・・・
トラック1は、空調の駆動音を聴いているかのような虚ろなノイズドローン。
徐々に成長したと思ったら、トラック2では激しいノイズの嵐に。
ハーシュな趣だけれど、あくまで内部で鬱屈して暴れまわるだけな感じが逆にいかれてる。
トラック3はその勢いで、激しく加工されたループ旋律がこだましながら甲高い電子音ヒスノイズが飛び回る。
すぐに音楽はトラック4へ。フィールド音を遠くに配置し、くすんだ音響の中でギターがぽつぽつと音を伸ばす。
随分このトラックだけきれいな感じでびっくり。
でも、全体を見通すと一つの流れができている感じで、なかなか良い。
Gelsomina & Squamata
Junkyard Behemoth
2007 Freak Animal Records Freak-cd-038
フィンランド発のハーシュ〜パワエレ系アーティスト同士のスプリット盤。
ゲルソミナはじわじわと迫ってきたと思ったら突如大爆発。
ゲーセンの中と道路工事と暴風雨を足しっぱなしにしたようなカオス世界。
やっぱりとんでもないハーシュノイズを聴かせてくれるので一安心。
Squamataは今回はじめて聞きますが、Gelsominaとどこが違うのかわからないハーシュノイズ。
ちょっとパルス的な発狂要素がある分こちらの方が好みかも。
ああ、ようはこの人達爆発できればどうでもいいのね。
でもそんなところ嫌いじゃないよ。そんなわけでとても楽しめました。
限定300。
God Willing
Different And Worse
2007 Monorail Trespassing mt46cs(Cassette)
カリフォルニア在住のRen Schofieldによるプロジェクト。
侵食された激しい重低音ノイズに、鋭いきりきりした音が食い込んでくる。圧倒されるようなハーシュさ。
音の機関銃がこれでもかと乱射され、高音ヒスノイズや声とぐちゃぐちゃに絡み混ざり合っていく。これカッコイイですね。
B面は、さっきよりも攻撃的なノイズをベースに、徐々に歪みが激しくなった音たちが展開していく。
いきなりヒス音交じりの爆発で結び。限定100部。
Gruntsplatter / Slowvent
Split Release
1998 Crionic Mind CM003
GruntsplatterのScott E. Candeyによるレーベルからのリリース。
前半、Gruntsplatterは混沌とした溶解アトモス系ノイズに、重々しいベースラインが奏でられる。
曲によっては旋律的な面もありますが、あとはだいたい溶解したノイズがじりじりと陽射しに晒されるような音楽。
これぐらいの融合具合が自分にとってはかなり聴きやすいところ、楽しかったです。
Slowventの方は、Discogsとか見てもあんまり作品をリリースしてない。前者よりマイナーどころか。
曲の方はたいした差はないけれど、こちらの方がよりささくれていて、ハーシュノイズ気味。
うねるようなノイズの波が印象的です。
両者ともカセットでリリースしてそうなノイズ曲でした。まあ実際してるみたいだし。
限定500部。
Hijokaidan
Legendary Live Collection of Hijokaidan Vol.3
-1988.1.11 at Shinjuku LOFT, Tokyo
Alchemy Music Store AMSDVDR-009 (DVD-R)
非常階段のライヴの様子を収録したDVD-R。
ノイズがじりじりと演奏され、そのノイズにギターが参加してくる。
やがてヴォーカルが出てきたと思ったらまずマイクスタンドをぶん投げ。
その後客席に乱入し、お構いなしにパイプ椅子をステージにひたすら放り投げていく。
そうして出来上がった即席廃墟の中で、ギターがひたすらノイズ・インプロを繰り広げる。
座ったり寝転がったり、ひたすら自己の中だけで繰り広げられる身勝手なノイズ。
最後はいきなりコードを引き抜いて、さっさと退場して終了。客の拍手なんてもちろんありません。
こりゃひでえ。意味不明だ。でも面白かった。
John Hudak
Halls
1987 audiofile Tapes aT 26(Cassette)
アメリカの実験音響の大御所ジョン・ヒュダックの初期テープ作品。
非常に無機質で荒くれたノイズが、がりがりとひたすら続いていく。
そこの中から時折聴こえる、車か飛行機の低いエンジン音のようなもの。
水がパイプなどの外側を流れ落ちていくときの音をマテリアルにしているとは
最初思えないくらいに激しくささくれたノイズの帯。
A、Bどちらの面も大して差はありません。Bのほうが幾分かノイズオンリーな展開かなあ。
近作は落ち着いたストイックめな音響が多い印象ですが、これは完全にハーシュノイズ・ドローン。
John Wiese
Soft Punk
2006 Troubleman Unlimited TMU-184
カリフォルニア州ロサンジェルス出身、LHDやBastard Noiseといったユニットのメンバーのソロ作品。
しょっぱなからとんでもない音の機関銃。すっげえ。
激しいノイズ音が目まぐるしくカットアップされ、感覚がジェットコースターのように激しく揺さぶられる。
ありとあらゆる音の洪水に、聴き手はただ我が身を任せるしか術はないです。
こういうせわしないハーシュノイズは大好きです。いやあ買って良かった。
壁耳
壁耳III
2004 なし
不安げなギターノイズが呻き声を上げて徐々に広がっていく。
ふわふわ、うねうね、奇妙なくねりを伴いながら、音は空間を支配しようとその勢力を増します。
ひとしきり音はその身を誇示した後、最初と同様にふわふわと去っていく。
2曲目は、やはりふわふわしたギターのハウリングに、ささくれたノイズやスペーシーな音が降りかかってくる。
これらが混ざり合いながら、それこそ宇宙の脈動を表すかのような不可思議異世界空間に。
3曲目は、それまでのアブストラクトなドローンにトライアングルが加わった感じ。
どの曲もギターノイズをメインに据えた、スペーシードローンです。
Kakerlak
Unsafe Vitality
Monorail Trespassing mt45cs(Cassette)
A面、とんでもない勢いのハーシュノイズ。これはやばすぎる。Knurlがかすんで見えるくらいの圧倒的な音圧。
聴いているこっちが粉々になりそうな、ノイズの暴力です。しかも、金属ジャンク音を使わずにこんな世界を作っているのがさらに凄い。
B面はそれに比べれば幾分落ち着いてる方。内向的になりながらもさらに音が燻り続けます。
でもやっぱり盛り上がって激しい音に。それどころか、刺さるような、はっきりした輪郭を持つ音まで入ってきて更に痛々しい。
殆どリズム要素は感じられない激しいノイズドローンです。限定100部。
Kevin Drumm
Sheer Hellish Miasma
2002 Mego mego 053
ケヴィン・ドラムの中では断トツにお気に入りの一枚。
最初から最後までぶっちぎりです。特に中3曲のノイズっぷりに惚れました。
聴き手を押しつぶさんとする文字通り圧倒的な音塊・ドローンの数々。
全ての音がぐちゃぐちゃに混ざり合いながらも金属的な冷徹さを強く放ちます。
単なるノイズでなく、CD全体で一つのまとまった構成を持たせているところが非常に素晴らしいです。
最後に少し落ち着いたドローン作品を持ってくるところも面白い。
ノイズ系の中で一番お勧めしたいCDですね。
トランペット使われてるみたいだが・・・どこ?(笑)
Knurl
Cytostatic
Panta Rhei Recordings
思いっきり全力でハーシュノイズ。「金属面のぎざぎざ」的な意味のユニット名通りもんのすごい金属音の嵐です。
Alan Bloorが適当に見つけてきた、金属のオブジェクトから作られた楽器によるこれらの曲はまさに暗黒空間まっしぐら。
全く休み無く、戦闘機とガード下と突貫工事がコラボしてます。
内部で激しく音が動きまわるので爽快。こういう非楽器的な音は最低に野蛮な音が出せるので良いですね。
手作りCDR。ジャケ真っ黒なんだから、CD本体の模様も灰色の渦模様じゃなく黒にすればよかったのに、なんて。
Lasse Marhaug, Jorge Castro
Glory on the Summit
2007 Sonora Disc/Noisex Records RA-05/NSX-012
出だしは落ち着いたミニマルなサウンド漂うアンビエント風味の音楽。
おおこれは気持ちいいぞと思ってるとギターノイズが徐々に割り込んできて雰囲気をぶち壊していく。
後半は完全なノイズミュージックですね、それもハーシュノイズ。
最初音が少ないのでさびしいですがだんだん重なってきて暴力性を増していきます。
最後の方はまた単音ノイズに戻って適当に終了。
音の変貌に重きを置いていないのでなぜ全く違う傾向の音楽をつなげたのかよくわかりません。
ゆっくりと侵食されるわけでなく、思い切り前の流れを破壊するわけでもなく、中途半端な繋ぎであるのがとても残念。
けれど、前後半それぞれの音楽性は気に入っているのでときどき聴きたくなる、そんな20分1トラックのCD-R。
Merzbow
Metamorphism
Very Friendly VF042CD
びよんびよんした撥弦楽器の音が響いてきて、あれ、何時もと違うぞと思ったらいきなりノイズの開始。びびりました。
そこからはもう察しの通り。ぐねぐねゴウゴウノイズが動き回ります。
けっこう引きつったリズムが目立つ箇所、落下するように墜ちてくる電子音、具体音の叫び、などなど。
4トラック目も冒頭ギターの音がはっきりわかる部分で始まったりして、ちょっと具体音的なところが比較的、多め。
個人的には3トラック目のパルス地獄がお気に入り。
Merzbow
Tauromachine
1998 Release RR 6989-2
メルズバウの中で一番気に入っているアルバム。
力を持った音の運動がこれでもかと聴き手を殴りつける。機械音が機械音を蹂躙し、互いが互いをむさぼりあう。
金属が悲鳴を上げて全てに襲い掛かってくるこの迫力はやばすぎる。
メルズバウのノイズは決してドローンではなく、パルスを持った息遣いに支配されているところも特徴的。
そこから現れる息吹は、音に生命的・動物的な獣臭さを与えています。
メルズバウこと秋田昌美を最初に聴いたのがこれでした。未だにこれを聴いたとき以上の衝撃をノイズで味わったことは無いです。
匹敵するのはケヴィン・ドラム「Sheer Hellish Miasma」の時くらいか。
ただメルズバウは多作なのでどれが一番とはなかなか言えないですね、自分もまだほんの一部しか聴いていないしね。
Merzbow
9888a
2010 905 Tapes 905.122(Cassette)
メルツバウ80年代の録音が、20年以上もの時を経てカセットリリース。
ばねが弾けるような音響がマシンガンのように打ち鳴らされ、
そこから次第に金属系のきしんだノイズと共に溶解と爆発が始まります。
渋くもじわじわ、きっちりと展開をつけて倒錯的なハーシュへと進んでいく響きは圧巻。
B面はギター系のマテリアルが錯乱しながら響く冒頭から、冒頭のような激しいパルス風展開に戻っていく。
やっぱり彼の作品はどれを聴いてもものすごい。これもかなりのお気に入りです。
限定130部。44分カセット。
Moly Pona
Moly Pona
1997 Self Abuse Records SAC-30(Cassette)
京都のTsuyoshi Otaなる人物によるカセット作品。
ぐちゃぐちゃとノイズの泥水の中から音が汚らしく湧き上がってくる。
マシンガンノイズ風のハーシュ音響がただれた残響の中で容赦なくばらまかれる。
ギター系ノイズや激しく変調されたボイスサンプル、電子音のきりきり舞い。
存分に暴れまくる、溶解系ハーシュノイズの嵐。爽快です。
短い曲がいくつも連なっていますが、たしかに音響は変わっているけれどここまでくるとそう大差はない。
というか、いろいろと表情がある分飽きないで最後まで聴ける。
ただ、とりとめないアングラ臭はその分濃厚に・・・
後半はちょっと失速して、個々の音をいかに動かしていかれた音響を作るかに焦点が移ってます。
The New Blockaders
20th Antiversary Offensive
2003 hypnagogia GIA01
超人気ノイズ大御所のライブ盤。2003年6/6、イギリスのクラブでのもの。
薄いノイズからいきなりカットアップされるハーシュノイズの嵐。
入り乱れるラジオノイズや激しい物音ノイズの音圧。ホワイトノイズの激流に金属ジャンクが響く。
流れの展開が早くて、聴いていて全く飽きない。
40分もない内容ですが、これだけ濃ければ十分です。お腹いっぱいとも言う。
やっぱりこの人達はレベルの高い混沌ノイズを聴かせてくれる。
限定500部ナンバリング入り。
Nobu Kasahara
魔法陣の軋み
2008 Erinyes Record ER005
瘡原亘自身のプライベート・レーベルから。
この世にはびこる「良くないものの気配」との交感がテーマというこの作品、たしかに作りがグロテスク。
おもちゃのようなチープさ、ヴァイオリンのささくれた響き、テープ加工による珍奇な組み合わせ。
雑多なものが積み上げられた、まさにジャンクの寄せ集めみたいな音楽。
タイトル曲冒頭は、録音環境もろもろから制作初期のミュージック・コンクレートみたいな感じがして、その点でも面白かった。
限定38部、ナンバリング入り。
ノイズ合唱団
ノイズ合唱団の人声組曲
ENBAN(DVD-R)
即興系ノイズバンド倍音sの元メンバー、徳久ウィリアム幸太郎が中心となって結成された
声によるノイズミュージック集団「ノイズ合唱団」の、ライヴの記録。
前半は高円寺駅前にある店、円盤での2005年ライヴの様子。
薄暗い会場の中、甲高いノイズがひねりだされる。ここからすでに声です。
冒頭ノイズ調で何やら言っているんですが、「最後までお楽しみください」しか聞き取れんかったぃ。
そのあとは甲高い発声で持続音。完全に高周波電子ドローンな感じ。正直ホラーな世界。
時折間(会場ゆえの電車の駆動音を避けるためでしょうか)を挟みながら
じりじりとひたすらハードな合唱空間が続いていく。時折出てしまうハウリングが逆にいい味出してる。
会場のスクリーンに使われた映像(微生物の電子顕微鏡写真とか)は
過激ではないけれどアブストラクトな異常性を醸し出していて、こちらもなかなか。
というか、終始微妙に揺れっぱなしなカメラワークが一番映像的に倒錯する。
後半は2006年、円盤ジャンボリーでのライヴの様子。
最初は散漫な感じでしたが、次第に乗ってきて声明やボイスパーカッションなど他ジャンルに
影響された断片も織り交ぜて進む。映像は会場をゆらゆら移すだけですが、音響的には前半よりも豊か。
これはやべえ、普通にノイズ音楽としての出来もかなり高い。
声の可能性を探る人間はジャンル問わずいろいろいますが、ガチのノイズを
声だけでやってしまおうという試みはなかなかないのでとても楽しめました。
Nord
Abstract Moon
2003 Alienation su 39
1979年から活動するバンドの、片山智と長谷川洋によるユニットの方の2003年ライヴ録音。
ちなみに、オリジナルから分かれた及川洋も同じ名前を冠して活動してたのでややこしい。
会場のバックノイズの中からかすかに電子音のドローンが響いてくる。
静かに進んでくる持続音の周りを、ぱらぱらと主張するように鈴などの具体音が入る。
声明のような声を初めとした仏教的マテリアルやギターなどを中核にした呪術的断片が混じりながら、
混沌・倒錯した、仏道的な忘我と無為の境地に聴き手を誘います。
このぐちゃぐちゃとした曖昧な輪郭のノイズは、ジャパノイズと聞いてまず思い浮かべる
メルツバウやインキャパシタンツのような剃刀状の激しさとは対極だけれども、
この音響はまた新しい魅力を見せてくれる。そして、ジャパノイズの古典の一つとして
聴かれても良いような奇妙な安定感を感じさせてくれる。
Odal
Smashed Up Reality/This Damned Nihilism
2009 Impulsy Stetoskopu 013
オランダの奇人Peter Zinckenによるユニット、ポーランドのレーベルから。
1987年ごろにゲロゲリゲゲゲのVis a visレーベルからリリース予定だったものの
いろいろあって今回のリリースまでほぼ未発表だったもの。
ハウリング系のノイズが分厚く垂れこめ、人の声がぽつぽつとただれた響きで聴こえる。
音楽的な断片が聴こえたと思ったら溶解ノイズの中でサイレンがわめきたてる阿鼻叫喚の世界へ。
その後も延々さまざまなマテリアルが見え隠れしながらも、すべてがくぐもった・
あるいは溶け切った退廃的な音響の中でノイズになって垂れ流される。
10分過ぎのギター音型とか22分ごろのインダストリアルノイズは普通にかっこいい。
CD1「Smashed Up Reality」、CD2「This Damned Nihilism」、どちらも基本調子は変わらないです。
とりあえず、無造作にノイズ垂れ流しを繋げただけの感じがどうしようもなくアングラらしい。
凝った装丁の4cmくらいのケーキ型BOX収納なのは良いんだけれど、それ自体の収納には困るなあ。
限定120部、ナンバリング付き。
Organum
Volume One
1998 Robot Records RR-17
オルガヌム初期のリリースから音源を集めて再発した、おなじみの真っ黒ジャケ。
トラック1-4は「Tower Of Silence」として1985年にリリースされたもの。
ぎりぎりと高低さまざまな音響のすべてが軋みかすれた叫び声をあげる。
空恐ろしいのに、見事なまでにノイズ音響を一体化して、奥底から響かせる手腕はさすが。
「Voice of the Angel」なんかも(どこが天使なんだという突っ込みは置いといて)
金属ジャンクの煌めきの重なり方が実に美しさとノイズの狭間を進んでいて面白い。
トラック5はNurse With WoundとのスプリットLPだった「A Missing Sense / Rasa」(1986)から。
呪術的な怪しささえ漂うボイスも加わり、音楽のしめつけられるような異常さに拍車が増す。
トラック6-7は85年の「In Extremis」A面。B面はVolume Twoへ持越しです。
低音のどろっとした呻きと高音の甲高い金切声の乖離した感触が何とも言えずすごい。
特にトラック7の、ジャンク音響とハーシュノイズが一緒になってしまった空間は圧巻です。
初期オルガヌムの本気を見ることのできる、疑いようのない名盤。
限定500部。
Organum & The New Blockaders
PULP
2001 Robot Records RR-26
ノイズ音響の代表格2者が組んだ、それだけでとてつもない一枚。
同名のオリジナル音源に別イシューの再録、最後に未発表トラックと豪華。
虚ろで無機質な電子音ドローンが冷たく空間の地面を作る。
その上で激しくきしみもだえ、高音の音片をまき散らすジャンクノイズ。
Organumの硬派なドローンとNew Blockadersの金属ノイズが激しくバトルするとんでもない内容。
この激しい響きが3分ごとにぶつ切りされているので響きの落差もまた激しい。
「Wrack」「Raze」の部分も、響きに違いこそあれど基本コンセプトは同じようなもの。
というか、こっちの混然一体となって押し寄せてくるほうがヤバイ。
Razeパートの方はもはや完全に一体化していて、どろどろに溶けた響きが反射しまくっている。
さて未発表音源、これがまたとんでもない。風の荒ぶような低い虚ろな音に
金属ジャンクがくぐもったエフェクトの中でこれでもかとわめきたてる。
どれも短いテイクですが、とんでもなく強烈でした。
限定700部。
Pacific 231
Stif(f)le -Live in Russia
2008 Monochrome Vision
80年代から活動しているフランス出身インダストリアル・ノイズの代表格。
このCDはロシア3箇所でのライヴ音源を収録したもの。
ボディー・ジェスチャーを行い、それをモーション・センサーで音化、さらに
プロジェクターでの表示に連動させる一種のフィードバック演奏だったようです。
音だけを聴くと、サイン波などを基にした、荒漠な風景が延々と広がっていくノイズ・ドローン空間。
限定150部、ナンバリング入り。
余談、このプロジェクト名ってやっぱりオネゲルのあれのもじりなんでしょうか。
PBK / Hands To / AMK
System-Music-End
1995 Pure PURE 35
3アーティストによるスプリットCD。
どろどろと、爛れた音楽の断片が刻まれて積み上げられるトラック。くぐもった純電子音の変てこなハーシュノイズトラック。
どの曲も、歪んだ世界の中で混沌な光景が広がります。ただ、その世界は狭く閉じられている感じ。
前半はあんまり劇的な展開らしいのが無く、無秩序に重なっている印象が強いところが残念。
絞られたノイズが細かく不規則なパルスを奏でる6、8トラック目は面白いと思いました。
9はおちついたダークドローンで10はピエール・アンリにも似た電子音による擬似コラージュ。
Remesh
Choke
2008 Heart & Crossbone Records HCB-018
イスラエルの実験音楽家Van PazanowskiとPica/Cainらが結成したユニットによるデビューリリース。
廃墟のような荒れ果てたノイズドローンが吹きすさび、どろどろと電子音が入ってくる。
暗く重いドローンに、声の断片が虚ろに反響する。
じりじりと音がにじり寄り、音の爆発が次第に近くに押し寄せてくる。
後半のハーシュノイズ系の、爆弾とマシンガンが同時炸裂するような音響が見物。
ノイズにまみれたシャウトと相まって、かなり攻撃的な音が聴けます。
倒錯的な盛り上がりを見せてくれる、1トラック15分のCDR作品。なかなか良かった。
でも声は微妙かなあと自分が思ってしまう辺り、ドゥーム系ノイズ・ドローン曲。
S'atyr play / Ophibre
Eclipse
ドローン系作家のOphibreことBenjamin Rossignolと、
詳細のいまいちわからないアメリカのユニットS'atyr playによる共作。
冒頭、激しいノイズと物音、電子音と爆発音が絡み合う激しい世界。
アトモス系のノイズ・ドローンがかぶさり、へなへなと変調されたドラムが入る。
確かにドローンメインの作風ですが、曲ごとによって雰囲気はかなり異なる。
ハーシュノイズやら実験系電子音楽やらが入り混じった、不思議なアルバム。
悪くはないけど。あとジャケのモノクロ具合が気に入った。
Sickness / Slogun
The Scars Of Happiness / Always Numb
2005 PACrec/Tronics PACrec111/TRO-154
80年代後半から活動するChris GoudreauによるSicknessと
John BalistreriのSlogunによるスプリットアルバム。
2003年の日本ツアーのために限定100部製作された2×3インチCDRがオリジナル。
まずはSickness、カットアップを伴う激しいハーシュノイズと物音変調の嵐。
テープ操作などが得意なだけあって、激しく揺さぶられるような操作が実にうまい。
最後のトラック4だけ、低い語りを変調させたものがベースになる、展開のある音楽。
後半のSlogunは激しくシャウトが変調され、倒錯的な響きの中でノイズがのたうつ。
こちらもハーシュ系で十分に迫力はあったし、その音の作り方が面白かったけれど
やっぱり聴くならSicknessのほうが好みかな。
Small Cruel Party
Do You Believe In A Pencil?
1991 Small Cruel Party SCP-002
Key Ransoneによる実験音響の重鎮ソロユニット、初期アルバム。
ふわふわした、じりじりとノイズに焼かれる、両極端な2種類の電子音が
同一のくぐもった空間のなかで幾重にも混ざり合って、倒錯的な箱庭空間を作り出す。
似た様な音が延々と絡みあう様は(山田ノブオが言っているように)一定の流れを持った
時間軸の進行の中でねちねちとゆっくり音の構成を吟味していく作り方によるもの。
トラック2の金属ジャンク音が重々しく、深夜の瞬くような電灯を思わせる響きで積み重なる音楽も、
じわじわとそのマテリアルやエフェクトを限られた範囲内でゆっくりと変えていく。
Organumにも通ずる、渋い実験ジャンク音響です。
Spine Scavenger
The Raider
2006 Hanson Records HN 151(Cassette)
Hanson Recordsのオーナーでもあるノイズアーティスト
Aaron Dillowayの星の数ほどある変名の一つで出した30分カセット。
無機質な電子音が一本伸び、そこから次第に羽虫のような不安定なうなりが分離する。
渋い低音のうなりに変貌したり、そこから大きなうねりで肥大したりと、
地味にねちねちとノイズドローンが展開する作風。
B面では電子音が不定形に動き回り、旋律のような怪しげな音楽を奏でます。
後半のじりじりする低音のくぐもった爆発とか聴いていると、
このテープは鬱屈したものが十全に記されているのがわかる。
ただ、残念ながらあまり気に入るようなものではなかったかな。
Stillbirth
beautful hopes still forgetten
2008 Razors and Medicine RM009(Cassette)
ボストン出身のLuke Moldofによるソロ・プロジェクト。Stillbirth(死産)とか、なかなかいかれた名前だなあ。
A面では、甲高いかすかなノイズがじりじり、遠くでうなりを上げて立ち尽くしている。
まるで壊れた蛍光灯の発するノイズ音を収録したような、そんな光景。けれどその実体は絶えず不規則にゆらいでいます。
B面では、空気の激しい流れが生み出すような実態のないノイズがたちこめ、そこで鋭い音が瓦解していく。
大気ノイズはどんどん姿を変え、力を持ちながら激しさを増していく。だけどあくまで抑えられた響き。限定40部。
Stillbirth
All The Beds In Which I’ve Slept
2008 Razors and Medicine RM006(Cassette)
重々しいノイズがたれこめ、それが徐々に輪郭崩壊してささくれたノイズをばら撒いていく。
じわじわと絶えず変化する、灰色で無機質な金属的空間。ぶつぶつした音の加工が広漠感を扇情します。
やがて音は力の限界を超えて爆発、思い切り咆哮をした後ヒスノイズで幕を閉じます。
B面はそのテイク2みたいな感じ。こちらはさらに音のぶつぶつが鮮明で、どこかミニマルドローンな展開。
鈍い音が延々と続く風景から、後半はA面同様音がかなり変わっていく。限定60部です。
Sudden Infant
Ear Wash
2002 sssm sssm-104
例えば冒頭、男声やホルンの音がさりげなくいかれだしたと思ったらいきなりノイズになだれ込み。その後直ぐにミュージック・コンクレート風に。
素材からして変な音たちを多めに過激にコラージュし、耳につくように貼り合わせていく様は異様です。
コラージュしつつも元がどんな音であったかわかるような加工方法メインなのがそれを煽る。
その姿勢は顔のパーツを繋げた裏ジャケにも良く出てます。繋ぎ目にあまり違和感を持たせない繋ぎ合わせなので気持ち悪い。
このアルバムに関してはロック的なビート要素よりノイズ色が前面に出ていますね。
初めてこの人を知ったときは結構ロックよりの人と認識していたのでちょっと意外。
TO-BO
Noise, Sex & Drugs Part 3
2010 Shit Noise Records SNR 040
ドイツはメクレンブルク-フォアポンメルン州のTommy Bodoによるソロユニット作品。
風音を思いっきり加工したような、砂嵐状のハーシュノイズ。
徐々に砂粒が焦げ付いて、純電子音なノイズに様変わりします。
その後も40分弱の間、じりじり音要素が変わったりしていく。
絶えずごろごろと不安定に音が蠢くことによるいかれた感じが実に爽快です。
うん、思いっきり大爆発してくれているので消化不良なく楽しめました。
あと、終わり方もこの手にしてはなかなか秀逸な気がする。
限定33部ナンバリング付き。CDR。おっぱい丸出し+ガスマスクの意味不なジャケ。
Towering Breaker
Purges
curor なし
イギリスで活動しているアンダーグラウンド・アーティストのCDR。
パルスみたいな勢いのハーシュノイズがマシンガンのように連射。まさにマシンガン・ノイズ。
そこにふわふわとした女声の断片ループが絡み込み、まるでドラッグでもキめこんだかのような激烈に怪しい世界が広がります。
お、これは良いノイズアルバムだと思っていると、トラック2は暗いドローンに
粘着質ノイズと断片的な旋律・物音の残滓が響く瞑想的な音楽に。
以降、微妙な不安感を煽る持続音やガラス瓶を叩く音、独特の女声が絡むトラック、
騒々しいハウリングみたいな音響のループにへなへなボイスのトラック、
ノイズがエコーの中でわんわんうなるトラックなどなど。
最初のトラックは勢いがよかったけれど、それ以外はまあよくも悪くもアンダーグラウンドらしいノイズ。
小さなバッジが特に意味もなく付いてくる。まあ絵柄のセンスは悪くない気がするが。
Uton
Pearls and Dust
2008 Taped Sounds なし
フィンランドのサイケドローンを得意とするアーティストの、3CDR限定盤。
Disc1は「Live in Europe」と題して2006年のDen Haag, Liege, Brusselsでのライヴを収録。
ささくれたギタードローンがでろでろと伸びていく、サイケな世界が3つ。
Disc2は2006年に88部限定でリリースされた「Substance Organic」を収録。
さらさらとした、流動状の質感を持ったドローンが伸び、ころころと音がささやかにばら撒かれる。
Disc3「The Missing Face」は、Disc2に比べるとギターやピアノをはじめ、多くの音源が聞き取れる。
アシッドサイケの直接的な影響が他2つのCDに比べ顕著に聞き取れる5曲。
極彩色メインの、いかれたアートワークが小型ブックレットで22Pに渡り付属してます。
Whitehouse
whitehouse present birthdeath experience
1993 susan lawly slcd006
ノイズ音楽最高峰の一つ、ホワイトハウスの歴史的な1st。
1980年に発表された、まさにノイズの金字塔の立ち上がった瞬間を示す記念的な名盤。
パルス状のノイズに変調された声が叫ばれる。
じりじりと溶けたノイズドローンの中で話される、落ち着きながらも狂気を持った朗読。
現代ならインダストリアル・ノイズやパワエレと言われるような音楽でそれっぽいことをやってる人がごまんといますが、
オリジナルのリリースされた年代やその内容の濃さを考えると、その他の存在なんて霞んでしまう。
この単純ながらも不定形な不安を促すノイズと、狂気と暴力性を表すヴォーカルの
シンプルきわまりない構成が、なんと鮮烈に聴こえることか。
年経ても色褪せないホワイトハウスの魅力を伝えてくれる一枚。
最後は無音のタイトル曲で終わり。
White Leather
Kitten With a Whip
2009 Excite Bike exbx111(Cassette)
Daniel DlugosielskiとKhristopher Reinshagenによるユニット。Idolatriesなんて変名もあるようです。
ミシガンのノイズレーベルから出てるってことはそこらで活動してるんでしょうか。
スペーシーな電子音と低い振動系ノイズが空間のあちらこちらで騒ぐ。
しりしりと絶えず音場が変貌しながら、低音メインに渋くどろどろと耳を攻めてくる。
B面も低音のごついノイズドローンを軸にして、まるで戦闘機のエンジン音のように音が横たわる。
特に展開がうまいわけでもないですが、この低音が耳をくすぐる感覚、ノイズらしくて心地いい。特にB面。
ハンドメイドの紙ケースに直接入ってます。30分テープ、限定30本。
Zbigniew Karkowski
Intensifier
walnut+locust wl002
フランスはリヨンで行われた、ノイズの大御所カルコフスキのライヴ録音。
様々な方位で繰り広げられる電子音爆弾の爆発。それに砂音のような音の波とわめくような電子波が覆いかぶさってきます。
上で動くノイズは激しく動き回ることもあれば停滞もします。というか、大きな変化はこのパートくらい。
時には砂に隠れたり、または警告音のように激しく主張したり。そのじわじわした展開がストイック。
というか、この人のはもともと渋いノイズが多いですよね。ドローン状の構造がキーになる。
そういう意味でメルズバウとははっきり線が引けるでしょう。ざりざりしたノイズが耳に残る、戦場の効果音的な音楽です。
最後の、砂嵐が他を圧倒していく様は聴いていて爽快。
限定500部。
Zbigniew Karkowski & Helmut Schafer
Disruptor
1999 OR ERROR 6
カルコフスキとここでコンビを組んでいるのは、オーストリアのコンピュータ音楽作曲家。
このCDをはじめいくつかCDを出してますが、2007年に逝去されたようです。
1曲目、カルコフスキお得意のノイズに乗って、リズミカルで扇情的なビートが聴こえてくる。
ただ、それ以外の場所は何時も以上にドローン風味。動きが少なく、ハードな音が伸びている。
2曲目はノイズがストイックにうなる。3曲目はノイズがダウナーなビートとうまく融合しながら展開。
3曲目が、完成度としては一番できていると思いました。
限られたノイズでハードな世界を作るカルコフスキに、シェフェールの技術が華を添えている感じでしょうか。
11/7
choc.195
2009 Chocolate Monk choc.195
アーティスト名がなし、アルバム名もカタログ番号の流用というふざけた面構えですが、
中身はあのAndrew Zukermanによるものです。
(春の祭典みたいな)クラシック音楽、鳥のさえずり、電子音、ノイズ、ギター、
いろんな音がくぐもった音響の中からカットアップされて聞こえてきます。
最初は落ち着いたクラシックと自然音がのんびりループしながら混じっていくコアな展開ですが、
いきなり過激に編集された音たちがばらばらとスイッチングされ、じりじりと曖昧な音がのたうつ。
短いトラックごとにかなり表情がかわり、響きは地味でもその切り替わり具合は相当いかれています。
その能面的な表情のなさが、逆に音楽の異常さを引き立てていて良い。
30分間のなかでかなりのいかれたバリエーションが聴ける、楽しい一枚。
生きている価値あり
オシリペンペンズ;神を探しに
Garamon Kaminoki + A.O.L.;なんでもいいからヤッちまえ
猿股茸美都子;絶望的流転岩
スハラケイゾウ+ノイズわかめ;死神に出会う時のように
Doodles;Love Love Love
Solmania;赤いこころ
カコイヨシハル;さようなら・こんにちは
ナスカ・カー;ダメ人間
沢口みき&尾谷直子;三月の雪
Masonna;漆黒
Alchemy Records ARCD-167
JOJO広重の曲をアンダーグラウンドのアーティストたちがカバーしたトリビュートアルバム。
オシリペンペンズの気の抜けた演奏とボーカルと対照的な練られた世界。
Garamon Kaminokiの独特なボイスの暴れるノイズ。
猿股茸美都子の、内向的なギターとボーカルによる美しく非現実的な音楽。
スハラケイゾウ+ノイズわかめの、ノイズとリフが乱れるフリーな楽想。
Doodlesは、ギターとドラムの淡い音楽の流れにふわりとボーカルが入る。
Solmaniaの淡々としたギターの暗い歌。カコイヨシハルのノイズにまみれたダークなリズム。
ナスカ・カーがその流れを受け継いでサイケなミニマルをギターとノイズで展開する。
ギターとノイズが割れながら湧き上がり、つぶやきが加わる沢口みき&尾谷直子。
最後のマゾンナはいつも通り叫びの過激編集。
カコイヨシハルとか良かった。
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